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特集『オンラインの可能性』seek、オンラインライヴを語る

6月24日のオンラインライヴ『勇者物語 外伝
~未来をあきらめない日々~ Day,1 あきらめないSNGLE DAY』に始まり、5本のオンラインライヴを展開中のPsycho le Cemu。
オンラインならではの工夫に満ちたライヴは、
通常のライヴができないコロナ禍の今、
新たなエンターテインメントの可能性を提示するものになっている。
7月1日の『Day,2 あきらめないDANCE DAY』を終えたseekに、
オンラインライヴの手応えとその展望について話を聞いた。
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■6月24日から始まったPsycho le Cemuのオンラインライヴは、単にライヴを配信するのとは別のエンターテインメント性に溢れるものになっていますね。

4月ぐらいに、通常のライヴがしばらく厳しいなっていう状況の中でオンラインライヴがちらほら出始めてきて、新しい可能性がありそうだと思ったんです。オンラインライヴという新しい形のものを、エンターテインメントのひとつとして作っていけるかが僕らのポイントでしたね

■それが顕著に現れていたのが途中の8ビットの映像ですよね。

僕らがRPGで進んでいくようなひとつのゲームの世界とか、一冊の本を読んでいくような、そういうストーリー性のあるようなライヴにしたかったんですね。それと、曲調によって、毎回『~~DAYS』という分け方にするのを主軸に進めていきました。

オンラインライヴだと、曲間とか踊ってから楽器を持つときの間とか、通常だったらお客さんがメンバーの名前を呼んでる間が無音になるんですよね。それがすごく気になってたんです。そこを逆の発想で面白く出来ないかを考えて、映像を作ったり、ゲームのシナリオが進んでいくような展開にしたりしたんです。

僕が、“その間が気になるねんな”と言ったときに、“じゃあゲームの映像みたいなんがあったらえんちゃう”とAYA君が言い出して。敵が出て来て、その敵と戦う技の名前がPsycho le Cemuの楽曲の名前で、技を出したら敵のリアクションがあって、ファンの人がクスッと笑えるようなものができたと思います。

通常、Psycho le Cemuのライヴだとお芝居とかをやるんですけど、それをそのままやってたら、お客さんがいないからずっとすべってる空気になると思うんですよね。だから今回は、AYA君がシナリオを書いて、どうせ動画を作るならと思って8ビットにしたら、ファンの方はその8ビットバージョンンがすごくいいと言ってくれてて。オンラインライヴでここが気になるなっていうところが、逆にプラスの面白い方向に作れたのはよかったですね。

■MCコーナーも配信ライヴならではの演出で、ゲームの世界から自然につながっていくのもよかったです。

あそこは、ゲームのストーリー(敵を倒した勇者一行が酒場で休憩する)に基づいてるから、酒場のセットをどうにか作られへんやろうかって話してたんですけど、スタッフから、クロマキーバックにしたらどこでもいけるというアイデアが出たんです。それがすごく面白いと思ったんで、MCコーナーはクロマキーバックで酒場の中で休憩している演出にしました。

1日目は説明するのを忘れたんですけど、あの時間は換気タイムなんです。そのために結構長時間のMCコーナーになってるんですけど、“こいつら、ライヴ中に何をだらだらしゃべってんねん”って受け止めてる人もいたんですよね(笑)。

■ほかにご覧になった方からはどんな意見がありましたか。ご意見フォームも作られましたよね。

カメラワークの点でいうと、僕ら作り手の考えとお客さんの要望はちょっとずれてるところがありますよね。お客さんがライヴを見に行ったときって、俺はこの言葉を使うのはあんまり好きじゃないんですけど、推しを見てるので、自分がディレクターなんですよね。基本は推しに目線を送っておいて、ポイントだけはほかの人を見るというスイッチングをご自身で皆さんされているんです。だから、要望ですごく多いのはVRとか、それぞれのメンバーのマルチアングルのもの、そういうのを希望される方が非常に多いのは面白いし、今の時代っぽいと思いました。

■なるほど。通常のライヴのときは、皆さんそれぞれ好きなところを見てるわけですもんね。

みんながディレクターやから、この映像が見たいというのがはっきりあるんですよ。2日目の「DANCE DAY」については、振付が見たいんだから、もっと引きの映像がほしいという意見があって。僕らからすると、引きの映像がずっと続くのは、定点で撮った資料用の映像みたいに感じられるから、いろんな要望があるんやな、すごいなって思いました。

