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今年の冬も。

毎年、この時季に思うこと。
寒いほうが、ビールはおいしい。

どうしてだろう、夏よりもうまさが際立つ気がする。
空気がきれいだから?
体温が高くないから?
ついこの前まで「夏はやっぱりビールだ!」なんて言ってたのをすっかり忘れて、「冬こそビールだ!」と叫んでいる。

どうしてだろう、とは思うけれど、理路整然とした理由が知りたいわけではない。
科学とか生物学とかの小難しい説明をされてもピンとこないし、「そんな気がするだけで実は差異は無い」なんて聞かされちゃったら、それこそ酔いも覚めてしまう。「おいしいからもう一杯」という言い訳ができれば、私はそれでいいのだ。


昔、一度だけ、ホットワインを飲んだことがある。
寒い冬の日、残業後に誘ってくれた年上のその人は、行きつけのお店に私を連れていき、ホットワインを2つ注文した。マフラーをぐるぐる巻きにしている私を気遣い選んでくれた優しさはうれしかったけれど、でも、私は思ってしまった。ビールがよかったな、と。

そりゃ、歩いてくる道はすごく寒かったし、体は芯まで冷えきってもいたけれど、暖房のきいた店内に入ってほっとした瞬間、私が欲したのは冷えたビールだった。のど乾いた!早く飲みたい!心はそう叫んでいた。

耐熱のおしゃれなグラスが目の前にうやうやしく出される。それを待つ時間がとても長く感じた。ゆっくり、味わうように一口。甘い香りとゆるやかな酸味で確かに飲みやすい。縮こまっていた肩の力が少し抜けたような気もする。でも、私ののどは乾いたままだ。

どう?と問いかけるような視線に、「おいしいです」とにっこり笑って返す。そう振る舞うのが正解だということはすでに知っていて、でも「次はビールで」と言い出す図々しさまではまだ身についていない、そんな、初々しかった二十代の頃の思い出だ。


あの日以来、ホットワインを飲む機会はなかった。その年上の人とは程よい距離を保ったまま、数年後に転勤していった。
いつでも奢ってもらえる若い時期はあっというまに終わったが、その代わりに、自分のお金で好きな時に好きなお酒を飲む、という極上の楽しみを手に入れた。こっちのほうがずっと自由で、ずっと私らしい。

そんなこんなで、この週末もゆっくり飲もう。
大根は昨晩のうちに煮ておいたし、「冬物語」も買って冷やしてある。
天気がよければ、ちょっと歩いて外飲みもしたいな。
そうだ、年末に実家に送るビールの手配もそろそろしなきゃ。

私の"冬ビー物語”、しばらく続きそうです。

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