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「稚拙で猥雑な本能寺の変」23

○シーン23 本能寺・信長の寝所・庭

信長、縁側で瞑想している。
脇に控えている蘭丸。たまともちは上手前。
どこからかコケコッコーと鶏が啼いている。

信長  「クックドードゥードゥルドゥー」
蘭丸  「一番鶏でございます」
信長  「蘭丸」
蘭丸  「はい」
信長  「この世で一番醜い生き物はなんだと思う?」
蘭丸  「・・・・・・ワニ?」
信長  「いいえ」
蘭丸  「わかりません」
信長  「人間よ」
蘭丸  「人間・・・」
信長  「互いに憎み合い、罵り合い、殺し合うのは人間だけ」
蘭丸  「はい」
信長  「私は少しでも美しくありたいわ」
蘭丸  「私もです」
信長  「あなたは?」
もち  「私もです」
たま  「何でもちが答えるんです」
もち  「いけませんか」

下手からフロイスがやって来る。

蘭丸  「フロイス様!」
信長  「どこ行ってたのよ?」
フロイス「大変な情報が入りました」
たま  「情報?」
フロイス「お入り下さい」

わざとらしく急いで来た雑兵姿の秀吉。

秀吉  「御屋形様!御屋形様!」
たま  「秀吉様!」
秀吉  「ああ御屋形様、生きてらっしゃいましたか!」
信長  「生きてるわよ」
秀吉  「ははー」
信長  「サル、備中高松はどうしたの?」
秀吉  「一大事でございます!事は急を要するゆえ」
信長  「何だというの?」
秀吉  「明智光秀が謀反!」
信長  「え?」
秀吉  「今まさに、光秀は軍を率いてこちらに」
蘭丸  「向かっているというのですか?」
秀吉  「そうだ」
信長  「・・・」
秀吉  「御屋形様、お下知をいただければ私めが光秀を蹴散らしてご覧にいれます」
信長  「サル」
秀吉  「はい」
信長  「光秀が謀反など本当に起こすの?」
秀吉  「残念ながら」
信長  「あの光秀が」
秀吉  「実は・・・光秀はずっと御屋形様のお考えに不服を漏らし続けておりました。そこに天照大神の預言書。光秀はこれ幸いと預言を天命とし、本能寺の変を起こすことを決めたのでしょうな」
信長  「信じられないわ」
たま  「お待ち下さい!父上は誰よりも御屋形様をお慕いしています。誰よりも御屋形様の家臣であることに誇りを持っています。御屋形様、サルを信じないで下さい」
秀吉  「お前がサルというな」
フロイス「しかし、光秀様がこちらに向かっているのは事実です」
秀吉  「そうだよ。それをどう説明するつもりだ」
たま  「でも・・・」
秀吉  「御屋形様、お下知を!」
信長  「・・・」

ドタドタと下手より光秀、秀満、忠興が甲冑姿で入ってくる。
蘭丸、柄に手をかける。

秀吉  「来たな光秀!」
光秀  「秀吉殿」
秀吉  「御屋形様、謀反人が現れましたぞ」
信長  「光秀。本当に来たのね」
光秀  「はは」
たま  「父上!」
忠興  「たま?どうしてここに」
たま  「御屋形様にお伝えください。父上は謀反をしに来たのではないと」
忠興  「控えていなさい」
秀吉  「光秀、お前は卑怯な奴だな。天照大神の天命として御屋形様を討ってもお咎めにはならないと思ったか」
光秀  「・・・」
秀吉  「だがそうはいかん。卑怯者は俺が成敗する」
光秀  「・・・卑怯なのはどっちだ」
秀吉  「お前は民のために政をすべきだと言いながら、自分を慕う者すら守ってやれないではないか」
秀満  「おのれ秀吉」
秀吉  「自分の娘くらい守ってやれよ」
光秀  「・・・」
秀吉  「蘭丸!軍を率いて光秀を殲滅してしまえ」
蘭丸  「・・・」
秀吉  「どうした?」
信長  「いないわよ」
秀吉  「は?」
蘭丸  「御屋形様は軍を連れておりません」
秀吉  「まさかそんな。織田信長公ともあろうお方が」
信長  「信じてたから」
光秀  「御屋形様・・・」

部屋の奥のほうから火があがっている。

信長  「なんか・・・臭くない?」
蘭丸  「御屋形様!火が!火が上がっております」
秀吉  「おのれ光秀!お前が火をかけたな!」
光秀  「・・・」
信長  「光秀、私を殺そうと思ってる?」
光秀  「お答えしかねます」
信長  「控えよ!」
みんな 「はは!」

