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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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【ARG】限りなく日常に近い非日常『人の財布』

こんにちは、リー猫と申します。

突然ですが、もしあなたが見ず知らずの他人の財布を手に入れたらどうしますか?
道端に落ちていたのなら、交番に届けますよね。
電車やお店に忘れられていたのなら、駅員や店員に渡すと思います。
それが職場や学校なら、身分証を確認して誰の持ち物なのかくらいは調べるでしょう。

でも本当は、もっと調べたいと思いませんか?
持ち主の人物像や、何を考え、どんな生活をしているか。
財布の中身から、あれこれ想像することに興味がありませんか?

もしも、好きなだけ中身を調べても許される財布があったらーー
そして、財布に秘められた「物語」に巻き込まれてしまうとしたらーー

人の財布は、そんな商品です。
中に詰まっているのは、持ち主の人生そのもの。
「新たな持ち主」となったあなたは、財布に残されたさまざまな手がかりを元に、謎を解きながらその物語を追体験していきます。

もしも、ここまでお読みいただいて興味を持たれた方は、下記より入手することができます。
本記事の公開時点で、2024年12月発送予定分のみ購入可能です。
※現在は完売

本記事は、ARG商品『人の財布』のレビュー&体験レポートです。
前半は筆者がこの商品を知り、実際に体験した感想など(ネタバレ無し)。
後半は財布が届いてからゲームクリアまでの過程を記録した攻略記事(ネタバレ有り)となっております。

前半部分で「この商品が欲しい!」「人の財布の中身を知りたい!」と思われた方は、ぜひ購入をご検討ください。
未だかつて経験したことのない物語体験をお約束します。

※「3.体験レポート」以降、本作品に関する重大なネタバレが含まれます
※商品の到着待ち、購入を検討中の方は絶対にその先を読まないでください
※ネタバレ部分に入る前には注意書きを記載しております
※本記事は第四境界の定めるネタバレガイドラインを遵守しております

第四境界Xアカウント
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第四境界YouTubeチャンネル
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1.人の財布とは

この商品を手掛けたのは、Project:;COLDを始めとしたARG作品を数多く世に送り出しているゲームブランドの「第四境界」
人の財布は、第四境界名義で発表された初めての商品になります。

筆者がこの商品を知ったのは昨年の10月、SNSミステリー「Project:;COLD」の公式アカウントが発信したポストでした。

ファッションを中心に、音楽、アート、演劇など、様々なカルチャーを積極的に紹介しているPALCOとProject:;COLDのコラボレーションが発表されました。
中央の図形は単なるデザインではなく、実はQRコードになっており、読み取ると下記のテキストが格納されています。

第一弾:10.20 『Project:;COLD 2.0』とは関連しない「Project:;COLD」シリーズの外伝作品。ご自身の手で見つけ出し、よろしければお手に取ってお楽しみください。

第二弾:11.05 「Project:;COLD」3周年を記念したグッズをONLINE PARCOで販売。詳細は11/5の3周年生放送で発表いたします。

第一弾の日付は、ポストが投稿された日を表していました。つまり、投稿された時点ですでにどこかで公開されている事になります。
第二弾がONLINE PALCOでの販売とあったため、第一弾は実店舗での展開ではないかと思い、地方住みの筆者は半ば諦めていました。

ところが、ほどなくONLINE PALCOにて謎の商品が販売されているのが見つかります。(※販売は終了しています)
さきほどの画像にあったメッセージと商品の説明文が一致していたため、これが第一弾商品であるのは間違いないと判断し、即購入しました。
筆者は発見された直後のタイミングで運良く注文することができたのですが、数時間後には完売してしまい、その数日後に行われた二度の再販でも数分で売り切れるという異常事態でした。

その人気ぶりは、ニュース番組で取り上げられるほどの騒ぎとなります。
(このニュースを見逃してしまったのが非常に心残りです……)

