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全国水族館の旅㉝ひみラボ水族館

博物館施設である水族館では、生き物の保全と研究も重要なお仕事です。日本国内には各地に多数の水族館が存在しており、個々に地域の生命を守り育てています。
希少種の保護の場としても重要な水族館。今回は北陸地方の研究展示施設にて、保全活動の真理と技術について学んできました。


水の生命を守り育てる地域密着型水族館

その名の通り、ひみラボ水族館は富山県氷見市に位置する水棲生物の研究展示施設です。正しくは「富山大学理学部・氷見市連携研究室」であり、まさに地域密着型水族館として、現地の生命の保全と生態研究を実施されています。特にイタセンパラという希少なタナゴ類の保全活動で本館は有名であり、ぜひともその飼育繁殖や保護の研究成果を学びたいと予てより思っていました。
大学の研究室も兼ねる水族館ならば、学術性はとても高いので期待度はMAX。好きな分野を勉強するときは、最高にワクワクしますね。

魅力的な海洋生物の宝庫・日本海。今回の舞台は内陸地にある水族館ですが、富山県に来たらやはり海を拝んでおきたいですね。

スタートは氷見市のお隣の高岡市です。この街にはレンタカー屋さんがたくさんありますし、水族館の近辺へ向かう路線バスも出ています。生物マニアの方々は時間を忘れて観覧に熱中するはずなので、迷わずレンタカーを選んでください(笑)。

レンタカーを借りるなら高岡駅か新高岡駅がオススメです。緑豊かな富山県の道を、のんびりとドライブしましょう。

高岡駅から車で20分ほど走れば、ひみラボ水族館に到着します。施設は緑豊かな里山の高台に位置しており、地域自然の生き物たちの研究をするにはとても良好な環境だと思います。静かな田畑が広がる光景を眺めていると、心が癒されますね。

ひみラボ水族館の周辺は自然が豊かで、とても静かな環境です。里山の水棲生物研究にはぴったりですね。
高岡市から車で20分ほど走れば水族館に到着します。地域密着の学術施設、とても気になります。

ひみラボ水族館は、仏生寺小学校をリニューアルして生まれた学術施設であり、建屋やグラウンドには学校らしさが色濃く残されています。学校としての役目を終えた後は水族館へと生まれ変わり、学術研究と教育の両面で活躍し続けているのは本当に素晴らしいと思います。
イタセンパラをはじめとした水棲生物の保全研究施設。生体展示と共に、学術的な情報も余すところなく見て学びましょう。

ひみラボ水族館の建屋。氷見市における水棲生物の研究と保全の拠点です。
グラウンドにも学校らしさが見受けられます。子供の頃の日々を思い出してしまいますね。
水族館の入口前では、ミニブタなどの動物が飼育されています。餌やりなど小動物と触れ合う体験もできるので、来館者は多角的に本館を楽しめます。

次世代へ生命をつなぐ! 水棲生物の保全研究を学ぼう

氷見の美しい河川に息づく多様な淡水生物

入館直後、学校の下足室にあたるエントランスから、さっそく水族展示が始まります。氷見市の水域に棲む大小様々な在来生物・外来生物が一緒になって、来館者を淡水の世界へと迎えてくれます。楽しく濃密な学びの始まりです。

水族館のエントランス。たくさんの淡水生物の舞う大型水槽が目を引きます。
モツゴ、タモロコ、タナゴ類などの小型淡水魚たち。氷見の河川はとっても清らかで豊かなので、たくさんの水棲生物が棲んでいます。
少しだけ頭を出した外来魚カムルチー。水面に顔を出し、空気呼吸することができる特殊な魚です。
水族館スタッフお手製のキャプションとイラスト。とても親しみやすく、大人も子供もスムーズに展示生物の特徴を理解できます。

内装は小学校の面影を残しつつ、展示施設らしい広々とした空間に改装されています。エリアを仕切る扉や壁はなく、どこからでも好きな展示にアクセスして観覧できます。

かなり奥行きがある展示ホール。床や壁に装飾が施されていて、とても楽しい空間となっています。
全ての展示が1つの大ホールにおさめられています。好きな順番で水槽や資料を見て回りましょう。

「大学の理学部とつながっている水族館」と聞いたら、全ての生物マニアは、教員や学生の方々の研究資料展示に期待するはずです。本館展示エリアでは、研究室で実施されている生態調査・保全研究や、各学生さんの研究テーマの資料にお目にかかれます。
これから大学で研究に関わる学生さんは、ぜひとも研究内容のポスターをよく見ておいてください。研究者の道を志すなら、大きな学会でポスター発表することもきっとあるでしょうし、わかりやすい発表用ポスターはどういったものなのかを本館の展示から学んでいただきたいと思います

