奈良正哉(鳥飼総合法律事務所弁護士)

元 みずほ信託銀行(株)総合リスク管理部長、同執行役員運用企画部長、同常勤監査役。みず…

奈良正哉(鳥飼総合法律事務所弁護士)

元 みずほ信託銀行(株)総合リスク管理部長、同執行役員運用企画部長、同常勤監査役。みずほ不動産販売(株)専務取締役。 現 日弁連信託センター委員、(株)タムロン社外監査役、理想科学工業(株)社外監査役、(株)熊谷組社外取締役。

最近の記事

信託らしい信託

 三菱UFJ信託銀行は、奨学金給付を目的として総額1,000億円の信託を組成する(5月29日日経)。個人富裕層をはじめ多くの委託者を募集して、信託金は同社が運用する。運用益を返済負担のない奨学金として多数の学生に給付する。  多数の委託者を募集する営業力、安定した運用益を上げる運用力、多数の当事者を管理する事務能力、これらすべてが必要だ。もちろん信託目的は奨学生支援という公益的なものだ。まさに、信託銀行ならではの信託らしい信託だ。 鳥飼総合法律事務所 弁護士 奈良正哉

    • 機関投資家を交えた座談会

       社外取締役として、機関投資家一社を交えて座談会をした。主要トピックは経営計画全般とESGに対する取組だ。座談会のファシリテーションをしてくれたアナリストは、「偶然にも」かつての職場の仲間であった。  筆者がなれなれしい口調で話し始めたので他の取締役も次第に打ち解けて、率直かつ有意義な意見交換ができたように思う。仲間はありがたい。 鳥飼総合法律事務所 弁護士 奈良正哉

      • 空き家の仲介

         不動産仲介会社は、空き家の仲介を頼まれたらどう反応するのだろう。案件として取り上げたくなければ、「営業地域外」であるなどと言って体よく断ることが多いだろうか。どうしても断れない場合は、仲介業者にさしたる手間が発生しない「一般媒介」といった形態で仲介契約を結び、実際は業者の仲介システムに登録したらあとは放っておくことになるのだろうか。  空き家を仲介業者の営業で解消するなら、手数料もさることながら、仲介会社の調査の手間とそれに伴って負うリスクを軽減しなければ実効性は上がらな

        • 投資商品としての現代アート

           5月26日日曜日の日経トップは、投資商品としての現代アートだ。日本のバブルの絶頂期から崩壊にかけて見てきたような内容だ。現代アートは不動産や株式より投資利回りが高いとする。  記事中さらに気になるのが中国市場の台頭だ。米国市場に肉薄している。日本など物の数ではない。アートは投資商品としては金利も配当も生まない。むしろ保管に金がかかる。中国富裕層が資金繰りに困ったら真先に売りに出されるだろう。かつて日本で見たように。 鳥飼総合法律事務所 弁護士 奈良正哉

          空き家の仲介手数料引き上げ

           空き家対策として、仲介業者(・・・不動産販売という会社)の取る手数料の上限が、18万円から30万円に引き上げられる(5月22日日経)。仲介業者の手数料は売買価格の一定割合だ。高額物件の方が手数料は高いので空き家のような低額物件は敬遠されがちだった。  しかし、どれだけ効果があるのだろう。空き家は需要が乏しいから空き家になっている。加えて長年放置されているから物理的な損傷も大きい。都心から離れた郊外にれば立地や行政制約にかかる調査も大変だ。そもそも契約者となるべき売主(所有

          株主優待

           投資指南の雑誌の特集には、値上がり期待、高配当とともに、株主優待が取り上げられる。個人的には株主優待は株主平等原則に反するから反対ではある。つまり1000株株主は100株株主の10倍の優待を受けられる設計にはなっていない。小口個人株主数を増やす目的だから当然だ。  最近では、アクティビストの株式保有も珍しくなくなってきた。保有されている会社は何らのアクションを起こされなくても、株主総会前にはピリピリしている。そんな状況にあっては、値上がりでもなく、配当でもなく、つまりアク

          賃上げ5.58%

           今年の大手の賃上げ率は5.58%となり、1991年以降33年ぶりの高さだそうだ(5月21日日経)。  雌伏33年。日本経済の逆襲もこれからだ。賃上げも5%を超えてくればさすがに物価上昇率を凌駕するだろう。賃上げ→生活水準向上を実感できるだろう(中小企業がついてこられるかは問題だが)。支持率低迷に喘ぐ岸田政権の支持率上昇につながるかもしれない。どっちでもいいが。 鳥飼総合法律事務所 弁護士 奈良正哉

          私大101法人経営困難

           私大101法人が経営困難な状態にあるという。うち16法人は26年度にも破綻のおそれがあるという(5月20日日経)。  記事にある少子化の影響はもちろんあるだろう。それとともに、特徴のない大学やいわゆるFランクの大学の乱立も原因ではないか。  大学で専門教育を受ける気持ちがない、あるいはその学力がない高校生は、早くに労働市場に入る方がいいのではないか。同時に高齢者はなるべく遅くに労働市場から出る方がいいのではないか。労働者不足対応にために。 鳥飼総合法律事務所 弁護士 