その後、招待販売や受注販売が行われるも、到着は半年待ちという入手困難ぶり。
下記は人の財布の販売経過まとめです。

【人の財布販売経過まとめ】
ONLINE PALCOにて
初回販売:2023年10月20日(その日のうちに完売)
2次販売:2023年10月26日(少量だったため1分で完売)
3次販売:2023年10月30日(可能な限り確保したが3分で完売)
4次販売:2023年12月15日~(クリア者と公式による招待販売)
5次販売:2024年1月16日~2月29日(受注販売※半年待ち)
第四境界ストアにて
6次販売:2024年4月16日~(数量限定)

6次販売では、10月・11月・12月発送予定分が初回販売時の10倍の数量で用意されたにもかかわらず、10月分が販売当日、11月分も翌日には完売してしまいました。
12月分も、おそらく残りわずかではないかと思われます。確実に入手したいと思われる方は、今が最後のチャンスです。※現在は完売

2.クリア後の感想

本記事のタイトルにもあるように、人の財布で得られる体験を一言で表現するならば【限りなく日常に近い非日常】ではないかと思います。
本物の財布が手元に届くという直接的な体験から始まる本作は、「Project:;COLD」や「かがみの特殊少年更生施設」といった第四境界の他作品と比較しても、圧倒的なリアル感があります。

また、財布に残された手がかりを元にただ物語を追いかけるだけではなく、時には自分から能動的に動く必要があります。文字通り「物語の登場人物」にならなければ、エンディングを迎えることができません。

プレイ中もクリア後も、もし誰かの財布を手に入れたら本当にこんなことが起こるかも知れない、という感覚が頭から離れませんでした。
完璧に構築された世界観と、すべての出来事にしっかりと理由付けがされているからこそ、ここまでのリアル感が出せるのではないかと思います。

第四境界の運営会社のひとつである(株)ストーリーノートは、その名のとおり物語づくりの専門集団です。ゲームシナリオを中心に、マンガの原作や映像脚本まで、ありとあらゆる物語を手掛けています。
それもあって、人の財布はどちらかというと謎を解くよりも、物語の体験に重点を置いているように筆者は感じています。

その理由の一つに、人の財布の謎解きはそこまで難しくありません。
というより、謎解きらしい謎解きはありません。散りばめられた手掛かりを見落とさず、点と点を繋げれば自ずと次の行動が見えてくるように設計されています。筆者は謎解きが得意な方では無いのですが、ノーヒントで無事エンディングを迎えることができました。

現在は丁寧なヒントサイトも用意されており、行き詰まったとしても万全のサポート体制が整っています。一度に多くの参加者が集う大規模なARGとは違って、人の財布が一人用のゲームであるというのも要因の一つかも知れません。

また、ネット上でリアルタイムに開催されるイベントではないので、自分のタイミングで物語を進められるのも大きな特徴の一つです。
こちらのアクションに対して「向こう側」からのリアクションが発生するまで、長ければ数日~2週間前後を要する場合もあり、ゆっくりと時間を掛けて物語を進めていきます。

筆者はARGというジャンルに精通している訳ではありませんが、自身で体験したもののほとんどが、リアルタイムに進行していくゲームでした。人の財布のように、自分のタイミングでアクションを起こし、それによって物語が進行していくという仕組み自体が、とても新鮮な体験だったと思います。

もう一つ、大きな特徴として挙げるならば、人の財布で得られる体験は「人生で一度きり」であるということ。
人の財布は、コラボ発表のQRコードにも記載されていた通りProject:;COLDの外伝作品に位置付けられています。登場人物や物語に直接のつながりはありませんが、「人生で一度きりの体験」という特徴が両者の共通点です。

これについては第四境界の公式アカウントでも言及されましたが、”正しく”プレイした後の人の財布では、同じ体験は二度とできません。
そうなるように設計されています。

なぜ「人生で一度きり」なのかを説明すると、完全にネタバレになってしまうためここで伝えることはできませんが、中古対策まで万全に整えてあるその設計に、大変感心しました。


