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《ジャパニーズ・フィフティ・ピープル》

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とある田舎町を舞台にした関係ありそうでなさそうな50人のドラマを描いた連作短編小説。 ※構成のみチョン・セランさんの『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)の影響を受けていますが内容… もっと読む
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【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(山下 正人)

【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(山下 正人)

 今年で五十二になる建設課都市交通係長の山下正人には三人の部下がいた。四十代男性の高岸。三十代女性の橋田。二十代男性の森本。正人は彼らとの関わり方に悩んでいた。
 当然といえば当然だが、若ければ若いほど彼らの考えていることは分からなかった。安易にカテゴライズするのが良くないと分かってはいるのだが、そうでもしないと彼らのことを宇宙人かなにかとみなして余計遠ざけてしまいそうだった。
 三人はそれぞれ年

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【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(小野 実弥)

【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(小野 実弥)

 加賀屋町町長、田島優《たじますぐる》。無投票で加賀屋町の町長になり現在は一期目。年齢は四十七歳と町長としては若く、七十二歳の副町長とは二十歳以上離れている。元々県庁の職員だったが退職して出身地である加賀屋町の町長となった。
 好きな食べ物はおでん。座右の銘は『急がば回れ』。塩顔だが切れ長の鋭い目がチャーミングで町内にも隠れファンが多数。そして私もその一人ーー。

「あんたほんと変わってるよね」

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【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(佐伯 龍太郎)

【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(佐伯 龍太郎)

 まるでブルーハワイのようだ。佐伯龍太郎は自分の人生のことをそのように感じることがあった。
 味や見てくれは悪くないのだが、それが果たして何でどのような味なのか誰も説明できない。実態を伴わない虚構だけの存在。
 ブルーハワイ(昔はハワイアンブルーと呼んでいた気がする)は龍太郎が幼いころに通っていた水泳教室の帰りに、いつも母が買い与えてくれたアイスクリームの味でもあった。
 思えばあの頃が、自分の人

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【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(山岸 哲夫)

【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(山岸 哲夫)

 加賀屋町役場は職員数約二〇〇名程度でありほぼ全員が顔見知りといってよかった。
 そんな中で、若手職員同士で飲み事に行くと必ずといっていいほど話題にあがることがあった。"最も上司にしたくないのは誰か"ということである。
 その結果は少なくともここ数年は変わっていないため、最近では最初から"二番目に上司にしたくないのは誰か"について話をした。
 一番上司にしたくない男、山岸哲夫係長。哲也以外は誰もが

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【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(佐々木 千佳)

【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(佐々木 千佳)

 SNSは毎日のようにどこかで炎上している。だがこれほど炎上を身近に感じたことは千佳にとって初めてのことだった。自分自身が炎上した訳じゃないにも関わらず、だ。
 きっかけは、だいたいの炎上がそうであるようにささいなことだった。とある妊婦がSNSに投稿した一枚の写真が、心ない言葉とともに拡散されたのだった。
 その内容は、妊婦が産休に入る際に『産休をいただきます』というメッセージとともに赤ちゃんのイ

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【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(金子 悟)

【連作短編小説】「ジャパニーズ・フィフティ・ピープル」(金子 悟)

 二人の女性から翻弄されることなど、自分の人生には起こりえないと思っていた。
 地元の大学を卒業し、そのまま地元の加賀谷町役場に入庁するまで、女性には無縁の生活を送ってきた。
 それが入庁してようやく一年が経ったには二人の女性が自分の仕事や人生の大部分を占めてしまっている。つくづく不思議なものだと悟は思う。
 ただ問題は、それが決していい意味での翻弄ではないことだった。

「金子さん、三角さんから

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