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■seekさんご自身は、オンラインライヴを経験してみていかがでしたか。

朝からずっと、今日はライヴだっていう感覚はあったんですけど、機材を組んでリハーサル始めたらカメラがいっぱい並んでるし、さぁスタートするぞっていうときも通常だと袖でスタンバイして、スタッフのキュー出しがあってステージに出るのとは違ってるし。それは演出の都合もあったんですけど、10秒前からカウントダウンがあったりして、どちらかというとテレビの歌番組の収録に近い感覚でライヴはスタートしましたね。ステージに出てるという点では、ちゃんと画面を通じてお客さんが向こうで見てる感覚を持ちながら、僕はやれました。

ただアーカイブを客観的に見ると、メンバーによってライヴをやってるなという人と、なんていうのかな、ちょっと表現が見つけられてないんですけど、またちょっと違う人がいて。最初の2本を見たときに、すごくYURAサマがよかったんですよ。この人、オンラインライヴに向いてるなと思いましたね(笑)。

例えば僕の特徴でいうと、激しい曲でお客さん煽って、何なら自分もダイブしてっていうのが、1日目(「SINGLE DAY」)と2日目(「DANCE DAY」)では封印されてしまってるわけですよね。だから、お客さんからしても通常のライヴと違うと思うんですよ。そういうギャップがなかったというか、むしろプラスαの部分で普段より輝きが増してたのがYURAサマやったという印象はありますね。基本的なことで言うと笑顔。その印象がすごく強くて。メンバーによってそれぞれ違いは感じたかもしれないですね。

オンラインライヴという新しい価値の値段は?

■オンラインライヴ全体を振り返って反省点とか、今後への課題として感じているのはどんなことでしょう?

トラブルがあったのが一番の反省点ですね。リハーサルの段階で、こうなった場合どうするのか、とかはスタッフとも話していて、「少々お待ちください」みたいなのを作ったりもしたし、本番前のテスト配信ももちろん行ってるんですけど、いざライヴがスタートしたところで、1日目の頭2、3曲目がトラブルで止まってしまったんですね。

それは、ライヴハウスのネット環境と配信側のバランスが取れてなくて不具合が生じたことが原因だったんですけど、どこが原因であろうと、チケットを買った以上、ライヴ感が感じられなくなった瞬間に、お客さんの気持ちは覚めてしまいますよね。次はええわ、オンラインライヴってこんなもんやったなと思ってしまわれると思うんです。配信するということがまだ完成されていないがために、ファンの方にご迷惑をおかけしたのが第一回目の一番大きい反省点ですね。

■まだまだ未知なものであるだけに、そこは難しいところですよね。

1日目にそういうトラブルがあって本当に申し訳ないなと思ってたんですけど、2日目もラスト2曲前のMCのところで回線が止まってしまったんですよね。そこの原因も探っているところです。最低限クリアしておかないといけないとダメなので、チケットを買ってもらってる以上、徹底したいです。

でも、今回のような5本やる企画だと1回目と最後は見てくれる人が多くて、中だるみするのが通常かなと思うんですけど、有り難いことに1回目と2回目で全く同じ数字がきているんです。トラブルがあったにも関わらず、2回目も見てくれてる方がいらっしゃるのは有り難いですね。できることなら、右肩上がりに数字が伸びていけばいいなと思ってます。

■事前のニコ生で、スタッフさんも交えてライヴの制作方法について説明したときに、予算を立てるためにもチケットを早く買ってねというお話をされていましたが、実際にはどうでしたか。

その放送を見て、“じゃあ早く買います~”って言ってくれた方もたくさんいたけど、結果的にはライヴ前の3日間にチケットが急激に伸びましたね。結構、心臓が痛かったです、4日前まで。全然売れてない、どうしようって。でも、オンラインライヴのチケットの性質というか、当日でも1分前でも、何ならライヴ中でもチケットを買えるという特性が、すごく顕著に数字に出たということですよね。2回目に関しても、チケットが伸びたのは3日前からでした。

