小暮沙優

声楽家 | 作家 | 演奏、執筆、楽曲・絵画制作 | NHK「若冲を発掘したアメリカ人…

小暮沙優

声楽家 | 作家 | 演奏、執筆、楽曲・絵画制作 | NHK「若冲を発掘したアメリカ人」主題歌担当 | 朗読モノオペラ《つなぐ》 | 里俳句会同人 | 二期会会員

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  • 小説「弦月湯からこんにちは」(全15話)

    仕事も、住処も、すべてを失った。拾われた先は、銭湯だった。世界的なツァイトウイルスの流行によって、仕事も住処も失った山口壱子。ある朝、意を決して外に出た壱子が辿り着いたのは、ガウディへのオマージュに満ちた銭湯「弦月湯」。住み込み募集の張り紙を見つけた壱子は番台にいた小柄な女性、若月いずみに思わず声をかける。いずみの従弟であり、かつて壱子のもとで働いていたノンバイナリージェンダーのデザイナー・若月暦との再会、そして弦月湯の再建を通じて壱子の心は蘇り始める。 喪失からの再生の過程をゆるやかに描く長編小説。🍀創作大賞2024恋愛小説部門応募作品。

  • 《ヴェーゼンドンク歌曲集》

    ワーグナー作曲《ヴェーゼンドンク歌曲集》の訳詩です。全5曲プラス、イゾルデの愛の死です。

  • 《女の愛と生涯》訳詩

    シューマン作曲の歌曲集《女の愛と生涯》の訳詩です。敬愛するジェシー・ノーマンの歌唱で、各曲をご紹介させていただきました。ぜひこちらも併せてお楽しみください。

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小説「弦月湯からこんにちは」第1話(全15話)

【あらすじ】 * 第1話 * ──「お目覚めかね、イチコ」  いつもの低いしゃがれ声が聞こえる。肩に置かれた手は、ずっしりと重い。見上げないでも分かっている、そこには獅子頭の男がいる。舌なめずりしながら、私を待ち構えている、獅子頭の男が。  あたりを見回す。いつもの白い部屋にいた。床も、壁も、天井も、どこもかしこも白くて、つるつるしている。換気扇が回るぶーんという音が、薄く聞こえる。夢の中だとはわかっていても、あまり気分のいいものではない。私は、ため息をついて、

    • Facebook「駒込を楽しみ隊」の川上さん主催の読書会が、7/14(日)14-16時に開催されます。 村上春樹先生の「海辺のカフカ」を語る会。会場は巣鴨のカフェ・ポート・グラスゴーです。 https://cafeportglasgow.mystrikingly.com/

      • 6/23(日)ソフィアザールでのピアニスト・蓜島啓介さんとのデュオリサイタル「ドイツロマン派における愛の表現」、充実の初回合わせでした。 合わせの後、蓜島さんのインタビューをさせていただきました。芸術への思い、今後取り組みたい作曲家などのお話をお伺いしました。近日公開予定です!

        • 小説「弦月湯からこんにちは」第15話(最終話)

          これまでのお話 ・第1話はこちら ・第2話はこちら ・第3話はこちら ・第4話はこちら ・第5話はこちら ・第6話はこちら ・第7話はこちら ・第8話はこちら ・第9話はこちら ・第10話はこちら ・第11話はこちら ・第12話はこちら ・第13話はこちら ・第14話はこちら * 第15話(最終話) *  10月のある晴れた定休日。いずみさんと暦くんのと私の三人で、隣町の王子にある飛鳥山公園にピクニックに出かけた。暦くんの個展「みんなの

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        小説「弦月湯からこんにちは」第1話(全15話)

        • Facebook「駒込を楽しみ隊」の川上さん主催の読書会が、7/14(日)14-16時に開催されます。 村上春樹先生の「海辺のカフカ」を語る会。会場は巣鴨のカフェ・ポート・グラスゴーです。 https://cafeportglasgow.mystrikingly.com/

        • 6/23(日)ソフィアザールでのピアニスト・蓜島啓介さんとのデュオリサイタル「ドイツロマン派における愛の表現」、充実の初回合わせでした。 合わせの後、蓜島さんのインタビューをさせていただきました。芸術への思い、今後取り組みたい作曲家などのお話をお伺いしました。近日公開予定です!