いかがでしょうか。
「あなたの財布」に余裕がお有りでしたら、ぜひ、下記より購入をご検討ください。

※現在は完売

<注意>
これ以降は実際に『人の財布』を体験したプレイレポートになります。
結末を含め物語の重大なネタバレを含みますので、すでに購入されて到着待ちの方、購入をご検討中の方はお読みにならないでください。
既にクリア済みの方は体験例の一つとして、購入予定の無い方は、今後第四境界の作品をプレイする参考として、続けてお読みいただければ幸いです。

3.人の財布調査記録

このセクションでは、実際に人の財布をプレイした記録を時系列にまとめていきます。あくまでも筆者の体験になりますので、必ずしも正しい手順ではない事をご了承ください。
また、人の財布にはいわゆる「運営」が存在し、かなり臨機応変な対応をしてくれる印象です。
体験済みの方は、ぜひ自身がプレイした時と比べてみて下さい。
※人の財布の内容は何度かバージョンアップされているようですが、筆者がプレイしたのは初期ロットです。現在の内容とは異なる恐れがありますのでご了承ください。

10月20日に注文した『人の財布』は、一週間足らずで手元に届きました。
はやる気持ちで封を開けると、まるでテレビドラマなどで見かける事件の証拠品のように、”No.223”と手書きされた銀色の袋に入っています。

まずは、財布と一緒に同封されていた一枚のメッセージカードに目を通します。

今キミが手にしているのは、
縁あって私のもとに流れ着いた謎多き財布。

このような『失くし物』 には、
上質な『物語』 がたいそう詰まっているものだ。

持ち主は、どんな人物か?どんな人生を送ったのか?
そして何より、この 『失くし物』 には、どんな想いが詰まっているのか?

キミがこの商品を手に取ったのも何かの縁。

キミには、私がいつも使っているプロファイリングシートを活用して、
ぜひ、この財布に秘められた 『持ち主の想い』 を紐解いてほしい。

カードに記載されていたQRコードを読み取ると、Googleドライブが開き「はじめに」という文書と「プロファイリングシート」が格納されていました。
「はじめに」は、ネタバレに関する注意書きと内容物の確認、プライバシーポリシーが記載されています。「プロファイリングシート」には、持ち主の氏名や生年月日、関係者の名前や関係するwebサイトを記入できるようになっていました。

ネタバレ防止のため、目次は以下に設置します。

①内容物の確認

いよいよ、財布の中身を慎重に取り出していきます。入っていた物は以下のとおりです。

■学生証
灰川高等学校に通うある人物の学生証。有効期限が過ぎており、すでに卒業していると思われる。裏面には「学籍を失ったときには学校へ返す」と記載されている。

※検索回避のため一部加工しています

■郵便用封筒
宛名のみ書かれた茶封筒。
郵便番号欄があるため、郵送用と思われる。

※検索回避のため一部加工しています

■書きかけの便箋
封筒に入っていた便箋。
「私はあなたを」とだけ書かれており、残りは空白になっている。

■風景写真
カラフルな玉(?)のようなものが写った写真。フジフィルムの写真用紙にプリントされたもの。

■ブログ記事のコピー
埼玉県の飲食店で起きた殺人事件を取り上げるブログ記事のコピー。
事件発生は2012年6月16日と思われる。

■レシート
ガリバーホームという店舗で包丁を購入したレシート。
購入日は2023年1月8日。

■キッチンペーパーのような紙
キッチンペーパーのようなエンボス加工のある紙。何も書かれておらず、二つ折りにして内ポケットに入っていた。
<写真は取り忘れていました>

