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心理的安全性と心理的柔軟性、どう違う?

自分の気持ちや意見を安心して表現できる状態を指す「心理的安全性」。

この概念と似た言葉に「心理的柔軟性」があるのをご存じでしょうか?

両者は似て非なるものですが、具体的にどう違うのでしょう?


本当に大切なものを見失わない力「心理的柔軟性」とは


心理的柔軟性(Psychological flexibility)とは「今、この瞬間」への気づきを持ちつつ、自分が本当に大切にしたい価値に集中し、効果的な行動をとる能力のことを言います*1。

わかりやすく言えば、「本当に大切なものを見失わない力」とも表現できるでしょう。この概念は、米国の心理学者、スティーブン・ヘイズ氏とケリー・ウィルソン氏によって提唱されました*2。

心理的柔軟性への理解を深めるために、ひとつ例をご紹介したいと思います。

例えば、皆さんの部下が大きなミスをしてしまったとしましょう。しかもそのミスは部下自身が不注意で起こしてしまったものです。

それを知った皆さんの中には、「なんてことをしてくれたんだ!」「上層部に知られたらマズい!」といった、怒りや焦りの感情が湧くことがあるかもしれません。場合によっては、部下を呼び出し、怒鳴りつけたい気持ちになる人もいるでしょう。

このように、何かのきっかけで発生する感情や行動を、強い意志を持って抑制するのは難しいものです。なぜなら、こうした感情や行動は、人間に備わった先天的なものであるためです。

ただ、これらの感情や行動をそのまま外に出してしまうと、その後の結末は皆さんのご推察の通りです。場合によっては「パワハラだ」と受け止められ、部下との関係性が悪くなるどころか、マネジメントとしての適性を疑われることもあるかもしれません。

もしこうした状態に陥ったとき、まず取り組むべきは部下の起こしたミスにしっかりと対応することでしょう。まさに今、この瞬間で大切なものを見失わずに動くことができる能力「心理的柔軟性」が必要なのです。

心理的柔軟性は「個人」、心理的安全性は「環境」に焦点を当てた考え方


さて、本題はここからです。

心理的柔軟性も心理的安全性も、どちらも職場で一人ひとりが活躍するには重要な要素と言えますが、どんな視点からその違いを浮き彫りにすると良いのでしょうか?

見るべき視点としては、「個人」「環境」です。

本当に大切なものを見失わない力である「心理的柔軟性」は、主に個人に焦点を当てた考え方です。個々に備わった、鍛錬可能なリーダーシップのひとつとも解されていますが、その人が困難な状況に置かれても、大切なことを見失わずに行動できることを指します*3。

一方で、自分の気持ちや意見を安心して表現できる状態の「心理的安全性」は主に環境に焦点を当てた考え方です。個々が自分自身を恐れずに表現し、自由に意見を言えることを目指しています。

これら二つの概念を比較すると、両者は補完的な関係にあることが明らかになります。つまり、心理的柔軟性を一人ひとりが持つことで、チーム全体にポジティブな影響を与え、結果的に心理的安全性が高まると考えられます。さらに、心理的安全性が高まると、余計なことを気にせずに自身の意見を自由に表現でき、これがさらに心理的柔軟性を高めることができるでしょう。

これらの要素が一緒に働く状況を作れれば、チーム全体の力が高まり、困難を乗り越え、新しいアイデアを生み出し、持続的な成長と成功を達成することが可能となります。これは、個々の人間とチーム全体が共に成長し、成功を追求するための重要な要素と言えるでしょう。


(参考情報)
*1 日本の人事部「心理的柔軟性」https://jinjibu.jp/keyword/detl/1602/(2024年5月15日アクセス)

*2 石井遼介(2022)「国家の人的資本経営:心理的安全性が拓く未来」RESEARCH BUREAU 論究

*3 HumanCapitalONLINE『三菱電機 「心理的柔軟性の高いリーダーシップ」で組織を変革(前編)』https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00082/070500004/(2024年5月15日アクセス)

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