■整理番号がないですし、いつ買っても同じわけですからね。

そうなんですよね。特典ばっかりになるけど、早期購入特典とか、早割みたいなのとか、そういうのが出て来るのかなと思いますね。

■以前の取材で、オンラインライヴのチケット代の妥当な額がまだ決まっていないというお話もしてましたけど、どうなりそうだと思いますか。

何かね、全然話が変わるんですけど、

■(笑)いえいえ、どうぞ。

去年の年末に、中学校の同級生とLUNA SEAのライヴに行ったんですよ、クリスマスの埼玉スーパーアリーナ。その同級生はアイドルの追っかけをやってるんで、埼玉スーパーアリーナも行ってるらしいんです。その子がチケットの値段を見て、LUNA SEAのライヴのこんだけの照明とか音響とか映像とかでこの値段やったら、全然満足やわって言ってたんです。

10代の頃に比べたらお金も持ってるし、値段よりも満足度のほうが重要になってくるんですよね。やっぱり美味しいものをきちんとした値段で食べたいという感覚にもなってくるやろうなって、そいつの話を聞いたときにすごく思ったんです。

まだ正直、オンラインライヴのチケットをいくらにするか決める難しさはあるけど、こんな試みをやって、こんな楽しめて、こんな値段なんやって思えるものをすれば、納得してもらえる値段はあると思うし。逆を言うと、演出とかの内容によってはチケット値段を下げて、もっとたくさんの皆さんに見てもらいやすい安価なものにするとか、はっきりと分かれてもええんちゃうかなと思ったりもしてます。

■最近はどんどん配信ライヴが増えていて、これまでライヴをしていたように、月に何度かライヴをするような感覚で配信ライヴをするアーティスとも出て来るのかなと思うんです。それに、ライヴハウスのために配信ライヴをするみたいな一面もありますよね。Psycho le Cemuのオンラインライヴはそれとはまた異なるものという感覚でしょうか。

そこのすみ分けがすごく難しいなと思ってます。また、感染の情勢が悪くなってますけど、ライヴについてはたぶんグラデーション的に進んでいくと思うんですね。今のガイドラインにのっとってお客さんに来ていただいて生のライヴをやります、と同時にそのライヴの模様を配信しますという両立があって、だんだんライヴハウスとか僕らみたいなエンタメ業界がもとに戻っていくんだと思うんです。

ただ、Psycho le Cemuがやろうとしてるオンラインライヴはちょっと違うというか。これだけオンラインライヴに特化したものをやろうとしていて、通常のライヴをやるときに4カメぐらいの固定カメラで配信して見られる方はどうぞって言っちゃったら、今回の5本のオンラインライヴでこだわったことは何やったんやろうとなるような気がする。だからそこは別のものとしてアプローチをしていかないとダメですよね。でも、バンドさんとかライヴハウスにとっての面で考えると、両立して進めていかないといけないのもわかるし。

僕らも、ガイドラインにのっとった通常のライヴもいろいろと考えてるんですけど、会場費だとか収容人数だとかを考えると、それだけで採算がとれるものではないんです。そうなるとチケット代を上げるしか選択肢がなくて。だから、まだ難しいというのが正直なところですかね。

■seekさんが考えているのは、ガイドラインにのっとった生のライヴがあって、ライヴを単に配信する配信ライヴがあって、それとは別にきっちり作ったオンラインライヴがあるような形でしょうか。

どれにしても、それぞれに対していいネーミングがないですよね。無観客ライヴともいわれてるけど、僕の中で無観客ライヴというと、台風がきたときにXさんがやらはったあれなんですよ。あのインパクトが強すぎて。今やってることを表す、いい言葉がないんですよね。オンラインライヴもちょっと伝わりづらいし。無観客の無が無料の無に思われてるんちゃうかなとも思うし。今のこういう状況ならではのもやもや感はありますね。

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みんなで作り上げているオンラインライヴの可能性

■東京の感染者数が増えていて、先行きは決して明るくないですが、今後の展開についてはどんな風に考えてますか。

弾き語りはごく趣味的にしかやってなかったんですけど、この状況になって弾き語りのライヴを一緒にやりませんかって何人かから声をかけてもらったんです。今のところは、7月7日にひとりでやってみます(取材は7月4日)。ガイドラインにのっとって、リスクもなくやれるものということで、弾き語りみたいなものはこれから増えたりもするのかなとも思いますね。