中身を全て確認した際の第一印象として、財布の持ち主「せれな(以下、検索回避のためとします)」は殺人事件の被害者・立田の娘なのではないかと思いました。
・ブログ記事には包丁を手にした男・Kとあり、封筒の宛名「貝島(以下、検索回避のためとします)」と一致している?
・包丁を購入したのは、父親を殺した同じ方法で犯人に復讐するため?
・Kが犯人で、便箋には「私はあなたを”許さない”」と続くのかも?
などと、一気に不穏な想像が膨らんでいきます。

②サイトの発見

財布の中身を全て取り出し、札入れや小銭入れに取り残しが無いか、財布自体に怪しいところが無いかを確認します。次に、財布の中身に記載されていた名称などを片っ端からweb検索していきました。
Project:;COLDシリーズでは、作中のキーワードから新たなサイトを発見する手法が多く取られているほか、プロファイリングシートに「持ち主に関係するwebサイト」の記入欄があったためです。
発見できたサイトは以下の二つ。

■Sの日記(はてなブログ)

2022年から2023年にかけて記事が投稿されているブログ。財布の元の持ち主であるSが日記代わりに使っているようでした。
2022年8月に財布を無くしたエピソードがありましたが、先輩の車で発見されたとの事で、今財布が筆者の手元にある直接の原因ではなさそうです。

とりとめのない内容のブログですが、彼女が山梨県の全寮制の高校に通っている(いた)こと、実家のある都道府県へ大学進学が決まったこと、本当の親ではないが家族仲は非常に良好であることなどが読み取れます。

本当の親ではないという部分から、やはり殺人事件で親を失ったのでは? という考察が補強されていきました。また、彼女は「調べたいこと」があり、もう一つブログを始めようと考えていたようです。

■第四わーるど(掲示板)

もう一つは、ブログ記事で触れられていた殺人事件の話題について書き込まれた掲示板です。そこには、さらに詳しい事件の情報が記載されていました。

やはり当初の見立て通り、封筒の宛名にあったKは殺人事件の犯人でした。掲示板の書き込みは、すべて2022年10月15日のものです。
最近事件の起きた町で犯人を見かけたという書き込みもあり、すでに刑務所を出所しているのではないか、という推測が成り立ちます。Sはそのことを知っていたのでしょうか。

ここまでの情報をまとめると以下のとおり。

・財布の持ち主は「S」
・Sは山梨の高校を卒業し、実家のある都道府県へ進学した
・Sの家族は本当の親ではない
・封筒の宛名「K」は殺人犯
・Kはさいたま市のステージハウスでオーナーの立田を刺殺
・2022年10月ごろ、事件のあった町で犯人の目撃情報あり
・Sには調べたい事があり、もう一つブログを始めようと計画する

③二つ目のブログ

情報を整理したところで、Sが計画していたもう一つのブログを探してみることにします。ヒントになったのは、日記ブログに掲載されていた二つの画像と、財布に入っていた写真でした。

ブログ記事の2022年12月27日2023年1月2日の写真には、パソコン画面が写りこんでおり、「yasaka~」「~dou.seesaa.net」というアドレスが読み取れます。
また、財布に入っていたカラフルな玉の写真をGoogleレンズで画像検索してみると、京都の八坂庚申堂(やさかこうしんどう)だと判明します。

写真をGoogleレンズで検索

このことから、アドレスの抜けた部分を推測して「yasakakoushindou.seesaa.net」とURLを直接入力してみます。
案の定、Sのもう一つのブログがヒットしました。

そのブログは、彼女が事件の調査記録をつけるために始めたものでした。
2022年12月25日付の一番初めの記事を読み、ここまでの推測が一気に覆ります。Sは殺人犯「K」の娘だったのです。

Sは、父の犯した殺人の動機に疑問を持ち、本当の理由を知るために事件を調査しようと決めたのでした。また、包丁を購入したのは父の気持ちを知りたかったからだという記載があり、復讐用ではありませんでした。
そしてブログ開始から約二か月後、彼女は調査を依頼していた探偵から衝撃的な事実を知らされます。父が殺人を犯した本当の理由、それは娘であるSを守るためだったようです。

