箔玖恵

3児の母/亀と昆虫を飼わされてます/猫好き/お酒も好き/ノンアルコールも好き/

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    秘密屋のショートショートです。

  • 針ほどの月明かり

    小説です。

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一冊の絵本

それは一冊の絵本。誰に読んでもらえるだろう。ドキドキしながら本屋にやってきた。 子供が手に取ってくれるだろうか。隣に積まれるキャラクター絵本に負けてしまうかも知れない。 お母さんが手に取ってくれるだろうか。棚に並ぶ教育的な絵本に手が伸びるかも知れない。 本好きな女性が手に取ってくれるだろうか。綺麗な絵のメッセージ性の高い絵本が好みなのかな。 言葉の端々に気を配り、表紙の絵もこだわって、とても素敵な絵本になったと自信満々だったけれど、本屋で積まれたのは端っこだった。ちょ

    • てるてる坊主のラブレター / 毎週ショートショートnote

      「ツリーハウスを見に行かない?」 彼女はツンと嘴を尖らせて首を傾げた。 「自分で作ったの?」 「違うけど、新築っぽいのを見つけたんだ。」 「ぽい?中も見てないの?みんな自分で新築の家や素敵なプレゼントを用意して私を誘いに来るのよ。」 ぷい、と彼女は行ってしまった。 ガッカリしてツリーハウスに行くと、軒先にてるてる坊主がぶら下がっていた。 入り口に止まってつついてみる。 「彼女にあげたら大喜びの美味しい木の実入りラブレターですにゃ。」 どこからか声だけが聞こえた。 「誰?ツリー

      • 祈願上手 / 毎週ショートショートnote

        ゴツゴツとした岩肌に指先を引っ掛ける。足元は爪先が少し乗るだけだ。 「うわぁ!」 ザブン。また誰かが落ちたようだ。 海上に突き出た奇岩の上。その先にある神社は美しい音色で鐘を鳴らせば必ず願いが叶うと言う。 けれど、もう何人も登っているはずなのに鐘の音は一度も聞こえない。 必ず叶う願いにしか鳴らないのだろうか。 やっとのことで辿り着き、見上げると祠のはるか上に大きな鐘があった。 が、鈴緒が無い。 周囲に棒のようなものも見当たらない。もちろん手が届くような高さでも無い。 鐘を鳴ら

        • 記憶冷凍 / 毎週ショートショートnote

          『更新月ですので延長される場合はご連絡下さい。』 姉が持ってきた記憶冷凍倉庫からのハガキに、もう三年も経つのかと驚いた。 「なんだ、そのハガキ。」 父がひょいと顔を出した。 「お母さんの四十九日に思い出を冷凍保存したでしょ?」 父はきょとんとした顔をしていたが、少しして笑った。 「じゃあ3回忌に見て、また冷凍するか。」 「でも結構高いんだし、まだ冷凍しなくてもいいんじゃないかってー」 話している途中の姉に背を向け父は庭へ出て行った。 「ちょっと、お父さん。」 追いかける姉の手

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        記事

          放課後ランプ / 毎週ショートショートnote

          旧校舎の引き戸をそっと開ける。 教室の中央には机を囲むように椅子が四つ。置いてあるランプに火を灯すとガラスを通した光が波のように揺れた。 「『放課後ランプ』のおまじない、本当に効くのかな。」 カナが不安そうに言う。 「絶対に効くよ。先輩もこのおまじないで両思いになったって。」 四人は椅子に座った。 「いい?みんなはカナの幸せを祈る。カナはランプに向かって告白するんだよ。」 「・・・好きです。」 「ちゃんと、名前も。」 「もっと大きな声で。頑張れ!」 カナがすぅっと大きく息を吸