柱には大学の淡水魚研究のポスターが貼られています。環境DNAとは水中や土中に流出したDNAのことであり、それらを抽出・分析することで、環境中にどのような生物が棲んでいるのか明らかにできます。
調査や分析の方法だけでなく、「何のためにこの研究が必要なのか」「それをどう社会に役立てるのか」について、スマートにまとめられています。ハイクオリティなポスター発表をするためには、プロの作成資料を模倣しつつ、どんどん学会で場数を踏んでいくのがベストです
本館の学生スタッフさんの研究テーマに関する紹介。写真のポスターの内容は2023年度の研究情報ですので、今年度は新たな研究テーマに取り組まれていることでしょう。

氷見市は金魚飼育の業界でも注目を集めています。金魚に魅せられた地元会社員の方の手によって、丸型金魚「福ダルマ」が世に送り出されています。
独自交配によって生まれた氷見市の福ダルマの姿は、本館の展示で拝むことができます。技術者の方の愛情が受けて育った金魚たちに、たっぷりと魅了されてください。

究極の丸型金魚と言われる「福ダルマ」。技術者の方の愛と情熱によって、氷見市でたくさんの個体が生まれました。
新聞に載った氷見市の福ダルマ。技術者の方のすさまじい努力と情熱が記事から伝わってきます。
筆者の好きな品種はランチュウ。泳いでいる姿を見るだけで癒されます。
ペットとして金魚に迫る人気を誇るウーパールーパーです。実は手足や内臓を失っても約40日で再生することができ、彼らの再生能力は医療の面で注目されています。

そして、メインとなる氷見市の河川に生きる淡水魚たちの展示です。当地の水域は豊富な魚たちが生息する環境ですので、本館の展示魚種はとても多いです。魚たちは各分類群ごとに分けて展示されているので、種類ごとの特性を体系的に学習できます。

立ち並ぶたくさんの展示水槽。魚マニアの人は、こういった光景が大好きではないでしょうか(笑)。
淡水魚たちは、各分類群ごとに分けて展示されています。ちなみに、イタセンパラたちタナゴ類はコイ科の魚です
こちらのゾーンでも、手作りキャプションとイラストがいっぱい! コミカルな表現を駆使して、来館者にわかりやすく解説してくれています。ていうか、魚の絵が超うますぎる!
なんと、有名声優・緑川光さんが淡水魚解説のナレーションを担当されています。ぜひとも機器の再生ボタンを押して、超かっこいい美声にメロメロになりましょう(笑)。

氷見市に生息する淡水魚たちはとてもたくさんいて、本記事では紹介しきれません。ですので、ぜひ現地を訪れてご覧ください。かっこいい子も可愛い子もたくさんいて、必ず推しな魚が見つかることでしょう。

ヌマチチブ。イクメンな魚であり、卵が孵化するまでオスは我が子を守り続けます。
ヤリタナゴ。タナゴ類の中ではやや尖った体つきをしています。
タナゴ類のミナミアカヒレタビラ。富山県の条例にて捕獲が禁止されています
かっこいいナマズ。のんびりしたイメージとは対照的に、彼らは闇の中で獲物を捕食する夜行性のハンターなのです。
キタノメダカ。オスとメスでヒレの形が違うので、水族館を訪れたときによく観察してみましょう。

イタセンパラ復活への道! 地域と共に成し遂げる希少生物の保全

先述の通り、本館はイタセンパラ保全活動のプロフェッショナル。生き物にお詳しい人なら、イタセンパラがどれほど希少な魚なのかよくご存じだと思います。絶滅危惧種ⅠB類・環境省レッドリスト生物・国の天然記念物に指定されている超貴重な淡水魚なのです。
彼らの生息数が激減している主な要因は人為的な環境改変と、国内に定着したオオクチバスなどの外来魚による圧力です。ただ、後者の問題においては外来魚も被害者であり、はるかな故郷から日本へ連れてきた我々人間に原因があります。外来種は決して悪者ではない、という前提を理解したうえで生体展示の観覧を進めていきましょう。

ブラックバスことオオクチバス。イタセンパラだけでなく多くの在来淡水魚にとって大きな脅威であり、ときには自分の体長の半分ほどもある魚にまで襲いかかります。
有名な外来魚ブルーギル。めちゃくちゃ適応力の強い魚であり、日本国内において、最初はたった15匹から現在の状態にまで大繁殖を遂げました
中国からやってきたタイリクバラタナゴ。生態的地位の近い日本産のタナゴ類と競合するので、イタセンパラ減少の要因にもなっています。

在来魚と外来魚の展示水槽を一通り観覧したら、いよいよイタセンパラの展示コーナーへと突入しましょう。
氷見市はイタセンパラの数少ない生息地であり、生物学的に見てとても重要な地域です。1989年に野生の個体が30年ぶりに捕獲され、それ以来、氷見市ではイタセンパラの保護と増殖に取り組んできました。本地域で実施された研究と保全活動のレポートは学術的に極めて重要であり、全ての資料から多くの知識を吸収したいと思います。

