真田広之さんへの手紙 1
1999年
冬
役者真田広之はいつものように
ロンドンの町を走っていた。
なぜ自分は、今、ロンドンにいるんだろう。
真田は今でも不思議に思うことがある。
日本の映画界ではすでに
主役を張り続けていた男が、
一転発起して
ロイヤル・シェクスピア・カンパニーのリア王に
参加してすでに半年。
保守的なイギリス演劇界に身を投じ、
もがき、悩み、変わろうと努力する月日、
いわばそれは積み上げてきた彼のキャリアを、
ゼロに戻す冒険だった。
失敗すればこれまでの栄光を
一気に失うかもしれな