秀吉、光秀、秀満、忠興、フロイス、たま、もち控える。

信長  「蘭丸」
蘭丸  「はい」
信長  「私は神になれそうにないわ」
蘭丸  「御屋形様」

信長が『敦盛』を舞う。

人間五十年 化天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり
一度生を受け滅せぬ者のあるべきか

信長  「(舞い終わり)光秀」
光秀  「ははっ」
信長  「天照大神の名の下に私を討ってみなさい」
光秀  「・・・」
信長  「手出し無用」
蘭丸  「は」

信長、抜刀。

光秀  「・・・」

光秀、秀満、忠興、抜刀。

信長  「これが最後の運試し」
光秀  「・・・」

四人、対峙するが、
光秀、いきなり座り込み、自らの首に刀を向ける。
倣って秀満、忠興も同様に。

たま  「父上」
秀吉  「え?」
信長  「どういうつもり?」
光秀  「これが明智の答えでございます」
信長  「明智の答え?」
秀満  「我らは御屋形様のお命を頂戴するためにここに来、そして自害することに決め申した」
たま  「どういうことですか」
光秀  「・・・」
たま  「旦那様」
忠興  「黙っておれ」
たま  「旦那様!」
光秀  「忠興」
忠興  「はい」
光秀  「お前は細川の者だ。刀を納めよ」
忠興  「義父上」
光秀  「これは明智家の問題だ」
忠興  「しかし」
光秀  「細川忠興殿」
忠興  「某は」
光秀  「刀を納められよ!」
忠興  「義父上」
光秀  「たまのところへ行ってやれ」
忠興  「・・・」

納刀したまのところへ行く忠興。

光秀  「秀吉殿」
秀吉  「なんだ」
光秀  「この筋書きならばお主との約束、違えておらぬはず」
信長  「約束?」
秀吉  「何を言っているのだ。俺は関係ないだろ」
光秀  「私の生涯において御屋形様を討つことは絶対にないと申したはずだ」
信長  「じゃあ自害もやめなさい」
光秀  「いえ。自害しなければならないのです」
信長  「何故?」
光秀  「それが某の『武士道』」
秀吉  「俺へのあてつけのつもりか」
光秀  「某亡き後は、秀吉殿が御屋形様を一層支えていくことと存じます」
秀吉  「なに?」
光秀  「それが明智の望み。秀吉様、くれぐれもお頼み申す」
秀吉  「・・・」
光秀  「さらばでござる」

光秀が刀を引こうとしたそのとき。
織部の声が聞こえる。

織部声 「待って!待ってくださーい」
秀吉  「何だ?」

下手から織部と平太が転がり込むように入ってくる。

忠興  「織部様!平太!」
平太  「遅くなりました!」
織部  「しずちゃんたち、逃げましたよ!」
秀吉  「え?ウソ」
織部  「本当です!」
平太  「ご安心ください」
忠興  「そうか!見つかったか」
秀満  「光秀様!」
光秀  「うむ」

納刀する光秀と秀満。

光秀  「で、しずはいずこに?」
織部  「え?しずちゃん来てないんですか」
光秀  「来てなどおらぬ」
平太  「来てない?」
織部  「いえでも明神くん、どんぐりが一緒だって」
蘭丸  「どんぐりが?」
秀満  「探しに行きましょう!」

穴のほうから変な声が聞こえる。

明神声 「うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
織部  「え?」

穴に近づいていく。
下手の穴から明神が顔を出す。

蘭丸  「どんぐり!」
明神  「ここどこ?」
織部  「本能寺だよ。何でこんなとこからでて来るのよ」
明神  「知りませんよ。穴を辿って来たんです」
織部  「しずちゃんとたねちゃんは?」
明神  「僕の足元ですよ」
織部  「だったら早く出なさいよ!」
明神  「何ですか」
織部  「しずちゃん!たねちゃん!」

