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新たな世界での映画体験(TENET テネット 感想)

この映画は「体験」です。
ちょっと前に流行った「リアルな現実世界」を体感するという類いのやつより一段階上のものです。
そしてそれは予備知識がなければない分、ダイレクトに頭をおかしくします。
ということで、最低知識だけで見に行きたい!という方はこんなところを見ている場合ではないので、一刻も早くIMAXで見に行ってください。
別の軸の世界でまたお会いしましょう。

ちょっとだけ鑑賞前にヒントが欲しいという場合は
・赤は「順行」
・青は「逆行」
・逆行時には音楽も逆再生

ということを覚えておくといいかもしれません。モチーフがそこかしこに出てきます。
それとパンフレットを確実に読んでおくこと。
※ただしパンフレットには人物に関するクリティカルなネタバレが一箇所程度記載されています。

さて、パンフレットをばっちり読み込み、予習もバッチリな皆様。
安心しましょう、その知識は全て鑑賞中ぶっ飛びます。

鑑賞前にパンフレットを生ビールを飲みながら読んで臨んだ自分:
「何も分からなかったことしか分からなかった……」
※幸いにもインセプションのユスフみたいにはなりませんでした。

<あらすじ>
ウクライナのオペラハウスでテロが勃発。特殊部隊に参加していた「名もなき男」は、観客を助けたものの捕らわれ拷問されてしまう。自決用の毒薬を飲んだものの「ある組織」に救われ一命を取り留める。目覚めた名もなき男は「ある組織」に、時間を逆行してやってきた未来の敵たちと戦い、世界を救うよう命じられる。未来と過去の仲介役セイターの狙いを探るうちに、セイターが核施設にあるプルトニウムを狙っていることを知るが――

とにかく時間の順行と逆行が複雑に絡み合う物語。物語の筋を追うだけで頭が一杯一杯。後半の順行と逆行が同時進行し始めると最早何が何だか?今君はどっちなんだ、どこへ向かっているんだ!?
となる訳ですが、ここは
「考えるな、感じろ」
ということなのでしょうね…。

恐らくこれから沢山の解説と考察が流れてくることかと思います。しかしノーランってインセプションの時もそうでしたけど、めちゃくちゃ複雑な設定を下に敷いておきながら、考察すればするほど、何か凄い矛盾というか穴みたいなのがドン!!って出てくる気がしています。
だから考察という楽しみは、かなり詳細な深掘りはできるものの、どこかで壁にぶつかるんですよね。
細かな設定を矛盾なく綺麗に通すより、テーマや人の感情を上層に置いていて、そちらが重要な場面では、設定をあえて曲げているんじゃないかと思っています。そこは映画の力を信じるノーランらしいなというかダイナミズムがあるんだよなと思います。

とはいえ、インセプションの千倍ぐらい複雑で変態なので、この人の頭の中はどうなっているんだろうとしか思えない…まあ、とにかく「よくこれを映像にしようと思ったな!?」の連続です…
予告でもありましたが車は逆走してくるし本物の飛行機は爆発してくるし…

ということで、正直、万人に勧められるかというとノーです。まず地上波では放映できないんじゃないかなこれ…意味不明すぎて…ストーリーの大筋や展開も賛否両論なのではと思います。
ただし、映画好きなら、いや、エンタメ好きなら、これを映画館(特にIMAX)で見ないのは、本当にもったいない、という気がします。
間違いなくマトリックスを超える、新たな映像「体験」です。VRのような仮想現実とは全く異なる、今目に見えない時間というものを体感させる凄まじい体験。

これを見終わり劇場を出た際に感じる、世界への違和感。風が逆に吹いているような、音が歪んでいるような、自分は今時間のどこにいるのか見失ってしまうあの感覚は、今まで経験したことがありません。
なので、少しでも気になったらぜひ、見に行って「体験」してきてください。脳が完全にバグるあの感覚を……そして残念ながら一度これを経験すると、また見たくなっちゃうんだよなぁ……。

ストーリーとしては、ノーランらしいキャラ立て方は相変わらずだったかな。
というかニールが…相棒が……いいな……あとキャットの美しさ本当に美しくて女神だ……
主人公含め彼らそれぞれの選択の動機にはやや説明不足な気がしないでもないのですが、まあスパっと最低限にしたことは、展開を冗長にせず世界に集中させる狙いもあるのかもしれません。

クライマックスの怒濤の時間の絡み合いで脳みそが理解を放棄しおかしくなってきたその最後に、ニールが最高の笑顔を見せてくれて、我々と名もなき男は、突然、荒ぶった世界から一人の人間の内側に視点が突然戻るんですよね。まさに、とっちらかってどこまでも広がった世界が、逆行によって突然しゅっと一点に収斂した感じ。

比較的冷静冷徹な主人公ですが、その「戻ってきた」一点によって、彼もまた「名もなきもの」から「名前のある」人間に戻る。勿論、何も知らない世界から見て彼は飽くまで「名もなき誰か」なんですが、ニールは名前のある彼を道標に時間を戻るのでしょうね…

時間の流れていく中で、我々が何気なく出会っている何かが、実は世界を救っている何かであり、もしかしたら我々こそ誰かの「名もなき男」なのかもしれません。

#映画 #TENET #テネット

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