naka satoshi/仲 悟志

劇団血パンダ団長。白玉古本店店主。富山県でひっそりと演劇の発生する瞬間を模索中。演劇を…

naka satoshi/仲 悟志

劇団血パンダ団長。白玉古本店店主。富山県でひっそりと演劇の発生する瞬間を模索中。演劇を見たのか実際の自分の経験か、夢でも見たのか。そんな風に記憶に入り込む演劇を作っています。 https://blood-panda.net/

マガジン

  • 世界の秘密

    世界の秘密についてをまとめた掌編集

  • 氷見の奇祭ブリスマスについて

    昭和40年代に廃れ、急速に忘れられた富山県氷見市の奇祭、ブリスマスについて、氷見市出身の歴史研究家、小説家の野坂利雄先生の草稿やメモを参照しつつ、調査を行う、フェイクドキュメンタリープロジェクト。

  • 怪談

    週に一本怪談をアップする試み

  • 血パンダはどうやって演劇を作っているか

    文化庁の文化芸術活動の継続支援事業をきっかけに、文化芸術活動の継続ってなんだよとイラッとした頭を冷やすべく演劇について何か書こうと思ったものの、切り口どうすんだよとなったところ、友人から「ゼロからどういう流れで作ってるの?演劇って」というお題をいただいたので、血パンダの場合について書いていきます。

  • しあわせのかおり前口上

    血パンダ公演『しあわせのかおり』の前口上です。

最近の記事

どうせ稽古を垂れ流しているし、これも外に垂れ流してみる。

富山県で人知れず活動している劇団血パンダ。 本番直前前だというのに、役者たちと技法そのものについて再確認をしたもので、テキストにまとめてみんなと共有しました。 以下は、そのテキストに、さらに少し手を加えたもの。 この前のエントリーの中身を、さらに具体的にどうしようかとまとめたものです。 上演用に仕上げているんだか、基礎練をやっているんだかわからない感じになっていて、それはそれで面白いというか、そもそも田舎で気ままに演劇活動ができるのをいいことに、演劇の発生する瞬間をずっと掘

    • 世界の秘密について

      あらすじ これは、ある日インターネットで発見された「世界の秘密」について記しているとされる一連のテキストの現代日本語訳である。 ギリシア語、ラテン語、英語を始めとした世界各地の言語や、エスペラントなどで書かれた一貫性の無いテキストがなぜ「世界の秘密」について書かれた一連のものと言えるのか合理的な理由は定かではないが、これらの話のもとになる歴史的事実や伝説、説話などの調査は、世界各地の有志の手で進んでいる。 ネット上のフォーラムでの議論は世界規模で行われており、オフラインの報

      • 第65話『魔法の杖と亀』

         全ての夢が叶った後、真夜中にサーカスの天幕の下に行くと、魔法の杖と亀のどちらかを選ぶ最後の選択が待っているといいます。  しかし、どんなに今に満足している人が天幕を訪れても、実際にこの選択に至ったという話しを聞くことはありません。  満足を得た後も、ただ正しく満足をし続けられる人というのは少なく、人が地上に幾つか存在する、最後の場所に至るのは、極めて稀なことです。

        • 第64話『小さな小さな劇団』

           スカラベの甲羅で作った小さな仮面が、今も大英博物館に収蔵されています。  この仮面つけて歌劇を行う劇団が幾つも存在して、ヨーロッパのあらゆる王城を巡っていたのです。  最初の頃、劇団は大層な人気でしたが、人気はながく続きませんでした。  この興行を行っていた一座の座長たちは、概ね普通の劇団も持っていたので、あっさりとこの色物から手を引いてしまったのです。

        どうせ稽古を垂れ流しているし、これも外に垂れ流してみる。

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        記事

          第63話『大親分の手並』

           ある時、盗賊の大親分が手下に裏切られていると気がつきました。  自分に慢心があったとは思いませんでしたが、手下に裏切られることなど、実は初めてのことです。  大親分は、盗賊を続けていくために何事も謙虚で慎重に、やり過ぎないことを心掛けいます。  大親分は、ゆっくりと手下の様子を見ることにしました。  手下は確かに大親分に取って代わろうとしていて、その分、自分の力量を過信している様子がありました。  大親分はある時、大きな押し込み強盗の先をわざと諦めて見せ、皆にしばらく姿を消

          第63話『大親分の手並』

          第62話『弾丸が正しく心臓を貫く以前』

           運命を強固に決められてしまう以前、弾丸は花粉が飛ぶように飛ぶこともできました。  その頃はまだ、撃ち抜くものと撃ち抜かれるものの関係もはっきりはしておらず、まだまだ互いの信念や誠実さが様々に作用していました。  弾丸の軌道が全てを圧倒したとしても、それに服従することがなければ、当たるということはありません。  神も悪魔も、最初は弾丸について全く注目していなかったこともありますが、弾丸が当たるか当たらないかは、全く縁や大義といったものの要素が大きかったことは確かです。

          第62話『弾丸が正しく心臓を貫く以前』

          第61話『長雨と税吏』

           長く雨が続き、その地方のあらゆる土地が数年に渡って水浸しになることがありました。  しかし、その地方を担当している融通の効かない税吏は、極力例年と同じ様に徴税するために、あれやこれやと手を尽くしていました。  太守は税吏を諌めましたが、手を緩めておくことが良い結果になるとは思えないと、税吏はあまり良い顔をしません。  もう、どこ向かおうにも、道は水浸しになっており、場所によっては船を使わなければ移動できなくなってしまいました。  しかし、税吏は視察先の段取りを決め、いそいそ

