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GNTM (Germany's Next Top Model) のハイディ・クルムの話

最近トップモデルのハイディ・クルムによるモデルオーディション番組「Germany's Next Top Model」(略してGNTM)のシーズン19が始まりました。2006年から19年間続いているわけで、ハイディすごいです。今50歳のハイディが30歳くらいで始めた番組ですよ。私はこれが見たいがために、テレビを買ってしまいました。ハイビジョンのアップでもハイディの美しさは輝くばかりです。シミやシワなんて見当たりません。

「XX's Next Top Model」シリーズは、タイラ・バンクスが2003年にアメリカで始めたトップモデル発掘番組で、瞬く間に世界中に広がりました。国によって長寿番組に成長したものと、数年で打ち切りになったものがありますが、ドイツはハイディの底知れぬパワーに牽引されてコロナ下もずっと続いていたようです。

私は2000年代に初期のGNTMとかANTM(アメリカ、オーストリア)、CNTM(カナダ)などを視聴していました。当時はオンデマンドなんてないので、ユーチューブにアップされていた動画を一生懸命探した思い出があります。それが今や全シーズン見放題で、隔世の感があります。その後日本に永久帰国したはずでしたが、なぜかベルリンに来てしまったので、またGNTMを見始めました。

ハイディ自身が1973年生まれの50歳で、これまでずっとトップをひた走ってきました。1990年代のトップモデルは多いですが、ファッションモデルの範疇を超えて成功したのはハイディとタイラ・バンクスくらいかなと思います。(カーラ・ブルーニはフランス大統領夫人になったので、別のカテゴリーで有名になりましたが……。)GNTMだけではなく、ハイディは全世界同時配信されたアマゾンのデザイナー発掘番組「Making the Cut」でも英語の司会もこなしていました。彼女はプロデューサーも兼務できるので、活躍の幅が広いのでしょう。とにかく精力的です。

対する参加者のほうは、みんなモデルという職業にものすごい憧れを抱いてオーディションに臨みます。が、そのほぼ全員がGNTMを脱落することになるわけで、その時には大抵もう世界が滅亡するくらいの勢いで取り乱します。(たまにけっこうふてぶてしく去っていく者もいて、それはそれで好感が持てます。)でも、モデルになれなくても人生全然オッケーだし、いい経験をしたくらいの感じさっさと持ちを切り替えて、更なる可能性を模索していってほしいなと思います。だって、トップモデルになれるのは、全世界の80億人の中で20人くらいですよ(多分)。お金がほしいなら株で儲ければいいし、承認欲求を満たしたいならインフルエンサーになればいいし、今どき代替手段はいくらでもあります。そして何より、GNTMで1位になったからといって、トップモデルになれるわけでもないのです。というか、優勝者で過去にトップモデルになった者は一人もいないと言われています。

そういう虚実が複雑にからまりあった番組がGNTMです。勝者総取りのゼロサムゲーム兼リアリティショーという側面を持ち、参加者の喜怒哀楽がテレビで赤裸々に映し出されます。あるユーチューブビデオでは、元出演者(候補者)へのインタビューをまとめていましたが、けっこうきつい内容でした。番組収録中はハリウッドの超豪華な別荘に住めるが、スマホを取り上げられ、ネットやニュースはアクセス不可。家族や友人への連絡は3日に1度、1回10分で、それもカメラのあるところで。散歩やジョギングも含め外出は一切禁止。その上、他人と24時間衣食住を共にし、プライベートは一切なしという環境です。番組の進行上、情報統制が必要になるんでしょうが、割を食うのは出演者です。察するに、出演者にストレスをかけて人間関係の圧力鍋を人工的に作り出し(圧力弁なし)、(小)爆発をカメラで記録していくという目論見もあるんじゃないでしょうか。有名になれる(かもしれない)から、それくらい我慢してねってことなんでしょうけど、わりとえぐいやり方です。

それでも、今や子供のころからGNTMに憧れていたという若者がどんどん応募してきますから、GNTMが候補者に困ることはありません。50歳を超えたハイディがますます華麗に煌めく秘訣は、GNTMから生み出される高額ギャラだけではなく、若い出演者の正負のエネルギーまでをも余さず養分にしていることだったりするのかもしれません。なかなか罪深い美しさと言えましょう。

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