見出し画像

アンドロイド転生897

(回想)
2118年8月31日 夜
葛飾区:カガミソウタの邸宅

退院したソウタだが、まだ身体は病み上がりで万全ではない。そんな状況に1人で放ってはおけない。食事などソウタが作るとは思えないのだ。だから平家カフェで養生しろとリツは提案した。

だがソウタは拒否した。庭に弔ったスミレを1人にしたくないと言うのだ。アリスはその気持ちが痛いほど理解が出来た。
「じゃあ…私がここに残ります」

リツはその言葉に賛同した。元ナースのアリスがいれば安心だ。平家カフェの戦力がまた失われるが(チアキは上野で暮らしている)大丈夫だ。元は親子3人で切り盛りしていたのだから。

リツは自慢げに微笑む。
「アリスは何でも出来ます。ナースだけじゃない。家事だってエキスパートですよ」
「そうです。任せて下さい。ソウタさん」

ソウタは神妙な顔をしていたが、やがて有難うと言って頷いた。ここは遠慮などしないで素直に従おう。なんたって家事も炊事も全てスミレ任せにしていて何も出来ないのだ。

この先、執事を雇う事になるのかもしれない。いや…この際…自分でやってみようか。きっとスミレも喜ぶに違いない。引き篭もりの自分の変化を誰よりも望んでいたのだから。

ソウタはアリスを見つめた。
「色々教えてくれるか?頑張るから」
アリスは喜びで胸が一杯になった。スミレを失っても彼は前向きに生きようとしているのだ。

アリスは立ち上がった。
「お茶を淹れて来ます」
男達は頷いた。そして互いに真剣な表情になった。さて…これから復讐の打ち合わせだ。

ソウタは寄りかかっていたソファから起き上がった。瞳に決意が漲っていた。
「リツ。俺は考えたぞ。ゲンを倒す方法を」
「はい」

アンドロイドには所有者(ラボ)がおり、企業や個人に派遣される。派遣先が契約者だ。そこで人間とアンドロイドの主従関係が生まれるのだ。アンドロイドは契約者の命令を完遂する。

ゲンを意のままにするには主従関係が必要だ。ソウタは不敵に笑った。
「俺が契約者になれば良いんだ」
「でも…ゲンの契約者は…スオウだ」

ソウタは顔を引き締めた。
「そう。あのスオウトシキだ」
「うん…しかもヤクザですよ」
「だけどゲンの事なんて眼中にないと思う」

ゲンはスオウが経営する新宿のクラブ夢幻から逃げ出したのだ。乱闘騒ぎに乗じてこっそりと。スオウは変わらず契約者のままだ。だがゲンが逃亡した事など今のスオウにとってどうでも良い話だ。

何せ彼はクラブ夢幻の所有者なのだ。乱闘事件で84人も被害者が出た事で責任者として追求されており、しかもドラッグの温床だった事からそれについても捜査されている。

一度は勾留されたが保釈金を払って今は一時的に身柄が解放されている状況なのだ。アンドロイドの行方などに構っていられないのである。ゲンが大金を奪っている事も念頭にないと思われる。

リツはうーんと唸った。
「あっさりと契約者の立場を譲ってくれるとは思えないけど…何か策があるんですか?」
「うん。それをこれから考える」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?