そのことを知った彼女は、引き続き探偵に父の居場所を探してほしいと依頼します。Sは、出所しているにも関わらず自分の元へ会いに来てくれない父に戸惑いを覚えていました。彼女は父の居場所が判明するまでの間、これからの自分がどうありたいかを考えます。

最後の記事には「あれの結果が届いた」という記載とpdfファイルが設置されていましたが、パスワードがかかっており中を見ることができません。
ひとつ前の記事には彼女が誰かと会う約束をしたような記述があり、その事とpdfファイルは関連しているように思えました。

④Sのバイト先

二つ目のブログを読み終えたところで、再びサイト検索を行います。
2023年1月10日の記事に、バイト先の記載がありました。そのワード検索でヒットしたのは、とあるカウンセリングルーム。

心に悩みを持つ人の話を聞き、不安を解消する支援を行う相談所のようです。掲載されているカウンセラーにSの名前はありませんでしたが、彼女は日記ブログの方で自分のバイトが「結構珍しい職種」だと言及していましたので、ここで間違いなさそうです。

Sは2023年の3月に高校を卒業して地元に帰っているため、すでにこのバイト先には所属していない可能性もありましたが、こうしてホームページが用意されている以上、何かしらのヒントが得られるはずです。

サイト内の「webで予約」のボタンをクリックすると、予約フォームが立ち上がります。やはり、指名するカウンセラーの中に彼女の名前がありました。
ここで初めて「物語の内側」と接触する事になります。少し緊張しましたが、必要事項を入力すると、迷わず予約内容を送信します。

カウンセラー選択にはSの名前が

数時間後、届いた返信メールに書かれていた内容は衝撃的なものでした。
なんと、Sは2023年3月に交通事故でこの世を去っていたのです。最後のブログ更新が3月26日でしたので、それ以降の数日の間に事故に巻き込まれた事になります。

財布が手元に届いた時、証拠品のような袋に入っていた時点で、ある程度は覚悟していたつもりでしたが、ブログに綴られた彼女の想いに触れてから知るその事実は、受け止め難いものがありました。
再び父と会う日を待ち望みながら、志半ばにして命を落とすことになり、さぞかし無念だったことでしょう。胸が締め付けられました。

ここまでの情報をまとめると以下のとおり。

・Sは殺人犯Kの娘だった
・Sは探偵に調査を依頼し、殺人事件の真相を知った
・Sは探偵に父の居場所も調べてもらっていた
・Sは3月12日に誰かと会っていた
・二つ目のブログにpdfファイル(何かの結果?)が添付されていた
・pdfファイルはパスワードでロックされていた
・Sは2023年3月に亡くなっていた

⑤探偵登場

返信メールには、Sが交通事故に遭った茨ヶ澤湊戸橋という地名が記載されていました。
そのワードでGoogle検索を行うと、事故に関する記事がヒットします。

交通事故の発生は3月28日。Sが最後に残した記事の2日後です。
ブログ主は、Sが父に関する調査を依頼していた探偵・伊澤(以下、検索回避のため探偵とします)でした。探偵は、彼女の事故に違和感を覚え、単なる交通事故ではないと主張しています。
探偵と最後に会った時、Sは「やりたいこと」があると話していたそうです。そのことが、事故に巻き込まれた原因と関係しているのではないかと考えているようでした。
調査の報告ができると意気込んでいた矢先~とあるので、父親の住所が判明し、それを彼女へ伝える直前だったと思われます。

その翌日に投稿された記事で、探偵はブログの読者へ情報提供を呼びかけます。
そこには、Sが説明を受けたあの殺人事件の真相がすべて記載されていました。

10年前の事件の被害者である立田は、当時恋人であった女性に酷い暴力を加えていました。Kは、彼女を立田の元から逃がす手伝いをして、やがて惹かれ合い夫婦となります。
その時、女性のお腹にはすでに新たな命が宿っていました。それがSでした。
Sの母は彼女を生んで間もなく病死してしまいますが、数年後、関東で平穏に暮らしていたKとSの親子を、立田が発見してしまいます。

