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多川 純利/中原ファーム

法人名/農園名:株式会社中原ファーム
農園所在地:広島県山県郡北広島町
就農年:2013年
生産品目:ほうれん草、カボチャ、ニンジンと、これらを原材料にした生パスタ、米
HP:https://nakahara-farm.stores.jp/ 
SNS:https://www.instagram.com/nakahara_farm_/

no.235

野菜の魅力や食事の嬉しさ、楽しさを伝えるのも農業の大切な仕事

■プロフィール

 公務員と農業を兼業する父親のもとに生まれる。広島市内の高校を卒業後、航空自衛隊に入隊。3年間の任期満了後は、民間企業に転職し、機械設計エンジニアとして4年間働く。

 20代半ばになり、米の兼業農家だった父の体調が悪化する。2011年、故郷・北広島町で「新規就農研修生」制度が開始されるのに伴って、脱サラしてUターン就農を決意。

 研修1期生に応募し、最初の1年は師匠のもとでほうれん草の栽培管理や収穫後の調整、出荷作業などを学び、2年目からは農業用ハウスを借りて、実際の栽培を経験。
 
 2年の研修期間を経て、2013年4月、父の持っていた水田にハウスを建設し、30aの畑でほうれん草生産を開始。

 2018年、生産規模を72aに拡大。2021年1月には株式会社として順調に成長し、同年4月、妻の桂子さんが中心となり、規格外品のほうれん草を材料にしたパスタの開発に着手。同年8月、JGAP認証を取得。

 2023年7月、構想から2年近く経過して、野菜を使った生パスタ商品が完成。ほうれん草、カボチャ、ニンジンの3種類で作った「VEGE.PA(ベジパ)」は、自社サイトを中心に、地元スーパー、道の駅などを中心に販売し、野菜嫌いの子供たちからも人気だ。

■農業を職業にした理由

 航空自衛隊勤務を経て、関東で機械設計のエンジニアとして働いていた25歳の頃、独立起業を考えていたが、帰省するたびに過疎化して耕作放棄地が増えていく故郷のようすを見て、なんとかしたいと考えていた。

 そんな矢先に米の兼業農家をしていた父親が体調を崩したことをきっかけに就農を決意。ちょうどその頃、北広島町では、農業人口の減少と流出を食い止めるために、新規就農者の育成と定着を目指す「新規就農研修制度」が始まるタイミングだったこともあって、第1期生として参加。

 研修中は、町から月15万円の就農研修支援金の交付があるうえ、ハウスや機械の導入に国の補助金をあてることもできたほか、就農後も5年間は「経営安定支援」として技術の支援や、交付金があることから、あまり営農や経営の不安を感じずに就農を目指すことができた。

 その1期生として2年間、先輩農家のもとで研修し、父が持っていた水田にハウスを建てて、30aの農地で、北広島町の代表的な園芸作物であるほうれん草の生産を開始。

 年々、経営面積を拡大し、8年後に株式会社化を果たすなか、規格外のほうれん草を活用し、野菜嫌いの子どもたちにもっと野菜を食べてもらいたいと、ほうれん草を原料にしたパスタの開発を考案。

 妻の桂子さんが中心となって、2年に及ぶ開発期間を経て、ほうれん草を24時間かけて60度の温風で低温乾燥させてパウダー状に粉砕したものをグルテンフリーの米粉と混ぜ合わせた生パスタを開発。

 1箱100グラムあたり、半束のほうれん草を使った「VEGE.PA(ベジパ)」として、スパゲッティ、フェットチーネ、マカロニの3種類展開。

 さらにほうれん草だけでなく、カボチャとニンジンを使った色鮮やかなラインナップで、高付加価値商品として地域の注目商品になるとともに、端境期の雇用促進にもつながった。

■農業の魅力とは

 北広島町は、国内のほかの地域と同様、人口減少で耕作放棄地の問題を抱えていますが、島根県との県境に近い中山間地域に位置しているため、条件の良い農地が少なく、経営を大規模化することや、大型機械の導入が難しく、近隣には同じくらいの経営規模の仲間もおりません。

 糖度が高いトマトやとうもろこしの産地化も検討しましたが、ハウスを増床して生産量を増やすことも難しく、どうやったら、地域雇用が促進されて、地元農業に貢献できるのだろうか?と思い悩んだ結果、6次産業化に着目したのです。

 父親の代では米を作っていたので、米粉と野菜を組み合わせたお菓子も考えましたが、ありふれていますし、よそとは違ったことに挑戦したい……、そんなときに思いついたのが野菜を練り込んだパスタです。パスタなら嫌いな子どもはいませんし、米粉を使えばグルテンフリーになります。

 色の鮮やかさを損なわないようにしたり、パスタの表面が割れないようにしたり、ある程度の賞味期限を維持できるよう、慎重に技術開発を進め、試作に1年以上かけて2023年7月にようやく誕生したのが「ベジパ」です。

 農業の役割は、野菜を作ることだけではなく、野菜が本来持っている魅力や食べることの嬉しさ、楽しさを消費者に伝えるのも大切な仕事だと思います。野菜嫌いの子どもに苦手意識を減らしたり、野菜をもっと身近に感じられる方法を感じるような手伝いをするのも、僕ら農業者の役割だと思っています。

 ほうれん草、ニンジン、カボチャと北広島を象徴する作物を使ったパスタを開発していますが、これに満足することなくベーグルなど、さまざまな商品の開発に繋げたい。

 自社ホームページだけでなく、道の駅や地元スーパーなどでも販売を展開していますが、北広島を代表する特産品に成長して、農業を通じた地域の活性化に貢献したいと思っています。 

■今後の展望

 2023年12月、中原ファームで働いていたベトナム人技能実習生の女性2人が、「特定技能外国人制度」の2号に合格しました。

 国が現在、導入を進めている特定技能外国人制度ではこれまで農業分野では在留期間が5年までの1号資格しかありませんでしたが、今回、農業分野への2号の適用によって、試験に合格することで高い農業知識や日本語能力が認められて、在留期間の制限がなく、家族の帯同も認められるようになりました。

 広島県では他府県に先んじて、「特定技能外国人受け入れモデル企業」に対して補助金を出す取り組みを進め、中原ファームとして応募しました。

 現在、弊社には正社員のほか、技能実習生やパートさんなどが複数働いていますが、今回2号に合格した2人に対しては1日2回の休憩時間を利用して日本語を教えたり、試験前には農作業の合間に勉強する時間を設けたりして、勉強を支えてきました。

 単なる労働力としてだけでなく、地域に馴染めるようお祭りや神楽に参加してもらったりして、中山間地域の農業を一緒に守る仲間として応援してきました。一緒に働く従業員の人生も大事にしながら成長していきたい。

 農業で経営を確立させることで、この地域の農家のモデルとなり、私に続く人が1人でも2人でも増えてくれたら、地域の活性化に繋げることができます。

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