イタセンパラの展示コーナー。絶滅危惧種の現状を学べる重要な場所です。
イタセンパラの生息地を地図上で図示。ご覧の通り、日本国内で彼らが確認されている地域はとても少ないのです。
本コーナーにおいても、緑川光さんの解説ナレーションが聞けます。イタセンパラの秘密について、ぜひ緑川さんの美声で語っていただきましょう。

イタセンパラの保全状況を知る前に、彼らの実像について学ばなくてはなりません。
まず目を引きつけられてしまうのは、氷見産イタセンパラの生体展示です。水族館と地域の人々が力を合わせて守る生命、いつの日にかまた多くの河川に満ちあふれてほしいと願います。
タナゴ類の例に漏れず、彼らは淡水二枚貝の中に産卵します。つまり、イタセンパラの個体数が回復するためには、清廉な水域環境と豊富な貝類が必要なのです。本コーナーでは、あらゆる展示資料を用いて、彼らの繁殖の秘密を伝えてくれます。

イタセンパラの生体展示。彼らを絶滅の危機から救うため、ひみラボ水族館と地域の人々が協同で保全計画に取り組まれています。
イタセンパラの樹脂標本。こちらはオスであり、繁殖期には体の色が赤くなり、ヒレ周辺が黒くなります。
イタセンパラの生活環の解説パネル。タナゴ類の産卵には淡水二枚貝が必要であり、イタセンパラを保全するためには、二枚貝の個体数調査も必要なのです
イタセンパラの繁殖行動の過程を模型で解説。貝の見つけ方から受精の流れまで、とてもわかりやすく学べます。
繁殖行動の記録写真。オスとメスが力を合わせ、貝の中に卵を送り込みます。

イタセンパラは氷見市の宝と言うべき尊い存在。彼らの保護には地域の子供たちや行政の人々が一丸となって取り組んでいます。たくさんの人が力を合わせ、交流を深めながら環境保全に取り組んでいくーーこれぞまさしく、地球を守る活動の理想的なモデルだと思います。

イタセンパラ保全活動レポート。彼らは大切な氷見の宝であり、地域をあげて様々な保護対策がとられています。
地元小学生の方々が作ったイタセンパラ保全ポスター。環境教育の一環として、小学校では子供たちがイタセンパラの稚魚の飼育を実施しています。
イタセンパラの保全活動は新聞でも度々取り上げられています。それほどまでにイタセンパラは貴重な魚であり、氷見市は素晴らしいサンクチュアリと言えます。

人為的な環境破壊により、数多くの生命が地球から滅び、今なお失われつつあります。危機に瀕する希少生物を救うために、自然を愛する大勢の人々が立ち上がりました。その崇高な保全活動の意義を、ひみラボ水族館は教えてくれます。

イタセンパラの聖地・富山県氷見市。水族館と地域が一体となり、環境保全に取り組む清流の街。そこには、地球環境を守るために学ぶべき強い想いがありました。

ひみラボ水族館 総合レビュー

所在地:富山県氷見市惣領1927

強み:イタセンパラの保全と生態について深く広く学べる総括的な展示内容、環境教育と保全生態学の知見が満載の豊富な学術資料、手作り資料でわかりやすく工夫された氷見市の淡水生物の網羅的な生体展示

アクセス面:運転免許をお持ちなら、迷わず車を運転して行きましょう。旅行者の方は、金沢駅前や高岡駅前でレンタカーを借りて向かってください。あいの風とやま鉄道の高岡駅や氷見駅から水族館の近くまで加越能鉄道バスが出ていますが、本数はやや少なめであり、駅に戻る便の時刻をしっかり計算したうえで来館しなくてはなりません。午後イチの便で来館すれば、高岡駅行きの便はちょうどいい時間に来てくれますが、万が一乗り遅れたら完全に詰みます。徒歩だと氷見駅や高岡駅までは数時間かかりますので、帰りのバスに乗れそうにない場合は、タクシー配車アプリを活用するかタクシー会社に電話してください

素晴らしく学術性・教育性の高い水族館なので、大人も子供も問わず万人に強くオススメできる研究展示施設です。特に、生物系の現役大学の方や、生物学の道を志す中高生の方に来館していただきたいと思います。研究者になって希少生物を絶滅の危機から救いたいと考えている方には、素晴らしい学びを提供してくれるでしょう。
多様な淡水魚の展示に、魚マニアの方々は大歓喜だと思います。スタッフさんのお手製の超ハイクオリティなイラストとわかりやすいキャプションの効果により、誰もが関心を持って楽しく観覧できます。
そして、本館は希少生物の研究保護施設として大切な役割を担っており、学術的なキャプションや研究ポスター展示には、とても重要な情報が満載されています。イタセンパラの保全研究のレポートには感動的なストーリーが込められており、大学と地域が連携した自然保護活動の素晴らしいモデルと言えます。地球環境と生き物たちの未来を考えるうえで、本館は大いなるヒントを私たちにもたらしてくれます。

展示生物のナレーションを担当されている緑川光さんのサイン色紙。声優ファンの方も、ぜひ本館を訪れてください。


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