          第61話『長雨と税吏』

          第60話『猿の目的』

           晴れ渡った空の下、かつて繁栄を極めた都市の瓦礫を背にした海辺で、磁石を持った猿が佇んでいました。  十分に機械化された猿は、自らの蒸気機関を動かし、更に多くの猿を製造するための歯車の材料になる金属を探しているのでした。  今は平常に戻っていますが、少し前までは、機械の排斥が盛んに行われ、人は再び自分たちの手仕事を全ての産業の中核に据える闘争を実行したのでした。  猿が仕事をしていた場所はさながら墓所の様で、まだ完全に動くことのできない猿たちが、いつされるとも知れない修理を待

          第60話『猿の目的』

          第59話『約束と油断』

           意外と本当のことなので、少し気をつけて見てみると、水が吹き出す噴水の水が、二つの方向に分かれる現象を目にすることができます。  これは、その噴水の周辺で、何かの約束が行われた証拠なのですが、それはあくまで世界の法則の中でということなので、からずしも人間同士の約束が取り交わされたものを、勝手に映し出しているということではないので、注意してください。  ただ働き続ける昆虫の様な、心のない法則同士の約束であれば、何ら問題はないのですが、これが人間同士の約束の場合には、なかなか一筋

          第59話『約束と油断』

          第58話『臆病な男の決断』

           男はとても臆病な性格で、本来の旅の目的があったと伝えられていますが、それは何だったか詳しくはわかっていません。  ただ、旅の途中で、寿命が尽きてもなお死ぬことができなくて、現世にとどまっている龍に見込まれて、その伴をするために旅の行く先を変えたといいます。  男は、最初は龍を恐れてやむをえず同行していましたが、龍が現世を離れられない理由を知るにつれて、自ら進んで旅路を急いだということです。  龍の後悔は果てしなく、旅をしたからといって、その果に本当にあの世にいけるのかわから

          第58話『臆病な男の決断』

          第57話『鍵にかかる呪い』

           鍵には時々、とても危険な運命が宿り、鍵をかけて守るものそのものよりも、鍵自体に大きな意味が宿ってしまう場合があります。  そんな鍵が行方不明になってしまったら、それを探す旅は、普通の探索のたびよりも、更に苦難が待ち受けるものになります。  安らげる場所そのものを失う呪いは、鍵が勝手にひきよせてしまう種類のもので、鍵の重要さが増していくことによって、呪いの強さも、呪った人間の意図とは関わりなく強いものになっていきます。  我知らず鍵に呪いを引きよせられてしまったために、自らの

          第57話『鍵にかかる呪い』

          第56話『記憶の街』

           セルジューク・トルコの軍勢が、多くの塔の立ち並ぶその街を包囲したのは、麦の収穫を控えて、辺り一面が金色に輝いていた頃のことです。  街の長老たちは、どちらにせよ無事に収穫を終えさえすれば、貢納して見逃してもらうこともできるだろうと主張しましたが、それを喜ぶ若者は、一人も居ませんでした。  ただ、長老たちにはこの街にある塔のひとつひとつが、この様な包囲、占領、解放の記憶を全て宿していること、どんな形であれ、塔さえ残っていれば、何が変わっていこうと、街が本当に望まれていた形の記

          第56話『記憶の街』

          第55話『蜜蜂の全て全ての蜜蜂』

           ある朝、養蜂家は蜂がどこにも居なくなっていることを発見し、半ば自棄になりながら、周囲を探してうろうろしていました。  蜂が二度と、帰るべき巣箱に戻ることがないことは薄々感じていました。 行く先々、どこに行ってもこれっぽっちも蜂の姿を見ることができませんでした。  一日探し探し回ったものの、何も見つけることができなかった養蜂家が、ため息をついてうつむいていると、何かの大きな影に自分が覆われていることに気が付きます。  恐ろしくなって身動きができなくなった養蜂家の頭の中に、なん

          第55話『蜜蜂の全て全ての蜜蜂』

          第54話『静かに暮らす姉妹』

           人里を離れて豆を育てて暮らしている姉妹が居ました。  姉も妹も、透き通った美しい瞳をしているものの、近くの村の村人たちは、かえってその冴えた色の目が、少し恐ろしいような気がしており、普段はあまり行き来がありませんでした。  姉妹は月が欠け始めた頃と、満ち始めた頃に、決まって村にやってきて、豆や作物、二人が作った様々な品を持ってきては、暮らしに必要なものと交換していくのでした。  まだ村で暮らしている姉妹の親類が、二人にそろそろ結婚してはどうかと勧めますが、なかなか婿に入って

          第54話『静かに暮らす姉妹』

          第53話『苦難への誘い』

           眠っている時に届いた招待状を受けて出かける時には、出かけた先で口数を減らす様に気を付けるべきだいう教訓は、かつてギリシアで信じられていました。  多くの求婚者と競争をしてその命を奪ったことで知られるアタランテーが、アルゴー号の英雄たち加わることができずに失意の中にあった頃、夜明け前に使者が訪れ、出向いていくとその先で何かの腕比べを仕向けられるということが起こったそうです。  アタランテーは強く美しはあったものの、女であるために様々な苦難を味わうことになりました。  神託によ

          第53話『苦難への誘い』

          第52話『願いがかなうキノコ』

           春のある日、小人がたくさんのキノコを運んでくる日があります。  驚いてはいけません。ただし、小人の運んでくるキノコが全て食べられるものとは限らないので、なんでも一緒くたにして食べてしまうのは、おすすめできません。  運が良ければ、食べると願い事が叶う珍しいキノコが持ち込まれることもあります。  そのキノコを食べて、願いが叶った瞬間、決まって地面が揺れた様に感じて驚くことになりますが、その瞬間を過ぎれば、どんな形でか、願いが叶っていることを実感することができる様になります。

          第52話『願いがかなうキノコ』