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輝ける腕輪

 やや無理に職業として言ってしまえば、私は錬金術師だ。いや正確には努力して研究した結果、そうなった。愛する恋人が突然死んだのだ。
 突然の心不全だったので彼の死体は綺麗なもので、私は生まれつき恵まれた語学力によってヘブライ語でもアラビア語でも古代語でもなんでも書籍を読みふけり、ちょいと違法なことまでやって資金を集め、とうとう彼を生き返らせる術を手に入れることに成功した。
 根の国。つまり地下に彼の魂は居る。
 地下に潜って魂を呼び寄せ、肉体と再癒着させる儀式を行えばよいのだ。
 私は休耕田を買い、ちまちまとレンタルのショベルカーで穴を掘り(免許も取った)、死体をかついで深夜に地下に潜った。一目につくといろいろビジュアル的にまずいからである。普通に違法行為だし。
 私は祭壇を作り、そこに彼の身体を横たえた。そしてちょっと出所の言えないグッズを使い、ちょっと人に聞かせられない呪文を唱えた。
「ででんがでん!」
 最後の呪文を唱え終わると、彼の身体がびくりと一度震えた。
 うまくいっただろうか。
 失敗すれば他人の魂が入り込むこともある。そうなればこの違法入手したロトの剣で速攻に一刀両断しなくてはならない。
 覗き込むと、彼はまぶたを痙攣させながら薄目を開けた。『彼』だ、間違いない。この気持ち悪い起き方は彼だ。
 しかし途端に、空間がゆがんだ。
「しまった! 薬に混ぜた陣痛促進剤の量が足りなかったか!」
 私は自分のうかつさに舌をうっかり実際噛んだが、彼はゆがんだ空間の中、襲いくる土にあっという間に飲み込まれていった。
 私はしばし呆然とした後、できるだけ冷静に考え、そして結論を出した。
 もうおしまいだ。
 彼は地下2、30メートルほどのどこかに生き埋めになってしまった。どこの座標か探しようがないし、土の中で窒息するか、『いしのなかにいる』みたいなところに、はまりこんでしまっただろう。
 絶望した私はパワーショベルもそのままに、とぼとぼと自分の家に戻ってきた。
 ダメだ。もう何もする気が起きない。もう今日はカップラーメンでも食べて寝よう。
 するとインターホンが鳴った。だるい身体をひきずって出ると、なんと彼が泥だらけで現れたのだ。
「地下鉄に乗ってきた」
 私は言った。
「マジかよ」
 涙ながらに抱きつこうとする私を、彼は制した。その背後には見知った服を着た見知らぬ男たちがいた。私は全てを悟った。彼は全裸で地下鉄に乗ってきたのだ。
「この人たちに事情を説明してくれ」
 いとしい彼の腕には、光る手錠が輝いていた。

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