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KUON 2022秋冬-「ぼくらの値上げ」-

こんにちは、藤原です。
このところKUONと関係ない投稿ばかりしていたので、今回はKUONの2022年秋冬シーズンのことを書きます。

今シーズンのテーマは「-Sen-」
資料によると。

昨シーズンの『光』に続いて『無意識下で私達の認知能力に影響を与えるもの』にフォーカスしました。
今シーズン着目した『線』は物事の境界を表す細長いスジ状のものを意味する言葉です。
歌川広重は雨の降る様子を『線』で表現しましたが、家紋や伝統文様は自然の風景を『線』で単純化したものであり、さらには日本語には『線』を用いた比喩表現が多いことからもわかるように、日本人の表現活動において『線』は身近なもので重要な役割を果たしてきました。
雨が水面に形作る波紋、砂浜に打ち寄せる波、竹籠の編み模様など身近にある『線』が今コレクションの着想源となっています。
また、コート・シャツ・Tシャツのスタイル名に含まれた『金継ぎ』とは日本の伝統的な陶磁器、漆器の修理技法です。
修理した『割れ』『欠け』部分に金粉を用いた華美な装飾を施すことで、機能価値を回復するにとどまらず、『時間・歴史・持ち主の愛』を刻み込み、新たに『情緒的価値』を付与します。
器の『割れ』『欠け』さえ美しさに昇華する『わびさび』の精神を通して、KUONの多様性を尊重する姿勢を表現したコレクションです。

KUON Fall/Winter 2022

本当かいな笑
KUONは毎シーズンデザイナーの石橋とディレクターの畠山がキャッチボールを繰り返すことでコレクションの企画が進行する、別名「畠山メソッド」方式です。

ぼくが石橋だったら途中で逃げます。それくらい怖い「畠山メソッド」
ただ、これを学ぶと間違いなくデザイナーとして数段進化します。

ぜひ直営店やお取扱い店舗などで実際に手にとって、袖を通していただきたいです。

ときにシンプルで力強く、ときに繊細で複雑。

日本の伝統と洋服の起源である西洋の融合とでも言うのでしょうか。
KUONがずっと取り組み続けてきたこのテーマが大きく形になったのが、今シーズンではないかとぼくは思っています。

このためにオンラインストアも夏前に強化したので、もし店頭に来ることができなくとも大丈夫です!

さてさて、ぼくが今回のnoteで書きたいのはテーマやデザインではなく、ビジネスの話。ずばり「値上げ」についてです。

お気づきの方も多いかと思いますが、KUONはこの秋冬シーズンから商品価格が上がっています。

こう言う話題をするのは「野暮」「カッコよくない」「デザインが良ければ問題ない」という意見もありますが、大事なことでもあり、ぼくはデザイナーではないので書いてみます。

値上げにはいくつかの理由があると思います。パッと思いつくもので、
1. ブランドの人気が上がったため
2. 商品のクオリティを上げるため
3. 原材料の高騰などによる

ぼくも自分でファッションブランドをはじめるまでは、人気が出ると値上げをするイメージがありましたが、実際にブランドを運営してみると、ことはそう単純ではなかったです。

値上げにはブランド毎に色々な事情が複雑に絡んでいる。というのが実情です。

ただ、今回の値上げは単純です。

「もはやこれまで通りでは日本ではブランド経営ができない」と判断したからです。

いま、原材料、人件費、運搬費など、洋服の生産に関わる全てが高騰しています。理由はコロナ禍、ウクライナ情勢、為替などなど。

これはファッション業界に関係なく、皆さんの身近で、会社で、ほとんどの人が感じている、もしくは耳にしている。と思いますが。
これまでギリギリのところで、あれやこれやとなんとか持ち堪えていたのが決壊した。というのが近い表現かと思います。

ここからは、ぼくの個人的な見解が多分に含まれているので間違えているかもしれません。間違いがあればご指摘などお願いします。

例えば、繊維などの現場。
日本の繊維業界はとっても優秀で、世界からの信頼も厚いです。
自動車業界などの他の製造業と同じく、「現場レベルの技術」が高く、いわゆる「カイゼン」が強みだと思います。
生地によって工程の順番を変えてみたり、ひと手間を加えたり。
海外では非効率的だと断られることに挑戦すること。
これがコム・デ・ギャルソンやヨウジヤマモト、イッセイ ミヤケからはじまり、日本のブランドが世界に羽ばたく下支えをしていました。
KUONでもお取引がありますが、本当に面倒なことを引き受けてくれるのです。
産地の中小企業、零細企業、一人一人に支えられています。
革新的な事はなくても、革新的なものづくりを支える力がありました。

これが近年難しくなっています。
これだけでnote 3個分くらいになってしまうので、また別の機会にしますが。
コロナ禍、高齢化、外国人技能実習生などなど。
工程を変えることのできる従業員が定年などで退職し、ひと手間を加えることができなくなりつつあります。
また、日本の繊維産業の原料の大部分は輸入です、これが今入って来ていません。もしくはものすごく高騰しています。しかも為替によるダブルパンチ。

世界で信頼される「メイド・イン・ジャパン」は品質というより、現場の修正力だったり、改良する力だったんだと思います。生地の品質はもともとヨーロッパだって素晴らしい。

2018年の経済産業省の資料ですが、日本は生地輸出に比べて、衣料品の輸出が他の国に比べると圧倒的に弱い。
クールジャパンなどの政策でコンテンツを強化していてもです。