          社外役員の出番

           社外役員としては女性が人気だ。女性ゼロだった企業としてはキャノンの記憶が新しい。超大物御手洗氏の再任は50%ぎりぎりの薄氷だった。いつまでも「数合わせ」批判をしていては自らの地位が危い。  もうひとつ感じるのは、企業は安い人が好き、ということだ。特にスタンダード以下はそのようだ。安い報酬で取締役会では余計な事を言わずにお行儀よくしている人が一番なのだろう。  社外役員が役に立つのは平時ではなくて非常時であると思う。不祥事が起きたり、赤字や無配になるような時だ。安かろう悪

          集中に向かう世界株指数

           日本株15銘柄が全世界株指数から外された(5月16日日経)。円安を主因としてドルベースの時価総額が減ったのが主因とされる。  前にこのコラムで中国株低迷の表れとして、同指数から中国株56銘柄が外されたことを書いた記憶がある。日本株については円安が主因とはいえ他国を笑ってはいられない。  ちなみに米国株も15銘柄が外された。今回全体で79銘柄減少する。ようするに時価総額は一部の銘柄群への集中に向かっているということだ。全世界株指数といってもそんなに分散してはいない。 鳥

          総合職と一般職

           総合職と一般職の処遇に差をつけるのは、間接的な男女差別にあたるとの判決が出た(5月14日日経)。広瀬すずさんのCMでお馴染みのAGCの子会社が舞台である。  いうまでもなく総合職=男性、一般職=女性の職種だ。この職種分類は男女差別を正当化する制度であったがこれが否定された。いまだこの分類を残している体質の古い会社の人事部は対応を迫られるだろう。  原告の女性は、AGCの株主総会でも質問者として声を上げていた方ではないかと推測する。大会社に一人で立ち向かった勇気はすばらし

          CSR ESG SDGsさて

           企業経営にかかわる者としてはあるまじき状態かもしれない。ただ、かつてのCSR、その後ESG、さらにSDGs 最近では単にsustainable 。これらの関係が分からない。後者は前者の発展形なのか、包含関係なのか、はたまた異なる概念なのか。  いずれにせよ、企業外部者が問題にするのはE(環境)のようだ。ただ、これも全世界一枚岩というわけではない。一枚岩どころかアメリカでは社会分断のひとつの象徴だ。トランプ氏が大統領になって一連の環境政策が否定されて時間が経つと、親あるいは

          介護職不足

           休日の朝7時、近所のご老人の突然の訪問を受けた。  認知症患者が高齢者の7人に1人になるとの試算がある(5月9日日経)。介護職が絶対的に不足する。幼児保育も手間はかかるが老人介護ほどではないだろう。だいいち可愛いし。機械に頼って画一的な介護をすると人権が問題にされそうだ。いずれにせよ、相当な高処遇でないと介護職の不足は解消されないだろう。 鳥飼総合法律事務所 弁護士 奈良正哉

          オアシスの提案力

           アクティビストとして注目を集めているオアシスが、アインHDの株式を15%保有したとの小さな記事があった(5月2日日経)。ネット情報では、オアシスは、30銘柄くらいの企業の相応の株数を保有している。アクティビストとしていろいろな注文を付けているのだろう。  しかし、保有企業は業種もバラバラだ。各社で強みも課題もバラバラだろう。これだけ手を広げてしまって、各社の現経営陣を差し置いて具体的な提案ができるのだろうか。  結局「配当上げろ、自己資本減らせ(≒株価上げろ)」という誰

          退職代行繁盛

           ゴールデンウィークが明けて会社に行きたくなくなった人が増えて、退職代行業が繁盛しているらしい。この業務が生まれたときに弁護士法違反が懸念されていた。しかし会社と交渉に至らないように寸止めしたり、バックアップに弁護士と提携したりして上手くやっているのだろう。  「最後のけじめくらい自分でつけろ」との良識的な意見もある。しかし、退職意向を自分で伝えられる(しかも面前で)人は、そもそも入社してすぐにやめたりしないだろう。 鳥飼総合法律事務所 弁護士 奈良

          伊藤忠ビッグモーター救済はどうなるか

           伊藤忠によるビッグモーターの救済スキームが明らかになった(5月2日日経)。しかし企業の風土、体質変革は大変だ。長く務めている者ほど同社の違法体質は染みついているだろう。稲盛さんがJALを救済したが、JALの体質といっても収益認識が甘いなどというものであって、もちろん違法体質ではない。伊藤忠派遣50人の幹部で従業員4,200人に染みついた体質を変えられるか、壮大な実験だ。  しばらくは、伊藤忠から来た幹部は、現場から上がってくる不祥事報告、顧客クレームなどに仰天する日々が続

          伊藤忠ビッグモーター救済はどうなるか