        • 小説「弦月湯からこんにちは」第15話(最終話)

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        • 小説「弦月湯からこんにちは」(全15話)
          15本
        • 《ヴェーゼンドンク歌曲集》
          5本
        • 《女の愛と生涯》訳詩
          8本

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          小説「弦月湯からこんにちは」第14話(全15話)

          これまでのお話 ・第1話はこちら ・第2話はこちら ・第3話はこちら ・第4話はこちら ・第5話はこちら ・第6話はこちら ・第7話はこちら ・第8話はこちら ・第9話はこちら ・第10話はこちら ・第11話はこちら ・第12話はこちら ・第13話はこちら * 第14話 *  9月になった。弦月湯での暦くんの個展「みんなの愛と生涯」が始まった。ツァイトウイルスの影響のため、時間による入湯制限を設けながらの個展だったが、常連さんや離れに住む

          小説「弦月湯からこんにちは」第14話(全15話)

          小説「弦月湯からこんにちは」第13話(全15話)

          これまでのお話 ・第1話はこちら ・第2話はこちら ・第3話はこちら ・第4話はこちら ・第5話はこちら ・第6話はこちら ・第7話はこちら ・第8話はこちら ・第9話はこちら ・第10話はこちら ・第11話はこちら ・第12話はこちら * 第13話 *  暦くんの個展が始まる前日、久しぶりに獅子頭の男の夢を見た。そういえば獅子頭の夢を見る頻度が随分と少なくなっていたことに気付き、驚いた。前の社員寮を出ていかなくてはならなかった頃には、夢に

          小説「弦月湯からこんにちは」第13話(全15話)

          小説「弦月湯からこんにちは」第12話(全15話)

          これまでのお話 ・第1話はこちら ・第2話はこちら ・第3話はこちら ・第4話はこちら ・第5話はこちら ・第6話はこちら ・第7話はこちら ・第8話はこちら ・第9話はこちら ・第10話はこちら ・第11話はこちら * 第12話 *  弦月湯で個展を開きたい。暦くんがそう言ってきたのは、それからしばらくしてからのことだった。 「ねーちゃんからも承諾得てます。空いている期間があったら、2日間とかでもいいんですが」 「ちょっと待ってね」  

          小説「弦月湯からこんにちは」第12話(全15話)

          7/21(日)ヴァイオリニスト・中條萌乃さんをお迎えして、自身初の音楽個展をソフィアザールさんで開催させていただくこととなりました。 堀田季何先生の『人類の午後』をもとにしたモノオペラ(抜粋)、句集『広島』を底本とした朗読モノオペラ《つなぐ》などから演奏します。

          7/21(日)ヴァイオリニスト・中條萌乃さんをお迎えして、自身初の音楽個展をソフィアザールさんで開催させていただくこととなりました。 堀田季何先生の『人類の午後』をもとにしたモノオペラ(抜粋)、句集『広島』を底本とした朗読モノオペラ《つなぐ》などから演奏します。

          小説「弦月湯からこんにちは」第11話(全15話)

          これまでのお話 ・第1話はこちら ・第2話はこちら ・第3話はこちら ・第4話はこちら ・第5話はこちら ・第6話はこちら ・第7話はこちら ・第8話はこちら ・第9話はこちら ・第10話はこちら * 第11話 * 「壱子さん、ガリガリ君食べます?」 「……食べる」 「ちょっとひと休みしたほうがいいっすよ。それにしても暑いなあ」 「ちょっと、ここまで終わらせちゃうから待ってて」 「はいはい」  いつの間にか、季節は巡って7月になった。緊急事態

          小説「弦月湯からこんにちは」第11話(全15話)

          近くの萩の湯さんで、湯上がりに日曜日限定のめちゃくちゃ辛い麻婆豆腐ごはんを食べました。お腹がドンドコしています…!

          近くの萩の湯さんで、湯上がりに日曜日限定のめちゃくちゃ辛い麻婆豆腐ごはんを食べました。お腹がドンドコしています…!

