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【読み放題対象】「お母さん食堂」が話題ですが、それでは我々が思い浮かべる「お母さん」とはどのように発生したのか?改めて考えてみよう!

ファミリーマートの食品ブランドである「お母さん食堂」という名前について、女子高生たちが「料理をつくるのはお母さんだけですか?」と抗議の署名運動をおこして今日も今日とてTwitter世界では話題になった。

この「お母さん食堂」に関しては、いろいろの論点があるのだが、まずは、その前に、ネット上で反応をみると、(このようなお母さんに家事をおしつける固定観念の助長が許されるのは)「古い価値観が払底できてない証拠だ」「日本古来の家父長制」とかいう署名活動への賛成意見があった。
また反対意見としても、「伝統的な価値観を否定するのは果たして絶対的な正義なのだろうか」というような意見もみた。

そこで私はすこし論点を変えてみようと思う。なぜなら、女子高生たちは、「ジェンダー問題をなくし、一人ひとりが輝ける社会をめざすような商品名に変えてほしいです!!(署名ページ)というが、その言葉に象徴されるように、ひとつの「正義」から演繹される排撃によって「輝ける社会」を目指している。
自己の掲げる「正義」を相対化することができず、さまざまな価値観の共存を許さない。これは、世の中と歴史を複数のレイヤーでみることができていないからだ。「異なる他者への非寛容」が、日米の歴史で、どのような帰結をもたらしたのか、という話は前回書いた。
そして一体、彼女たちの表面的な言葉を消していくことで目指す「輝ける社会」とはどのようなものなのだろうか?
もしや、ハクスリーの「素晴らしい新世界」みたいなところだろうか。

そもそもが「食事を作るのは母親だけですか?」と抗議の署名運動されてさも、「お母さん食堂」は「女性は家事労働に従事せよ」というメッセージを出しているわけでは別にない。
単に「お母さん」という言葉のもたらす様々なポジティブなイメージ喚起力……「暖かさ」「優しさ」「懐かしさ」「無償の愛」「絶対の信頼」等々を利用したブランド名にすぎない。仮にこの広告をみるものが、幼いころから父親に育てられ、父親が「(子を育てるものとしての)お母さん」の役割だったとしても同じような喚起力をもつだろう。

むしろ「お母さん=女」という拭い難いジェンダーロールに縛られているのは、この高校生だったのかもしれない。
(ガールスカウトが全面バックアップした上での意見表明なので、あの署名を呼びかける文面に、ほとんど高校生としての「個」はないのかもしれないが)

だが、それは置いても、「性別による役割分担がいけない」というイデオロギーは、別に歴史の中で、絶対的に正しい見方ではない。それはどのように生まれてきたのか。

そして現在の「お父さんは外へ働きに、お母さんは家で家事労働に子育て」という社会は、どの程度に「伝統的」で「日本古来」のものなのだろうか。まして、これは「家父長制」なのだろうか?
フェミニストの場合、なにか「(彼らが)女性に抑圧的な構造だ」とおもったときには、「(前近代的な)家父長制だ!」と怒ることが多いのだが、だいたいにおいて「それってただの近代家族じゃない?」と私はつっこむことも多いのだ。
そもそも現在の「お母さんは家で家事労働に子育て」という社会は、決して当たり前のものではなかったのだ。

これらの社会を可能にした条件とはなになのか、どのように生まれて、そして解体されつつあるのか。次に書いていこうと思う。
一つの価値観に支配された考え方から、より多層的な考え方を獲得することによって、「おまえらの表現は間違っている。だから撤回削除しろ」みたいな「自分の正義」をもとに「これはやめろ、あれもやめろ」と表現を排撃しようとする傲慢な考え方はきえて、本当の意味での「多様性」というものが浮かびあがってくるのではなかろうか。

それでは、まずは一日中に家にいて子供の面倒をみて、料理をつくったりする「お母さん」は憧れの対象としてはじまったことからはじめよう。

前近代には「お母さん」はいなかった。

意外と「ええ?」という反応をされることが多いのだが、なんだか昔からいたかと思える「お母さん」も近代以前はいなかった。ここでいう「お母さん」とは、いつも家にいて、食事をつくってくれたり、掃除したり、子供になにくれとなく面倒をみてくれるという意味での「お母さん」だ。

つまり「ドラえもん」の野比のび太の「ママ」や、「クレヨンしんちゃん」にでてくる「みさえ」みたいなものだ。もちろん「サザエさん」もそうである。

こうした「お母さん」など、なんだか昔からいたようだが、決してそうではない。今回の「お母さん食堂」が訴える価値観と共通するような「おふくろの味」という言葉も決して古い言葉ではない。枕草子に「おふくろの味はいとおかし」みたいなことは書いてない。

まず、近代以前はどうだったのか。

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