事件の日の夜、立田はKを自身の店に呼び出し、実の娘であるSを引き渡すよう要求。Kがそれを拒むと激昂し、凶器を持ち出します。もみ合いの末、Kは立田を刺してしまいました。
育ての父親が実の父親を刺し殺してしまったという残酷な事実を娘に伝えたくない、という想いから、Kは動機を偽り逮捕されました。
後の裁判で、Kは事件の真相を供述することになりますが、その部分が報じられることは無く、Sは初報しか目にすることができなかったのです。

探偵は、二つの情報を求めていました。
ひとつ目は【Sの心残り】。彼女が父の居場所を調べて何をしようとしていたのか。彼女に変わって、心残りを晴らしてあげたいと彼は言います。そのために「Sがやりたかったこと」と「そう判断した理由」をメールしてほしいそうです。
ふたつ目は【交通事故の犯人】。探偵は、Sが巻き込まれたのは単なる事故ではないと考えており、彼女の周辺に怪しい人物がいなかったかを知りたいそうです。そのために「Sが交流していた怪しい人物の名前」と「その人物とSの関係を裏付ける証拠」を送ってほしいと言います。

⑥探偵とのやり取り

探偵のブログを発見したことで、物語は急速に動き出しました。正直なところ、探偵の求めるどちらの情報もピンと来ておらず、しばらく悩んだ末、筆者はまず怪しい人物の情報から送ってみることにしました。
『事故の犯人はバイト仲間だった野尻。バイト先のカウンセラー欄に名前が無く怪しい。Sがブログに書いていた、一緒にランチをした先輩ではないか』と。
自分のことは「縁あって彼女の財布を手に入れた者」であると記載しておきました。

メールの返信はその日のうちに届きます。
どうやらハズレのようでした。探偵が言うには、証拠と呼べるものは見た瞬間にグッとくるものである場合が多いとのこと。
その文面を見て、財布の中身にまだ解明できていない物があると気づきました。キッチンペーパーのような、何も書かれていない小さな紙です。

その紙を入念に調べ、光に透かして見たところ、うっすらと文字が書かれていることを発見します。しかし、どうしても読み取ることができません。
Sのブログにヒントが無いかと、もう一度丹念に記事を読み返します。すると、あるエピソードに目が留まりました。
夏休み、先輩とランチに行った際、車のダッシュボードに財布を置き忘れていたという話。車内はかなりの高温で財布がホカホカになっていたそうです。

何かのテレビ番組で、フリクションペンで書かれた文字にドライヤーを当てると文字が消えるという場面を見た記憶がありました。財布に入っていたこの紙に、フリクションペンで何かが書かれていたとしたら……。
文字が消える仕組みは理解していましたが、文字を復活する方法は想像もつきません。そこで「フリクション 文字復活」とGoogle検索してみると、すぐにその方法が判明しました。

紙をビニール袋などに入れ、冷凍庫で冷やす。
高温で消えるのだからその反対をすれば良い、という何とも単純な方法で、文字が復活するというのです。
さっそく自宅の冷凍庫に紙を入れ、数時間待ってみることにしました。
結果はご覧のとおりです。

謎の紙の正体は、幼いSが父親の為に書いた手作りの「肩たたき券」でした。
記載された日付は、奇しくもKが立田を刺殺した事件の翌日。調べてみると、その日は「父の日」でした。
Sの二つ目のブログには「あの日書いて渡せなかったアレも一緒に送ろうかな」と書かれています。アレとは、この肩たたき券を指す言葉だったのだと確信しました。