経済産業省「繊維産業現状と経済産業省の取組」(2020年1月)

次は物価の問題
これも書き始めるとnote 3個分笑になってしまうので、「そういうもんか〜」と認識していただければなんですが。原価率と値上げの話です。
根底にあるのは日本人の収入が増えてないことです。

あくまで一般的なブランドの話です。
国内市場を中心としたブランドであれば原価率は25%~35%くらいでしょうか。
アパレルブランドの原価率は小売価格(お客様が買うときの価格)をベース(卸先によって掛け率が異なるので)にしています。

小売価格:10,000円
卸売価格:6,000円(だいたい6掛け)
原価:2,500円〜3,500円
粗利:2,500円〜3,500円

海外を主戦場にするブランドだと原価率は20%以下にしないと利益が出ません。
ここに広告宣伝費やサンプル費用などもかかります。

前述の理由でこの原価が今ものすごく上がっています。
他の業界と同じく、これまではあの手この手の「経営努力」でやりくりしてきましたが、それも限界でしょうか。
展示会をしていてバイヤーさんたちの話を聞いていると、今秋もしくは来春からどこも値上がりしているそうです。
上記の原価率をクリアできないと、ほとんどのブランドは利益が出ないので続ける意味がないです。

ここ数シーズンぼくにはチキンレースをしている感覚がありました。
値上げをすると、元の値段に値下げをするのが困難になります。
以後はこれをベースに計画を立てるし、ぼくらの様な中小規模のブランドはよほどのことがない限り値下げできません。
なので、洋服作りに携わる皆がなんとかマンパワーでやりくりをしながら、なんとかその場を凌いできた。
だけど、その先にはもっと大きな壁があって、マンパワーではどうすることもできない。
誰も幸せにならない構図です。

ぼくたちブランドの商品を仕入れていただいているお店さんはもっと大変です。

小売価格:10,000円
仕入価格:6,000円
粗利:4,000円

ここに固定費などがかかる上に、在庫リスクがあります。
そりゃあ、大手さんが軒並みオリジナル商品にシフトするわけです。
ブランドも卸売をしないで、お客様に直接販売する、いわゆるD2Cが当然増えます。

20,000円のシャツが、25,000円になるとします。
仕入れ予算が変わらなければ、数量を減らさなければなりません。
となると、これまではS,M,Lと仕入れられたのが、S,Mだけになって、Lの販売機会損失につながる可能性があります。

お客様も「ものがよければ値上げしても買います」
これは真実だと思います。実際お店に立っているとそう感じます。
だけど、お客様のお財布の中身は変わらないので、購入点数は減ります。
結果として、数をつくれなくなるから、工賃は上がり、原価が上がります。
数が減れば工場の技術も維持できません。

海外は物価上昇に合わせて収入も増えているので、比較的値上げに理解があります。

しかし、海外だけで値上げをすると、日本とそれ以外で差が出ます。
日本から輸入する国は、送料や関税などを支払うので販売価格は日本より高くなります。すでにある内外格差がさらに広がります。

今はインターネットやSNSで海外の情報はすぐに手に入ります。日本だけ安ければお客様は日本から取り寄せます。しかしそれでは海外のお店は仕入れる意味がありません。海外で戦うためにはどの国で買っても値段は変わらない。というのが理想です。

ちなみにKUONでは毎シーズン畠山Dが「畠山メソッド-セールス編」でとても細かなデータを元に価格設定をするので、ここ数シーズンで内外格差がほとんどなくなりました。

さあ、どうしましょう。
ここまで自分で書いていて、過去最高に筆が進みませんでした。
シーズン前にはデザイナーたちアトリエチームは徹夜続きです。
なにこれ、詰んでんじゃん笑
誰も幸せにならない…

でもですね、それでもですよ。
ファッションってやつはぼくらを惹きつけて止まないんですよ。
新しいシーズンが来るたびにワクワクしちゃいます。
秋冬商品が入荷をしてくる度に、店頭で全部試着してワーワーしています。

KUON Flagship Storeをオープンするときに考えたのが
「真夏に嬉々としてコートを試着してもらえるブランドになるには」でした。

だからぼくらは毎日考えています。

実際にこの夏の酷暑の中で立ち上がりにたくさんのお客様が来店していただけていることがぼくたちの自信につながります。
近々発売予定のコートはお問い合わせがたくさん。

こんなに長引くとは思っていなかったコロナの影響。
2020年9月にKUON Flagship Storeをオープンして、思い通りにいったことなどありませんが、たくさんのお客様が訪れてくれるようになりました。
ぼくらのお店、原宿とは言え、けっこう端の路地裏で、しかも入りづらいオーラを出してます笑 それでも若い子たちがたくさん来てくれるようになりました。
先日は会社を拡張し、新しく「一朶」という場所もオープンしました。

SNSでの情報が1番重要だと思うようになってしばらく経ちますが、インスタントに流れる情報ではないところに人の心が戻ってきてる感じもします。
王道、原点回帰。ファッショントレンドも回っています。

分からないことに不安になるより、ぼくたちの望むことに向かって進む。

弊社得意の「運と勢い」でしょうか笑

自分で書いていても最高につまらないnoteに最後までお付き合いしていただいて大変申し訳ないのですが、今のところこの問題に正解はないと思います。
だから、これからも、毎日頭から煙が出るほどに考えたいと思います。

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