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【指切りフレンド/エンド】

 部屋の中に一歩踏み出すと、人形を踏んづけだ。
 おっと失礼と謝罪の言葉が出る前に、足元の人形は胴体だけで首が外れていることに気づく。視線を上げて白亜の病室の中を見回すと、床一面が首のもげた人形で埋め尽くされている。

「なるほど、筋金入りだねこれは」

 黒い背広を着た若い男はそう呟くと、人形だったものの残骸をずかずかと踏みつけて、ベッドのそばの椅子に腰掛ける。
 真っ白のシーツと寝間着とは対照的に、真っ黒の長髪を蓄えた少女の真っ黒な瞳がベッドから椅子の男を見つめている。

「はじめまして。私は墨田川太郎。どうして私の首が千切れないのか知りたいかい?」

 幼い少女がもっと歳を重ねていれば、男の露骨な偽名に疑いを持つことができただろう。しかし黒髪の少女は純粋に疑問の答えを知りたくて首を上から下へと振る。

「私はいわゆる特異体質なんだ。【能力者の力に影響されない能力】とでも言うのかな。だからこんな仕事をしているし、君たちのような子を多く見てきた。私の仕事はね。君たちのような強い能力者を集めて教育するんだ」

 微かな困惑を顔に出す少女に、男は言葉を続ける。

「いろんな子を見てきたけど君は特に別格だね。目に見えるものだけじゃなくて、考えたものならどれだけ遠くでもどれだけ多数でも【首と胴体を切り離せる能力】。正真正銘の殺戮兵器だ。危険な存在と見做されて隔離されたけど、私は君を連れ出そう」

 墨田川は椅子から立ち上がり、部屋の出入り口の扉のノブを掴む。そして少女のほうを振り返りながら、

「君に会わせたい人がこの向こうにいる。首を千切らないと、約束できるかい?」

 黒髪の少女が頷く。
 墨田川が扉を開くと金髪の女の子が入ってくる。黒髪の少女は彼女に目を奪われる。まるで彼女自身が太陽みたいに輝いているようで、完全に虜になった。

「紹介するよ。【誰とでも友達になれる能力者】だ」
あなた素敵ね、私とお友達になりましょう!

【799文字/続く】

私は金の力で動く。