明神出て来る。

蘭丸  「どんぐり無事だったか」
明神  「蘭ちゃん心配してくれたんですね」
蘭丸  「心配など・・・」
明神  「いたたたたたたたた」

しずとたねが顔を出す。

平太  「しず!」
しずたね「兄ちゃん!」

抱き合う平太、しず、たね。
それを見守る光秀。

平太  「しず、たね、良かった・・・怪我はないか」
しずたね「大丈夫だ」
織部  「よかった・・・無事でよかったです」
信長  「光秀、あの娘たちは?」
光秀  「しずは私の娘です」
たま  「え?」
信長  「百姓の娘じゃない」
光秀  「ええ」
秀満  「しず様は光秀様の落とし胤なのです」
信長  「落とし胤」
秀満  「ええ」
たま  「父上、あの百姓は私の・・・」
光秀  「姉だ」
たま  「ウソ?」
光秀  「ウソではない。たまの姉、しずだ」
たま  「姉上・・・」
忠興  「黙っていて済まなかった」
たま  「姉上様」
しず  「誰だ?」
秀満  「御屋形様、二人は秀吉様に捕らわれていたのです」
信長  「サルに?」
秀満  「御屋形様に謀反を起こさねば二人の命はないと」
信長  「そういうこと」
光秀  「先ほどはああするほかなかったのです。申し訳ございません」
信長  「私は光秀に裏切られたわけじゃなかったのね」
光秀  「天地神明に誓って」
信長  「サル!」

振り向くと秀吉が信長に襲い掛かって来ている。
秀吉は信長と光秀を殺そうとして。秀吉とその他で場が割れる。
下手に秀吉、上手に秀満、忠興、平太、蘭丸、信長、光秀、他皆様。

秀吉  「くそ!俺は偉くなりたいんだ!そのためだったらあんたの草履をあっためもするし、城だって一晩で作る。信長あんたのためじゃねえ、全ては俺が偉くなりたいからだ」
信長  「・・・」
光秀  「何を言っておる。お主は織田信長公一の家臣ではないか」
秀吉  「割に合わねえんだよ。俺がどんなに手柄を立てても信長は認めない。ニンジンを俺の鼻先にぶらさげて走らせるだけ走らせる。ふざけんじゃねーぞ」
信長  「・・・」
光秀  「それが家臣というものだ。お主はそんなことも分からないで御屋形様についてきていたのか」
秀吉  「偉そうな口を叩くな!バカにしやがって」
光秀  「バカになどしておらん」
秀吉  「俺が百姓の出だと思っていつも見下しているじゃないか」
光秀  「お主、そんな風に思っていたのか」

そこに下手より久作と八方斎が登場。

八方斎 「殿!」
秀吉  「おお久作、八方斎。信長と光秀を殺せ!」
八方斎 「殿、最早これまででございます」
秀吉  「何?」
八方斎 「すでに我らの軍勢は明智軍に包囲されております」
秀吉  「何だと?」
八方斎 「進退窮まりましてございます」
秀吉  「そんなバカな。久作!何か画策せい!」
久作  「申し訳ございません」
秀吉  「ふざけるな。お前は軍師竹中半兵衛の弟だろうが!」
久作  「ただのスッポンでございました」
秀吉  「・・・もう良い。俺はどうせ殺されるのだ・・・だがな」
秀吉  「ただ殺されるのは御免だ!」
光秀  「危ない!」

秀吉、信長に飛び込んでいくが、光秀がそれを阻止する。無様に倒れる秀吉。光秀、その首を取らんとする。

光秀  「秀吉、観念せい」
秀吉  「ねね・・・ねね、すまんかった」
織部  「待ってください!」

織部、秀吉を庇うように体を投げ出す。

明神  「織部さん!」
光秀  「どいてくだされ」
織部  「どきません!」
光秀  「どきなされ」
織部  「どきません!」
光秀  「どかなければあなたも斬ります」
織部  「斬らないでください」
明神  「織部さん、どうしちゃったんですか」
織部  「秀吉さんを許してあげてください」
光秀  「それはできぬ」
織部  「何でですか?」
光秀  「秀吉は御屋形様に弓を引いたのだ。生かしておくわけにはいかぬ」
織部  「仕方ないじゃないですか。秀吉さんは間違えちゃったんですから」
光秀  「間違えた?」
織部  「秀吉さんはねねさんに褒められたいだけなんです。こんなことしたのも全部ねねさんのためなんです。久作さんに聞きました。秀吉さんはねねさんのためならいいことだって悪いことだってやるって」
秀吉  「うるさい」
織部  「今回のことだってねねさんのために偉くならなくちゃって思ってしまって行き過ぎてしまっただけなんです」
光秀  「だとしてもだ」
織部  「光秀さんだって間違えたじゃないですか」
光秀  「何?」
織部  「あなたしずちゃんを捨てたことが正しかったって思い込もうとしてましたよね。しずちゃんが幸せならそれでいいって。あなたがしずちゃんを捨てたからこんなことになったんじゃないですか。でもあなた間違いに気づいて、しずちゃんのために命まで懸けたじゃないですか。全部しずちゃんのためですよね。秀吉さんと何が違うんですか」
光秀  「・・・」
織部  「みんな大切な誰かのために生きてるんです。大切な誰かのために生きるから頑張りすぎちゃって失敗もしちゃう・・・そう思いませんか?」
光秀  「・・・」
織部  「失敗したら次に失敗しないようにすればいいじゃないですか。失敗して、失敗して、それでも誰かの幸せのために立ち上がるのが人間じゃないですか・・・僕なんか失敗だらけのダメ人間です。この時代に生まれてたらきっとすぐに殺されちゃってます。明日香のことだって全然幸せにしてあげられてない・・・でもずっと幸せにしたいって思ってます。その想いだけが僕が生きている証かもしれない。それじゃダメなんですか?誰かを幸せにしたいって思う・・・それが一番大切なことなんじゃないですか」

