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「カンディード」に見るペシミズムの克服

「冗談はよして」クネゴンデは老婆に言った。「婆や、あなたがブルガリアの兵士二人から強姦され、お腹をナイフで二回刺され、お城を二つつぶされ、自分の目の前で殺されたお父様が二人、お母様も二人で、火あぶりの刑場で尻を叩かれた恋人の数も二人だったのであればともかく、そうでなければ、婆やが私よりも不幸だなんて言えるわけがないわ。……」

光文社古典新訳文庫、斎藤悦則訳

いやいや、それ以上の不幸がバシバシ出てくるのがヴォルテールの「カンディード」という本である。

この本を読もうと思ったきっかけは、ペシミストの哲人・マルチンが登場すること。
また、有名なラストのセリフ「けれども、わたしたちの畑を耕さなければなりません」の意味を探るためだった。

ペシミスト、マルチン

「カンディード」の原題は『カンディード、あるいは楽天主義説』であるから、楽天主義(オプティミズム)がメインテーマである。

オプティミズムは「きっといいことがあるさ」という楽天主義ではない。
もともとはライプニッツの思想で、「世界は善なる神が創造したものゆえ最善のものであるとする考え方」(斎藤悦則)だ。斎藤は「最善説」と訳している。

文中にあらわれるオプティミズムの担い手は哲学者の「パングロス」である。主人公カンディードは当初は家庭教師であった彼を信奉していたが、あまりに自身と他者に理不尽な不幸がおそいかかるため、オプティミズムと決別することになる。

全体として「カンディード」は「オプティミズムを批判する本」と考えて良い。

さて、オプティミストを打ち砕くにはペシミストだ、というわけでヴォルテールが用意したのが哲人マルチンである。

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