ピーター・モリソン

光文社文庫 『ショートショートの宝箱V』に『ぶうんぶうん』、『同Ⅱ』に『うどんとおんな』、『同Ⅲ』に『ネコのコバン』 、『同IV 』に『まどかぐわ』が掲載されています。

ピーター・モリソン

光文社文庫 『ショートショートの宝箱V』に『ぶうんぶうん』、『同Ⅱ』に『うどんとおんな』、『同Ⅲ』に『ネコのコバン』 、『同IV 』に『まどかぐわ』が掲載されています。

最近の記事

ショートストーリー バンザイW(ダブリュー)|ピーター・モリソン

 バンザイW(ダブリュー)  妻はジェットコースターを愛していた。  知り合ったときから既にそうだった。全国の主要なものは制覇していたし、そろそろ海外にも足を延ばしたいと、度々口にするほどの熱の入れようだった。  だから妻とつきあい出してすぐ、テーマパークや遊園地に誘われるだろうなと思っていたが、予想に反して、デートはそれ以外……。  妻はわざとそうしているようで、どうも僕のことを見定めている様子だった。両親に紹介できるかどうかではなく、ジェットコースターに一緒に乗る男と

    • 自己紹介|ピーター・モリソン

      初めまして、ピーター・モリソンと申します。 小説を書いています。 自己紹介をここにまとめておきますので、ご興味のある方はどうぞ。 ――どんな活動をしているか? noteやカクヨムにて不定期に作品を発表しています。 いくつかの作品は光文社文庫のショートショートの宝箱へ収録されています。本屋さんへ行かれたときは、手に取っていただけると嬉しいです。 僕の作品を朗読していただいた音声コンテンツもあります。 YouTubeチャンネル、ショートショート異空間333歩 吉史あんさ

      • ショートショート その星のいとなみ|ピーター・モリソン

         その星のいとなみ  生まれつき、舌の形が人と違っていた。  先端が割れていない。胎児のときに二つになるはずだったのが、くっついたままで生まれてきてしまった。  それゆえ、子供の頃から口を開けて笑うことは憚かれた。笑わないので、おのずと人づきあいも苦手になる。ましてやそれが異性にでもなると、さらにひどくなった。  しかし成人し、将来のことを考えるようになったとき、人生を一緒に過ごしてもらえる女性がいてくれたらどんなに幸せだろうと、そう思うようになっていた。  悩みに悩んで

        • ショートショート お餅を吐く|ピーター・モリソン

           お餅を吐く  お風呂上がり、いつもの寝言が聞こえたので、私は父のところに行った。  お酒と煙草と、父の匂い。節榑立った手に触れて、その温度を近くに感じる。  二人きりになって、もう四年が経つ。 「ふうちゃん……」  その優しい口調を耳にしながら、私は目を細める。  父の寝言を最初に聞いたのは六月の初め、ちょうど嫌々続けていた中学の部活を引退した頃だった。  洗面所で髪を乾かしていると、微かに、声が聴こえてきた。ドライヤーを止めて耳を澄ます。父の声、私を呼んでいる?  

          ショートショート ぶらんケット|ピーター・モリソン

           ぶらんケット  以前、ぶらんケットという商品が結構売れた。 今でもオークションや転売サイトで探せば手に入れられる。  つかい方は簡単で、椅子に腰掛け、ぶらんケットを膝にかける、ただそれだけ。  少し待てば、布で覆われた両足がプールと呼ばれている仮想空間に繋がる。どういうことかというと、椅子に座りながら、目に見えないプールに足を浸すことが出来る。  ただ、ぶらんと……。  仮想空間と言っても侮れない。織り込まれた特殊な繊維が電極となって、神経に干渉する。心地よい水温

          ショートショート ぶらんケット|ピーター・モリソン

          ショートショート 髪まぐわい|ピーター・モリソン

           髪まぐわい  祖父の三回忌には顔を出せと父に言われ、実家に帰った。  昼前までの法要にはつき合ったが、親族一同の会食には参加せず、黒スーツのまま町を歩くことにした。  小中高と、ここで過ごした日々を想いつつ海沿いを行くと、昔通っていた理髪店が視界に入ってきた。潮風の影響だろうか、外装の風化が進んでいる。止まったサインポールの横に立ち、僕は定休日の札をぼんやり眺めた。  休みかと一人呟く。硝子窓から店内を覗き見て、不意に足を止めた。反射のせいか、それは灰色の影のように

          ショートショート 髪まぐわい|ピーター・モリソン

          ショートショート どろどろの口づけ|ピーター・モリソン

           どろどろの口づけ 「ここに、何かいるような気がして」  紀寺アリスは喉の痛みを訴えた。  顎のラインで切り揃えられた髪が印象的で、潤みがちの瞳が不安げに揺れている。手足は細いが、どこか肉感的な印象を与えた。  休日診療。彼女は最後の患者だった。 「口を開けてもらえますか……」  ペンライトで照らし出される口の中は、とても綺麗だった。ヘラで形のいい舌を押さえながら、その先を凝視する。雑念を追い払い、彼女の痛みの原因を探っていった。  ……ああ、確かに。 「喉の

          ショートショート どろどろの口づけ|ピーター・モリソン