          《ヴェーゼンドンク歌曲集》訳詩──5.夢

          ねえ、どんなに素晴らしい夢が 私の感覚を捉えて離さないのでしょう それゆえ空虚な泡沫ではなく 荒涼とした空虚へと消え去るのか 夢、それはいつでも 毎日美しく花開き そして天からの報せと共に 人々を通じて穏やかに巡る 夢、それは気高い光のように 魂へと沈む そこに永遠の像を描くために すべての忘却、唯一の想い! 夢、それは春の太陽が 雪から出た花々に口づけする時のように それゆえ予感もしない至福の歓びに 新しい日に挨拶をする それゆえそれは育ち、それは花咲き、 夢見なが

          《ヴェーゼンドンク歌曲集》訳詩──5.夢

          小杉湯となりを見学しました

          ずっと憧れだった銭湯があります。 それは、高円寺の小杉湯。 もともと銭湯が好きだったので、都内のいろんな銭湯に浸かりに行ってました。その中で、ひときわ気になりながらも、勝手に敷居の高さを感じてしまって行けなかったのが、小杉湯さんでした。 SNSで見るたびに憧れは増していくばかり。でも、そんな憧れの場所に自分が身を置いていいのかしらというためらいが邪魔して、お伺いすることはずっと出来ずにいました。 「小杉湯となり」を運営される銭湯ぐらしの加藤優一さんの著書「銭湯から広げ

          小杉湯となりを見学しました

          「弦月湯からこんにちは」、最終話に向けて来週は月曜日から金曜日まで1話ずつ公開していきます😊🇪🇸🌈 5/31、完結予定です。どうぞよろしくお願いいたします🍀

          「弦月湯からこんにちは」、最終話に向けて来週は月曜日から金曜日まで1話ずつ公開していきます😊🇪🇸🌈 5/31、完結予定です。どうぞよろしくお願いいたします🍀

          小説「弦月湯からこんにちは」第10話(全15話)

          これまでのお話 ・第1話はこちら ・第2話はこちら ・第3話はこちら ・第4話はこちら ・第5話はこちら ・第6話はこちら ・第7話はこちら ・第8話はこちら ・第9話はこちら * 第10話 * 「壱子さん、ねーちゃん、まずは朝飯食いましょう。腹が減っては何とやらです」  暦くんはそう言うと、ガスをつけて昨日の豚汁を温めはじめた。卵を三つ割って入れる。 「一汁一菜でいいって、土井善晴先生も言ってるけど、あれって理にかなってるんですよね。前に土

          小説「弦月湯からこんにちは」第10話(全15話)

          《ヴェーゼンドンク歌曲集》訳詩──4.痛み

          太陽よ、お前は毎晩泣く 美しい目を赤くして 海の鏡に沈みながら 早い死がお前を捉える時 それでもなお、古い華やかさの中からお前は甦る 薄暗い世界の栄光よ お前は朝に新しく目を覚ます 誇りを持った勝利の英雄のように ああ、それをいかに私は嘆くべきだろうか どのように、私の心は激しく、お前にあこがれるか 太陽はそれ自身ひるまなければならないのか? そして死だけが生を産み 痛みだけが至福の歓びを与える ああ、いかに私は感謝しよう その自然が、私に、痛みを与えてくれたことを

          《ヴェーゼンドンク歌曲集》訳詩──4.痛み

          蘭州牛肉麺を食べながら

          前略、華さん。お元気ですか? いま、蘭州牛肉麺を頼みました。 蘭州牛肉麺をご存じですか? 「蘭州拉麺」という名称の方がメジャーですが、ついつい蘭州牛肉麺と呼んでしまいます。ちなみに、牛肉麺と書いて「ニュウロウメン」と読みます。 数十種類のスパイスの入った牛骨ベースの透明なスープに、パクチーと薄切りにしたニンニクの芽、そしてやっぱり薄切りにした牛肉と大根を具にした、蘭州発祥の麺です。自家製の辣油もかかっています。 お店にもよりますが、目の前で職人さんが好みに合わせて麺を

          蘭州牛肉麺を食べながら