猫になりたい 1 彼が泣く
彼女が消えた。
本当になんの前触れもなく、消えてしまった。僕は成す術も無くただその事実の前で呆然と立ちすくんだ。恋人の僕にさえも何も言わずに失踪した彼女の意図は分からない。だけど僕は不思議と冷静だった。涙すら出なかった。
外はいつになく寒くて、冷たい雨が降っている。気まぐれな空の下で僕は息を吸って、吐き出すのを繰り返した。鼻の中をつんと冷たい空気が刺激する。なんということのないそれすらも今の僕には確かに自分が生きていることを思い知らせる。雨の音が傘の上で不思議なリズムを