配信ライヴも、地方に住んでて普段なかなかライヴに行けない方は、すごくいいですねっていう声は聞くし。ただその逆に、普段ライヴを中心に生きてる方は物足りなさを感じてしまってる。むしろ配信ライヴを見たから余計ライヴに行きたくなってツライという方もいらっしゃるだろうし。この状況が続いて、ファンの方も疲れてるんじゃないかなとは感じてます。バンドというものと距離をとろうとしてる方も実際いてらっしゃるんちゃうかなって。

僕らはね、作り手なので、たとえ実験的でもこういうオンラインライヴも含めて、バンドというコンテンツを楽しんでもらえるものを提供していきたいと思うんです。ちょっとまだ追っつかないことが多いし、課題はいっぱいあるんですけど。

■実際に2回やってみて、改善していける手応えもあるんじゃないですか。

毎回ライヴが終わってから、翌日にアーカイブを見て、映像と照明とバンドに細かいダメ出しを書いてみんなに送り付けるんです。そこを改善して、さらに見てる方との要望とのズレをどういう形で埋めていけるんだろうか考えてます。いろいろなスタッフも含め、ファンの人もひっくるめて、このオンラインライヴをみんなで作っている感がありますね。

オンラインライヴは、いくら俺らがステージでやってても、スタッフがきっちりできてないと全くそれが伝わらないものでもあるんですよね。1回目が終わったときに、みんなで気を引き締めてやりましょうってメールを送ったんです。すごく可能性を感じるものだからこそ、すごく大事に作りたいと思ってます。

前に取材をしていただいたとき、コロナ禍においてバンドという形態は向いてないという話をしましたけど、Psycho le Cemuだからこそ面白いものができるというのをひとつずつ形にできていってるんです。もうワンランク上の、こうしたいというアイデアもメンバーの中から出て来てるから、オンラインライヴならではのものをもうちょっとやってもええんちゃうかなとは思ってますね。

■通常のライヴができるようになる時期がまるで見えないですし、残念ですが長期戦を覚悟する必要がありそうですからね。

ファンの方の協力もいただきながら、一歩ずつでも前に進めていければと思ってます。今ね、ライヴをやられている方も賛否両論あると思うんですけど、何とか頑張ってほしいなという気持ちはすごくあって。そういう人らが否定もある中で一歩を踏み出して、否定されてもやってることが、確実にライヴをやる一歩につながっていくと思うんです。だからチャレンジしていってほしいとすごく思いますね。

■その間にオンラインライヴもひとつのエンターテインメントとして根付けばいいですよね。

オンラインライヴも新しいチャレンジをいろいろしてますよね。清春さんのはMVみたいになってたし、MUCCもね、みんながアクリル板のところでやってて、ガスマスクと手袋をつけて距離を無視してやるのもすごく面白かったし。発想の転換じゃないけど、それをひとつの演出にしてしまうのは上手いことやってんなって。もとから面白いバンドはどんな状況であれ面白いことしよるんやなって思いましたね。本当にバンドさんによって違いが見えて面白いですよね。

今回の5本が終わって、次に何かをやろうというときにはもっといろんな可能性があると思うし、それこそライヴハウスじゃないところから配信できるようなこともあるんやろうし、いろんな可能性を感じてます。もうちょっとテレビの要素も入れられるだろうから、誰とどういう形で進めていけるのかも、今やってるやり方が全て正解ではないと思うんですね。映像ディレクターの方と一緒に作るのもひとつの方法としてありそうですよね。

こういう状況で、自分がやらなあかんことがまだあるのだけでも有り難いです。チャレンジしていける気持ちはまだまだ強いから。やっぱりバンドというものが持ってる強さがあると思ってるんです。僕らは2月23日から5人でステージに立ってる姿は見せてなかったんで、1日目のライヴのオープニングのシーンは、ひとつの画面に5人がおるところを見せることにこだわったんです。今は個々の活動も増えてきてるし、それ自体はええことやと思うけど、僕らはバンドなんだぜっていうのが軸足としてしっかりできたらいいなって改めて思いました。

インタビューという形を通して、アーティストがSNSなどで直接届ける言葉には乗らない“何か”を届けられたらと、コツコツがんばっています。その“何か”を受け取れた、と感じてくださったらぜひサポートをお願いします。大きな大きな励みになります。