はたと状況に気付いて。

織部  「なんかすいません・・・秀吉さん、ねねさんのために頑張り過ぎちゃったんですよね」
秀吉  「ねね・・・」
信長  「・・・光秀」
光秀  「はい」
信長  「私も間違っていたのかしら」
光秀  「御諫言申し上げてよろしいでしょうか?」
信長  「ダメなんて言ったことないじゃない」
織部  「え?そうなんですか」
信長  「誰も諫言してくれないだけ」
織部  「ほら!光秀さん!」
光秀  「御屋形様におきましては、世界平和の前にすべきことがあると思います」
信長  「言いなさい」
光秀  「この国は応仁の乱からこれまで絶えず戦が続いております。そのために一番苦しんでいる者たち、百姓たちを救っていただきたく存じます」
信長  「お百姓さん?」
光秀  「はい。百姓たちの望みはただひとつ、戦のない日々を過ごすことでございます。御屋形様、この国の人々が幸せになる政をしてくださりませ」
信長  「・・・」
織部  「信長さん」
信長  「フロイス」
フロイス「はい」
信長  「神の仕事はデウスに任せるわ」
フロイス「はい」
信長  「デウスに伝えなさい。早く世界から戦をなくすように」
フロイス「畏まりました」
信長  「蘭丸」
蘭丸  「はい」
信長  「今夜、私は光秀に討たれたも同然よ。本能寺の変は起こったのね」
蘭丸  「御屋形様」
明神  「大雑把に言えば起こったんじゃないですか」
織部  「内容は全然違いますけどね。信長さん生きてらっしゃるし」
信長  「私はもういいわ」
織部  「と、申しますと?」
信長  「織田信長はここで死ぬべきなのよ」
織部  「いやそういうことじゃないんじゃないですか」
信長  「百姓にでもなろうかしら」
織部  「は?」
明神  「蘭ちゃんはどうするの?」
蘭丸  「私は御屋形様についていくだけだ」
明神  「百姓かあ。できるかなあ」
蘭丸  「頑張れ」
信長  「サル!」
秀吉  「え?あ、はい」
信長  「あんたがこの国の幸せを考えなさい」
秀吉  「え?しかし」
信長  「あんたは中村のドン百姓だったのよね」
秀吉  「はい」
信長  「武士だけではなく、百姓が、この国のすべての人が幸せになる政をしなさい」
秀吉  「じゃあ・・・俺は殺されないんですか」
信長  「頼んだわよ」
秀吉  「は、はい。ありがとうございます!久作、八方斎!」

泣き喜ぶ秀吉たち。

光秀  「御屋形様、某も百姓になろうと思います」
秀満  「百姓ですか?」
光秀  「明智家はここで消えた。秀満、お前も百姓になるのだ」
秀満  「は、はあ」
忠興  「では、私たちも」
光秀  「お前は細川家の人間として、秀吉殿としっかりこの国を支えるがよい」
忠興  「はは」
光秀  「秀吉殿、忠興をお頼み申す」
秀吉  「心配ご無用!」
たま  「父上」
光秀  「なんだ」
たま  「私を捨てて百姓になるのですか?」
光秀  「そうではない。私は百姓になって百姓の幸せを考えたいのだ。お前は忠興と武家の幸せを考えろ」
たま  「はい」
平太  「光秀様」
光秀  「なんだ」
平太  「百姓になるんですよね」
光秀  「ああ」
平太  「うちで一緒に暮らしませんか?」
秀満  「平太、無礼だぞ」
光秀  「何が無礼なものか。我らはもう武士ではない、百姓だ。偉そうなことを言うな」
秀満  「はは」
平太  「どうですか?」
光秀  「いいのか?」
しず  「・・・拾ってやる」
たね  「拾ってやる」
光秀  「拾う?」
しず  「光秀様を私たちが拾ってやるって言ってるんだ」
たね  「そうだ」
光秀  「・・・」
しず  「嫌なのか?」
たね  「嫌なのか?」
光秀  「お頼み申す」
秀満  「お頼み申す」
たね  「何だその喋り方!変だ!変だぞ!」
光秀  「変か?」
たね  「変だ」
しず  「私たち百姓の喋り方を教えてやる」
たね  「教えてやる」
光秀  「お頼み申す」
しず  「また」

