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アンドロイド転生884

2118年9月20日 午後3時過ぎ
都内某大学:美術部室

トウマの大学までやって来たシオン。キャンパスでは女性達が彼を囲んだ。誰もがシオンの美を称賛した。トウマに連れられてシオンは美術部の部員達の前に立った。

トウマの所属する美術サークルは部員が30名。部長を始め誰もがシオンの登場に息を呑み絶賛した。やはり美は最強なのだ。部長に勧められてシオンはスツールに腰掛けた。

シオンは国民になって約2ヶ月が経った。注目されることに慣れてきた。それでも絵のモデルは緊張する。俯き加減になった。それがまた憂があるのだ。学生達は溜息をついた。

トウマはニッコリとする。
「気楽にな。心の中で歌でも唄ってろ」
「は、はい」
トウマは自分の席に座ると鉛筆を取った。

室内が静寂に包まれる。部員達はデッサンに集中し始めた。ペンの音が漣のようだった。歌でも唄っていればと言われたものの、それどころじゃなかった。シオンはトウマを盗み見た。

トウマは時々顔を上げてシオンをじっと見てスケッチブックに戻るを繰り返す。伏せた目が理知的だ。鼻筋が整っており頬がシャープだった。ああ、なんてカッコいいんだろう…。

シオンは直ぐに部員達に注目される事に慣れた。と言うよりもトウマ以外の人間の存在を忘れたのだ。シオンにとって今この時間は彼に見つめられて過ごす幸せな時だった。

2時間後。トウマはシオンに水を渡した。
「疲れただろ?」
シオンは水をごくごくと飲む。
「はい。少し…」

元来活動的ではないシオンでも2時間も椅子にじっと座っているのは骨が折れた。これがモデルになると言う事なのかと実感した。
「トウマさん。絵を見せて下さい」

するとそれを聞きつけた女性がやって来た。
「お疲れ様。私のを見てくれる?」
ショートカットで溌剌とした雰囲気だ。
「は、はい」

シオンは回り込んで彼女のデッサンを見た。横から見たスタイル。横顔に日差しが当たり髪が透けている。細身の身体は頼りげな雰囲気だ。へぇ…!僕はこんな風に見えるのかと思う。

次々に部員に声を掛けられてひとつひとつじっくりと見た。29通りの自分が紙の中に収められていた。最後にトウマの作品を見た。自分がこちらを見ている。綺麗だなと思う。

シオンは何度も頷いた。僕はまた新しい世界を知ったのだ。来て良かったと思った。
「皆さん、有難う御座います」
部員達は微笑んだ。

部活動がお開きになり部員達が教室から去って行く。誰もが口々にまたシオンに会いたいと言った。シオンもまたここに来たかった。トウマとシオンの側に先程の女性がやって来た。

「改めてこんにちは。私はスワヒマリって言うの。8月生まれ。ヒマワリが名前の由来」
シオンは頭を下げた。ヒマリのハキハキとした物言いは本当に向日葵のように快活だった。

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