          放課後ランプ / 毎週ショートショートnote

          真夜中万華鏡 / 毎週ショートショートnote

          眠れない。 もう何日も落ち込んだ気分のまま昼も夜も過ぎて行く。 窓を開けると真っ暗な空。 月はなくても星が綺麗だ。 綺麗、なんて感情は残ってたんだと思うと少し笑った。引き出しから黒い下敷きを引っ張り出して丸めて筒にする。 そのまま星を覗いたら、真夜中万華鏡。 …になるかと思ったけどただの真っ暗闇。 そうか、万華鏡は中に鏡が入ってるんだっけ。 ため息をつきながら星を覗いていると、筒の向こうに白く美しい手が見えた。 真っ暗な夜空に瞬く星と白い手。 空から伸びてくる手は間違いなくこ

          真夜中万華鏡 / 毎週ショートショートnote

          トラネキサム酸笑顔 / 毎週ショートショートnote

          「トラネキサム酸?」 プレゼントした化粧水を見ながら首を傾げる。 「ふぅん。色白好きだもんねぇ。」 妻は肩につく長さの髪を指先で触りながら、ちらと僕を見る。 「見たの。色白ロングヘア、ワンピースの長身美女と映画館に入るとこ。」 深呼吸して冷静に、早口にならないように答える。 「あれは山崎だ。女装して外に出たいけど一人じゃ勇気が出ないからって頼まれたんだよ。」 スマホに入れたワンピース姿の山崎の写真を見せる。 「本当だ!山崎くんだ。えー、私より綺麗かも。」 「そんな事無いさ。で

          トラネキサム酸笑顔 / 毎週ショートショートnote

          春ギター / 毎週ショートショートnote

          缶ビールを一口。 窓辺に立てかけたギターと夜の花見。 白い月明かりに女の子らしいモノが何も無い部屋が浮かぶ。家具も服も黒ばっかで、可愛らしい色は外の桜くらいだ。色気の無い部屋が私らしくて少し笑った。 「夜ってさ、寂しいよね。」 真夜中にかけた電話は、私なりに誘い文句のつもりだったから、アイツが急いで来てくれてすごく嬉しかった。 「俺の古いやつだけど、やるよ。じゃあな。」 ギターを置いてサッと帰るアイツ。 本当はわかってるんだ。 アイツには彼女がいる。女の子らしいフワフワした子

          春ギター / 毎週ショートショートnote

          オバケレインコート / 毎週ショートショートnote

          話し声が聞こえて目が覚めた。 廊下を覗くと白くフワフワした物体がいくつも揺れている。よく見ようとドアに近づくと、ギィ。 慌てて壁にかけてあった空色のレインコートを頭からかぶり足が見えないようしゃがむ。 「君、すごく珍しいね。」 「空色にヒヨコ柄のオバケなんて初めて。」 部屋に入ってきたオバケの子供たちは僕のレインコートをつんつん引っ張る。 「どうやって色つけるの?」 「えぇと、ほら、うーんって強く願うんだよ。」 「うーん。」「うーん。」 けれどもちっとも色はつかず、オバケたち

          オバケレインコート / 毎週ショートショートnote

          雑記 お遊びに乗ってみた

          三羽 烏さんが↓こんな記事を乗せてまして、 ヒヨコ🐤さんが遊んでいたのです。 想像よりはるかに強そうなヒヨコ🐤さんに驚きながらも、私も乗っかって遊んでみました。 可愛いけど、ヒヨコさんの強そうな感じ羨ましいなぁ。本名…いや旧姓でやってみよ。 本名もちゃんと女子名なのに何故ミイラ?いやミイラだもの、包帯解いたら女子なのかも。 強そうかどうかは微妙だなぁ。 下記で名前を入れると「こんなかなぁ」ってイラスト出ます。 ちょっとした気分転換にどうぞ。