光秀、秀満、しず、たねたち笑いあう。

織部  「平太さん、しずちゃん・・・いいです。いいです・・・」
秀満  「織部様は天照大神の元へお帰りになるんですか?」
織部  「どうなんでしょう?分かりません。僕も平太さんとこかなあ・・・明日香に会いたいなあ・・・はっ!明神くん。預言の書は?」
明神  「信長さんが持ってるはずですよ」
織部  「すいませんすいません!信長さん、預言の書って・・・」
信長  「奥の間に置いてあるわよ」
織部  「奥の間!」
蘭丸  「残念だがもう燃えてしまっているだろう」
織部  「奥の間ですね!」

織部、室内に入って行こうとすると
ゴゴゴゴっと建物が大きく揺れる。

織部  「あわわわわ(と戻ってくる)」
明神  「あの本でしょ。諦めるしかないんじゃないすか」
織部  「諦められるはずないでしょ。あの本は明日香の本なの!」
明神  「じゃあどうすんですか?」
織部  「行く!」
明神  「死んじゃいますよ」
織部  「でも行くしかないの!わーーーーーーーーーーーー」

室内に消えていく。
ギャーギャー織部の声が聞こえているがやがて出て来る。
真っ黒に焼けた本。

織部  「やりました」
明神  「大丈夫ですか?」
織部  「大丈夫なはずないでしょう」
明神  「そんなにまでして本を取りに行くなんてメチャクチャですよ」
織部  「この本を絶対に明日香に返すんです。だから失くしたらいけないの」
明神  「ふーん」
織部  「ああ、ボロボロだ・・・」
明神  「織部さん」
織部  「なんですか」
明神  「あの穴なんですか?」
織部  「穴なんて・・・穴?」

ふと見るとタイムスリップしたときみたいな穴が!
みんなその穴に注目してざわめく。

織部  「穴だ!」
秀忠  「なんだあれは?」
忠興  「地獄の入口ではないですか?」
織部  「明神くん、帰れるよ!平成に帰れるよ」
明神  「おおおお帰りましょう」
蘭丸  「どんぐり、どこに行くのだ?」
明神  「帰るんです。未来に」
蘭丸  「未来?」
織部  「そうなんです。僕ら本当は天照大神の使者なんかじゃないんです」

一同、「えっ?」

信長  「じゃああなたは誰なの?」
織部  「すいません・・・僕たちは400年先の未来から来たんです」
信長  「どういうこと?」
織部  「ですからえーと・・・天正444年から来たんです」
信長  「天正444年?」
織部  「はい」
信長  「面白いじゃない!ねえ蘭丸」
蘭丸  「はい」
明神  「織部さん、何か穴がさっきより小さくなってる気がするんですけど」
織部  「確かに・・・早く行かなくちゃ!」
明神  「はい」
織部  「でも本能寺の変がこんなで・・・未来が変わってたらどうしよう」
明神  「じゃあここに残りますか?僕は行きますけど」
織部  「行くよ。行くしかないでしょう」
蘭丸  「どんぐり。元気でな」
平太  「織部さん!」
織部  「平太さん」
平太  「ありがとな・・・」
織部  「みんなで幸せに暮らしてくださいね」
平太  「ああ」
たね  「織部またな!」
織部  「うん。たねちゃん字の勉強頑張ってね。光秀さんに色々教えてもらうんだよ」
たね  「わかった」
明神  「織部さん。穴がどんどん小さくなってますよ」
織部  「わかってるよもう」
しず  「助けてくれてありがとう・・・」
織部  「しずちゃん元気でいてね」
しず  「明日香によろしく」
織部  「分かった」
明神  「織部さん!もうヤバイって」
織部  「はいはい・・・しずちゃん・・・あっ!」

明神、織部を穴に引っ張り込む。
不思議なことが起こりながら・・・暗転。

<24(終)>に続く


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