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 こんなにも、モヤモヤが残る「ありがとう」をもらったのは初めてだった。きのうは母の日だった。インターンしている本屋のイベントのため、朝早くから家をあけた。夕方帰ると、夫が夕飯の支度をしていた。

 先週娘のコリスが「ママ、母の日なにが欲しい?」と聞いてきたので、「なにもいらないよ。ママその日、出かけるからパパと遊んどいて。家をきれいにしていてくれたら嬉しい」とだけ伝えた。

 3人で夕飯を食べていると、おもむろに席を立った夫がコリスに言う。「さあ、コリス、ママに言うよ。ありがとうって言うよ」。食事の真っ只中のコリスは、とてもめんどくさそう。なんなら腹ペコ状態で、若干イライラしてそう。

 「早く、早く」夫がコリスを急かす。「なんでそんな急がせるの?朝のうちにママに手紙書けとか言うし。わたし、いつもママに手紙書いてるし、いつもママにありがとうって言ってるもん」。

 思うように動かないコリスに怒っている夫を見て、コリスが泣き出した。夫が場の空気をぶった斬って、カーネーションをテーブルの上に置いた。鉢植えには、「ママありがとう」。いつもより、雑になぐり書きされたコリスの字を見て、さっきコリスが言っていた場面が頭に浮かんだ。朝、夫に急かされ書いたのだろう。

 コリスに申し訳ない気持ちになった。強制された「ありがとう」をもらっても、ちっとも嬉しくない。こんなにも嬉しくないありがとうは、初めてだった。「あ、あ、ありがとう。もういいよ、コリス。いつもありがとう言ってくれるし、いつも手紙もくれるもんね」。

「今日は母の日だから、パパじゃなくて、コリスがママにありがとうを伝える日なんだよ。父の日もあるんだから……」泣きじゃくるコリスに夫が言った。

 ゾッとした。父の日に同じことをされたとしたら、嬉しいのだろうか。

 そして今日、夕飯の席でコリスが言った。「子どもの日に私にも手紙書いてね。『ありがとう』って言ってよね」。なんということだ、そういうことではないのだよ、コリス。

「ありがとう」は、その都度伝えよう。

 母の日も、子どもの日も、父の日も、そういう日ではない。このことについて夫と話すには、時間と気力と体力が必要だ。悪気はないのだろう。でも、嫌だったことを伝えよう。

いつもいいことばかりではない。
楽しいイベントデイにも、こんなことだって起きる。



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