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デジタル時代のアナログコミュニケーション in Berlin

私もいっぱしの現代人なので、スマホを所有し、ラインやWhatsAppでのやりとりを日常的に行っています。が、時代遅れな文通もしています。紙ベースのコミュニケーションは、ひと手間ふた手間余計にかかりますが、0と1から成る閉じられたデジタルコミュニケーションにはない別の面白さがあります。想定外のハプニングが起きたり、手紙を中継してくれる人々のさりげない気遣いが伝わってきたり、いろいろ楽しいです。

というようなことを考えていたら、面白いサイトを見つけました。Notes of Berlinです(インスタ版はこちら)。ここには、ベルリン中に貼られたユニークなメモ(貼り紙)がカテゴリー分けされて載っています。それだけだと何のことかわからないと思うので、数例を紹介しましょう。

紳士用トイレ:ペニス小10セント、ペニス大2ユーロ(notesofberlin.comより)

男性トイレの料金表示です。見事に2ユーロコインばかりです。ネタかもしれませんが、絵葉書にもなっているので文通用に思わず買い求めてしまいました。

その他、夜中に騒音をたてた隣人に、「今度やったらハンマーをてめえのケツの穴にぶっ刺してやる」と警告(?)したり、「夜中のセックスうるせー! 次は警察呼ぶぞ」と文句を垂れたり(同様の文句に対する強気な反論の貼り紙もありました)、「エレベーターで小便したやつ、見つけたら俺がお前を散歩に連れて行く」と宣言したり、ベルリン市民はなかなか直接的にユーモラスで雄弁です。日本人が隣人に注意するときは、もう少し遠慮がちで無難な表現を選ぶのではないでしょうか。隣人同士の良好な関係など歯牙にもかけない自分本位な主張が、島国で生まれ育った私にはとても新鮮です。

ざっと見た限り、ご近所のやりとり、泥棒への呼びかけ(返して、罵詈雑言、変わったところではPC盗まれちゃった人が泥棒に中のデータを買い戻すと呼びかけているものも。PCはどうでもいいけど、中に修士論文が入っているそう)、恋愛もの(一回会って少し言葉をかわしただけの人に宛てたナンパ系貼り紙がとても多い)、遺失物関連(XXを見つけたよ、XXを届けてくれてありがとう……)などがあります。そのうち傑作選をちょこっとだけ紹介します。

ここで大麻を栽培しないでください

貼り紙の丁寧さに感動しました。大麻は撤去されたのでしょうか? 

マットレスを捨てた人間に対する呪詛

自分の家の前にマットレスを捨てられて、呪いの言葉をA4いっぱいに綴った人の表現力に心を打たれすぎて爆笑しました。これだけ英語です。

腎臓売ります

5万ユーロ(800万円くらい)だそうです。ネタだとは思いますが……。深読みすると警察のおとり捜査???

結婚指輪をなくして妻に殺されそう

なくした人がまだ存命だといいのですが。

私の一番のお気に入りは、隣人同士のつんけんしたやりとりです。1番目の人が2番目に「私に腹を立ててるみたいだし、あなたの気持ちがほぐれるように本をあげるね。1冊目は……、2冊目は……」と長々と説明をし、2番目の人が「興味ないのでドアの前に本を置くのやめて」と返事をし、3番目の人が「なんちゅういかれたやりとり」と突っ込んでいます。関係者全員、好き勝手なメッセージを残しています。この、相手の気持ちを忖度しあう日本では絶対に生まれないであろう、殺伐としたやりとりが自然発生するさまに、感動すら覚えます。

こんな風に率直に、メモや張り紙で人とのコミュニケーションをとる文化がベルリン(ドイツ)にあるってことなんでしょうか。それとも、欧州全体がそうなんでしょうか。ベルリンをお手本にしたらしい「notes.of.vienna」、「notesofhamburg」、「notesofmunich」を発見しましたが、どれもドイツ語圏のものです。

そもそも、貼り紙やメモはその場限りのコミュニケーションのために使用されるもので、用が終われば捨てられます。当然ながら、その場にいる人間しか目にしません。また日常的に貼り紙を目にしたとしても、当たり前すぎて、それがその街固有の文化かどうか、個人では判断がつかないと思います。それを、Notes of Berlinはデジタル化して情報を蓄積しながら、意思疎通の媒体として今なお日常的に使用されているベルリンの貼り紙の総体を、文化として誰もが認識できる形で記録したところがすごいなと思います。(結果的にそうなったとも言えますけど。)

他方、東京で「Notes of Tokyo」を始めても、わりにおとなしい張り紙しか集まらないような気がしますが、どうなんでしょうか。私が思いつく一番過激な貼り紙は下のものですが、これはあくまでフィクションですからね……。

「アンダーニンジャ」第1巻より

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