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【小説】日本の仔:第24話

【品川 果歩】(徳永セカンドチルドレン)
「好きです。できれば俺と...」
「ごめんなさい!」

 告白された瞬間に断るのは、もう何度目だろう。
 私は自分の直観を心底信じている。というか、目を見ればその人が何を考えているのか何となく解るよね。
 はっきりと解る訳じゃないけど、いいイメージなのか悪いイメージなのか、実は怒っているのか、悲しんでいるのか、顔は笑っていても、心は泣いている人をごまんと見てきた。

 私はなぜかそういう人ばかりに好かれる性質らしい。
 目の前にいるこの男の人も、見た目は身長178cm、体重68kg、筋肉の付き方は腕を見る限りはしっかりとしていて、腕を使うスポーツか常日頃腕を使っている人の腕ね。肌も陽に焼けているから外での活動が多いんでしょう。ヨネクスのクレーコート用のテニスシューズを履いているところを見ると、テニスプレーヤーかな。髪の毛はちょっと茶髪気味でワックスできれいに固められてるけど、わざとボサボサ感を出すようにセットしてるよね。毎朝、鏡の前で10分くらいはいじくってる感じかな。
 目はとても澄んだ茶色で、一見素直そうに見えるけど、思慮が浅いのが透けて見えちゃってるなぁ。
 世間ではこういう人を「イケメン」と呼ぶんだろうけど、中身がなぁ…
 表面は単純に明るそうに見えるんだけど、結構、恨みとか嫉みとか感じるんだよなぁ。
 これはー、家族、親と兄弟に対してかな。
 あー、おまけにこの人、本気で私のこと好きな訳じゃないね。
 淋しさと悲しみ、ちょっと怒り、これは最近誰かに振られたな。
 パッと見はもてそう、でも完全に不合格ね。

「少しは俺の話を聞いてよ」
「もう十分聞いたよ…(心の声をね)」
 追いすがる男を振り切り、私はさっさと立ち去った。

 私はS工業大学の3年生で建築を学んでいる。ここはそのキャンパス。工業大学は昔、ほとんど男性しかいなかったそうだけど、今は4割が女性。
 なぜか?私も詳しくは知らないけど、昔に比べて結婚が減ったからだと誰かがニュースかなんかで言っていたように思う。日本の人口はどんどん減っていて、歯止めを掛けようと時の政府が色々な政策を打ったらしいけど、悉く失敗し、逆に女性が結婚して子どもを作らなくていい状況を作り上げてしまった。

 私はそんな中、人工授精で産まれた、俗に言う「日本の子」。
 母は私を女手一つで育ててくれた。話によると「日本の子」には手厚い援助が行われることになっていたけど、私は何も持っていなかった。そう、平々凡々な子どもだったのね。それは「日本の子」には許されないファクターだったらしい。

 結局私は小学校に上がる際に「日本の子」モードからドロップし、ほぼすべての優遇措置を取り上げられ、小学校も住んでいる家の近くの公立小学校になった。
 それまでは毎日黒塗りのクルマが朝、家まで迎えに来て、約1時間を掛けてある施設に通っていた。
 私は歩いて5分ほどの小学校に通えるようになって、単純に近くになってよかったと思っていた。
 その頃から母は怒りっぽくなり、パートの仕事に出るようになった。今思えば、私のドロップによってほとんど収入もなくなり、話が違うと思ったのだろう。
 そんなこととは露知らず、私は平々凡々と小学校時代を過ごして行った。

 そんな中、小学5年生になった頃、仲のいい友達ができた。彼女の名前は玉川愛海。とてもかわいい娘で、頭も良くて、優しくて、何より私のことを好きだと言ってくれて、毎日のように一緒に遊んだ。
 はっきりと友達と呼べるのは後にも先にも彼女だけだった。

 でも小学6年生になったある日、急に私のことが嫌いになったと言ってまったく遊んでもらえなくなってしまった。
 私は理由が分からなくて途方に暮れた。
 何か嫌われるようなことをしてしまったのか、一生懸命考えたけど、何も思い当たらなかった。
 そして、授業中に後ろの席から彼女をじっと見つめていたら、ふと彼女の声が聞こえた気がした。
「池崎くんが果歩ちゃんを好きだなんて、許せない!」

 え?
 池崎くんが私のことを好き?
 池崎くんは同じクラスの同級生で、サッカー部のエースと言われている子だった。
 今度は池崎くんを見てみた。
「うー、腹減ったー、給食まだかなー」
 まだ二時間目なのに...
 朝練してるからかな。
 えっ?、私、人の考えてることが分かるのかも。

 でも私は池崎くんのことは特に何とも思っていなかった。
 愛海ちゃんとどうしても仲直りをしたかった私は、放課後愛海ちゃんに、私は池崎くんのこと何とも思ってないよと話してみた。
 すると、愛海ちゃんは
「え?何言ってるの?バカじゃないの?!」
 と益々怒らせてしまったようだった。
 その時は、私が勝手に勘違いして怒らせてしまった、と思ったけど、後から考えたら図星だったんで怒ったのだと気が付いた。

 こうして愛海ちゃんとは決定的に絶交状態になってしまい、中学で離ればなれになってしまった。
 それ以来、誰とも友達にはならずに大学生になった。
 大学には奨学金制度を利用して入学したから、早く卒業して就職してきちんとお金を返さなければならない。
 友達も恋人も私には要らない。

 でも何故か高校生の頃から色々な男子に声を掛けられるようになっていた。
 中にはまともな人もいることはいたけど、結局皆エッチがしたいという思いが見えて幻滅した。
 まあ、健康な若い男子なら当たり前の思いなんだろうけど、常にその思いを突きつけられる方はたまったもんじゃない...
 子どもの頃はハッキリ見えた人の心の中も、大人になるにつれてぼんやり感じられるくらいになっていたけど、隠している本性はすぐに見抜けるほどの力は残っていた。
 いつか受け入れられる日が来るのかしら...
 私にはムリね。

 3年生の夏、就職活動が解禁になって、同級生たちが色々な企業を訪問していた。
 訪問と言っても、実際に行くわけではなく、大学の就職課の端末からwebで面接を行う。
 多くの学生はAIコンシェルジュを持っているから、大学を通さず直接企業にアプローチしていた。面接もAIコンシェルジュが行うから、実際には特に何もしなくてもよかった。
 私はAIコンシェルジュを持っていなかったので、自分で直接面接を受けていた。
 ちょっとズルい考えで、面接官の心を読めば楽勝よねと思っていたのに、ほとんどの企業の面接はAIによるものだったから、かなり苦戦をすることになった。

 大手の建設会社は軒並み落ち、中堅どころや個人の建築事務所などにも視野を広げて行った。
 そんな時、就職課から妙な連絡が入った。

 環境省が私を指名して面談をしたいらしい。
 理由はよく分からなかったし、公務員志望でもないけれど、もしかしたら面白い仕事もあるかもと、その面談を受けることにした。

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