再び、探偵へのメールを書き始めました。
今度はひとつ目の情報【Sの心残り】について。

『SはKを「異性として愛している」と手紙で伝えたかった』のではないかと。
そう判断した理由として、
・彼女のブログに「ずっと見ないようにしていた気持ち」「自分に誠実でありたい」という記載があったこと。
・肩たたき券に書かれた「大好き!」は、父としてでなく一人の男性としてではないかという推察。
・そして、事件の真相を知って「ホッとした」のは、彼女がKの実の娘ではなかったという事実に対してではないか。
これらを挙げました。

数時間後、探偵より返信メールが届きます。
今度はかなりの長文でした。

内容を要約すると以下のとおり。

・自分はSがKを異性として愛していたとは思わない
・彼女と接した印象は、父を慕う無邪気な娘そのものだった
・だが手紙を送ろうとしていたのは間違いなさそうだ
・手紙には、一人の娘として父を想う気持ちを綴ろうとしたのではないか?
・その手紙を送る役目はキミ(筆者)に託すべきだろう
・しかし、プライベートな情報のためKの住所は気軽に教えられない
・キミが信用に足る人物か見極めさせてもらいたい
・以下の3つの質問に解答してほしい
 ①Sの○○○は?
 ②Sの一番○○○○は?
 ③Sの○○の○○○○○は?
 (内容は伏せておきます)

異性として~、の部分は筆者の深読みのし過ぎだったようです。
しかし、探偵はそれをしっかり受け止め、根拠を示したうえで軌道修正してくれました。テンプレートが用意されている訳でもなく、血の通った文面でした。
メタな感想になりますが、この臨機応変な対応には甚く感動しました。

投げかけられた3つの質問は、Sのブログをしっかりと読み込めば難なく答えられるものでした。解答を送信すると、一時間足らずで返信が届きます。
そのメールには、Kの現住所が記載されていました。念のためGoogleマップで調べてみましたが、本当に実在する住所のようです。
つまり、財布に入っていた封筒に住所を書き込み、書きかけの便箋にSの想いを追記してKへ送ることが、次の手順となるのです。
(ここで「封筒」と「便箋」が失われてしまうため、中古品では体験が成り立たなくなります)

⑦Kへの手紙

文面を考えるのに一晩を費やしました。
まずは自分が何者であるかの説明。そして、Sの身に起きた悲劇を伝える事。その上で、彼女がKをどう想っていたかを伝える。
何でもメールで片付いてしまう今、誰かに手紙を書く機会などほとんどなくなったため、何度も下書きをしては修正を繰り返しました。
しかも、Sの想いを伝えるだけではなく、Kには「交通事故の犯人につながる情報」も提供してもらわなければなりません。

というのも、筆者はこの時点でひとつだけ確信していることがありました。Sのブログにあった鍵付きのpdfファイル。そのパスワードは、彼女が前を向くために唱えていた「おまじない」だと考えたのです。そして、pdfファイルの中身は亡くなった立田とSの親子関係を証明するためのDNA鑑定の結果ではないか、という推測もしていました。

『新しい便箋』を用意し、下書きした文章を記入していきます。なぜなら、封筒に入っていた書きかけの便箋は、Sの文字で書かれたものです。その紙に、自分の字を追記することはどうしてもできませんでした。彼女が遺したものは、出来るだけそのままの状態でKへ届けたいと思いました。
彼女が伝えたかった想いと、小さい頃に唱えていた「おまじない」に心当たりが無いか、そして、彼女の冥福を心より祈っていることを綴っていきます。
差出人については、探偵と協力してSを調査している者、としておきました。

Sの書きかけの便箋と「肩たたき券」を同封した封筒をポストへ投函するとき、自然と手を合わせていました。この時、ゲームを進めたいというより、娘の想いを父親へ届けたいという気持ちの方が大きかったように思います。すでに、筆者は物語の一部になっていました。

約二週間後、Kからの返事が封書で届きます。
手紙の本文にメールアドレスを記載したので、こちらの住所まで伝えるかどうかを迷ったのですが、結果として書いておいて正解でした。

