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アンドロイド転生885

2118年9月20日 午後6時近く
都内某大学:美術部室

モデルの仕事が終わったシオン。元々活動的ではない彼でも2時間も椅子にただ座っているのは疲れてしまった。それでも部員達の作品を見て嬉しかった。来て良かったと思った。

そんなシオンの前に女性がやって来た。スワヒマリと名乗った彼女は、8月生まれで向日葵が名前の由来だと笑った。確かに夏の太陽の下が似合う快活そうな女性だった。

シオンは頭を下げた。
「初めまして。宜しくお願いします」
ヒマリも微笑むとトウマを見上げた。
「この後どうする?ご飯でも行く?」

「そうだな…。シオンも一緒に行かないか?」
「え…」
ヒマリがニッコリとする。
「うん。3人で行こう!」

3人で…。トウマと2人きりがいい…。いや。それも緊張してしまうだろう。だけど…どうして3人なんだ?この女の人は何なんだ?直ぐにシオンはハッとなる。も、もしかして…。

「トウマの彼女です。トウマとは2学年違うの。22だよ。付き合って半年。シオン君に会いたかった。だから今日は嬉しい。宜しくね」
シオンは頭に岩でも落ちたような気分になった。

「ねね?聞いて。トウマは10月生まれだから漢字で十の真って書くのね。で、トウマの妹は7月だからナナエ。弟は3月だからミツキって言うんだって。シオン君は紫の瞳だから?」

なんてよく喋る人なのだとシオンは目を白黒とさせた。やっとの事で、そう…自分は漢字で紫の音だと応えた。ヒマリは素敵だと言って拍手して笑った。笑顔は確かに可愛らしい。

でも…とシオンは暗い気持ちになる。そうか。トウマにはやっぱり彼女がいるのかと知って心がざわついていた。当然だ。こんなにカッコいいんだからと思う反面寂しかった。

トウマとヒマリが店を決めるために話を始めた。意見が飛び交っている。親しげな雰囲気が恋人同士なのだと思う。2人の邪魔をするのは嫌だし、仲の良い彼らを見るのも嫌で断ろうと思った。

「よし!イタリアンにしよう!行くぞ!シオン」
「え…でも…僕は…」 
ヒマリがシオンの腕を組んで引っ張っていく。
「さぁ、早く!早く!」

なすがままになってシオンは歩き出す。20分後。3人はレストランにやって来た。トウマとヒマリはビール。シオンは炭酸水にした。3人は乾杯する。ゴクゴクと喉を鳴らした。

シオンは緊張で喉が乾いていた事に気付いた。これはモデルをしたからじゃない。トウマとヒマリが気になって仕方がなかったからだ。馴れ初めは…どうなんだろう…。

トウマがメニューのホログラムを立ち上げた。
「シオン。なんでも好きな物を選べよ」
「う…うん。ピザかな…マルゲリータかな」
「シオン君!肉よ!ガンガン肉を食べなさいよ」

シオンは少しだけ不愉快な気持ちになる。放っておいてくれ。余計なお世話だ。食べたい物を食べるんだ。ヒマリはグイグイとくる性格らしいがそういうのは苦手だとシオンは思った。


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