          雑記 お遊びに乗ってみた

          命乞いする蜘蛛 / 毎週ショートショートnpo

          「ちょっと、待ってください。」 蜘蛛はお釈迦様の指に足を絡ませた。 「お前の仲間を助けた男だぞ。気が向かないのか。」 蜘蛛は大きく頷いた。 「確かに一匹の蜘蛛を見逃しはしましたが一度きり。盗みや殺しを繰り返していた男ですよ?あそこにいる他の者達も同様。そんな中に私一匹が降りたらどうなりましょう。」 「おまえの糸を登ってくるであろうな。」 「えぇ、それも大勢で。そうなると私は罪深い人間の体重をかけられ、いや、私ごとき小さな身体は踏み潰されてしまうでしょう。」 蜘蛛は恐ろしそうに

          命乞いする蜘蛛 / 毎週ショートショートnpo

          桜回線 / 毎週ショートショートnote

          「不要な方消します。」 一行きりのメールが届いた。差出人のアドレスには覚えが無いから、普通なら迷惑か詐欺だと捨ててしまう所だ。 けれど、今の私には魅力的な一行だった。 「お願いします。」 「ご利用ありがとう御座いました。」 一ヶ月後に届いたお礼のメールを見て、暴力とギャンブルで出来たような夫が行方不明になったのは、あの時返信したからなのかと驚いた。どうしよう。あいつの借金返済で手一杯の私にお金は払えない。 「お金はありません」 「不要な方をいただいております。代金はかかりま

          桜回線 / 毎週ショートショートnote

          餃子が好き

          ※ショートショートではありません。(1000字) 「今日なに食べたい?」 と子供達に聞けば、たいてい唐揚げか餃子だ。 この質問を投げかけた時は正直作る気力が無いのだけれど、子供達は容赦なく付け加えてくる。 「ママが作ったやつね!」 鬼である。しかも三人の小鬼は育ち盛り。 母としてはサラダとかスープとか付けたいのだけれど、彼らは白飯と餃子だけでお腹いっぱいになりたいんだ、と訴える。 皮は作った方が美味しい気がする。でもそんな気力は無いからニラとひき肉と共に買ってくる。 冷蔵

          餃子が好き

          デジタルバレンタイン / 毎週ショートショートnote

          チョコは渡せなかった。仲良く話すミナと彼が頭から離れないまま部屋にこもっていると、お兄ちゃんがまたリモコンを持って部屋にきた。 「今度のはタイムマシンだぞ。戻ってチョコ渡してこい。」 2月14日に設定して赤いボタンを押す。 ダリの絵みたいな時計がすごい勢いで左右を通り過ぎ、気がつくとお兄ちゃんがいない。 外に出てみるとミナっぽい顔の等身大レゴブロックが立っていた。 「110100…」 「え?何?」 「00011011101…」 なんか変だ。 青いボタンを押すとダリ時計が逆向き

          デジタルバレンタイン / 毎週ショートショートnote

          行列のできるリモコン / 毎週ショートショートnote

          今日は一日中ずーっとドキドキして、テストもうわの空だった。 放課後の渡り廊下。ミナに彼を呼び出してと頼んで、チョコレートを持って待っていた。 足音が聞こえてきた。 精一杯可愛い顔で振り向く。ん? 「先生?」 「ここにいたのか。最近頑張っていたのに今日のテスト全然出来てなかったから探してたんだぞ。心配事でもあるのか?」 告白の事で頭がいっぱいでした、なんて言えない。 どうしよう。先生の向こうに彼とミナが見えた。 理系の彼につり合いたくて勉強頑張ってたのにバカだと思われちゃう。

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          ツノがある東館 / 毎週ショートショートnote

          「暴れ牛だ!」 あぁどうして今日は赤いスカートにしたのかしら、と自分を呪っても仕方ありません。 大きな暴れ牛を追いかけて大人たちが走ってきますが、想像より速い牛に追いつけそうになく、逃げろと叫ぶのがやっと。 暴れ牛の赤く充血した目は明らかにスカートを捉えていますが、足がすくんで動けません。 ドドド、と地響きと砂埃を立ててまっすぐ向かってくる暴れ牛。もう目の前です。 そうだ、これラップスカートだった。 咄嗟にスカートを止めているリボンを外し、右側に開きました。 暴れ牛は少しだけ

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