内容を要約すると以下のとおり。

・出所後、Sが新しい家で幸せに生きていると知り、自分はもう娘に会うべきではないと決めた
・筆者から手紙を受け取った後、新しい家族へ会いに行った
・その際に「おまじない」のことを聞いた
・つらい時、Sは「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇」と唱えていたらしい
(内容は伏せておきます)
・それは、あの子の母が亡くなった時、自分が教えた言葉だった
・今度は自分がSに、その言葉の意味を教わったような気がする
・悲しみは絶えないが、あの子を忘れず生きていこうと思う

便箋3枚にわたって手書きされたその文字は、ところどころインクが滲んでいました。それがKの涙の跡であることに気づいたとき、思わず目が潤みました。
恐らく、メールアドレスだけ記載していた場合は、同じ内容のメールが届いたのだと思います。しかし、こうして手書きの文字と涙の跡からKの心情を察することができるのは、封書で返事を貰ったからに他なりません。

⑧人の財布から始まる物語

Kが教えてくれた「おまじない」は、やはりpdfファイルの閲覧パスワードでした。彼からの返事を待っている間、ブログなどから推測できるワードであれこれ試していたのですが、教えてもらわなければ絶対に分からない(総当たりなどでも割り出せない)言葉でした。
ファイルの中身は、想像通りDNA鑑定の結果報告書でした。しかし、実の父である立田とSとの親子関係ではなく、彼女の叔父に当たる「立田清充」という人物、つまり、晴臣の弟との血縁関係を証明するものでした。

これで、探偵の求める情報「Sと交流していた怪しい人物の名前」「その人物とSの関係を裏付ける証拠」が揃いました。探偵へその旨を報告すると、まもなく返信が届き、DNA鑑定書という動かぬ証拠を元に行動を起こすと約束してくれました。

結果報告はその日のうちに送られてきました。
事件の真相は以下の通り。

・清充は兄の死後、事業を引き継いだ
・Sは自身のルーツを辿るため、清充へ会いに行った
・清充はSが兄の財産を狙っていると思い込み、彼女へDNA鑑定を提案
・鑑定の結果、血縁関係が証明されてしまった
・清充はSを事故に見せかけ殺すことを決意した

Sは、自分という人間に誠実でありたい、という想いから、Kが殺してしまった人物の娘であることを証明し、それを受け入れようとした。ただ純粋に、それだけが目的だったはずです。
しかし、清充の金銭欲と思い込みから、不幸な事件が起きてしまった。

探偵からの報告メールには、Sが写った写真立てと、八坂庚申堂で願掛けに使われる「くくり猿」の画像が添付されていました。そして、くくり猿には幼いSの「願いごと」が書かれていました。

彼女の願いは確かに成就していました。財布に込められた想いを紐解き、すべての物語を体験したからこそ、そう感じるのだと思います。

4.最後に

自宅で楽しめる謎解きグッズ(いわゆる、持ち帰り謎)はいくつか試したことがあるのですが、ARG商品に挑戦するのは初めてでした。
というより、人の財布のような商品はこれまで存在していなかったのではないでしょうか。(個人の感想です)

物語の登場人物とメールをしたり、手紙のやり取りをしたり、そんな体験を伴って迎えた結末は、ほろ苦いものではありましたが、かつて経験したこともないほどに大きく心を動かされました。
商品のキャッチコピーである「これは、人の財布から始まる物語」。
本当に、その通りの商品でした。

第四境界は、すでに「人の〇〇」シリーズの新作を予告しています。

4月11日から3ヵ月以内ですので、7月中旬までには何かしらの発表が予想されます。(ストアにはすでに謎の商品が……)
きっと、人の財布を超える体験が待っているはずです。

筆者も必ず入手して、ネタバレが解禁された暁には、こうして記事を書こうと思いますので、その際はまたお付き合いいただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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