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第15回 小田急電鉄50000形について語る

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3ヶ月振りです
鉄道に興味のない方に少しでも関心を持っていただく入り口になれればいいなと始めた当シリーズも今回で15回目
今回紹介するのは小田急電鉄50000形です

50000形は2005年に導入された小田急電鉄の車両です
小田急の特急用車両「ロマンスカー」の新型として開発されました
ロマンスカーには代々愛称がつけられていてこの50000形は "Vault Super Express" 略して「VSE」
と呼ばれています
この車両について語るにはまずロマンスカーについて説明する必要があります
小田急ロマンスカーは戦後の小田急電鉄が運行を始めた箱根直通特急をルーツに持つ日本の私鉄特急の代名詞ともいえる存在です
首都圏から箱根へ向かう観光客を運ぶためのスペシャルな車両といったところです
そんなロマンスカーには1963年に登場した3100形「NSE」から受け継がれる数々の特徴が存在します
この50000形はそれらの特徴を最新の技術でさらに洗練させ、小田急電鉄のフラッグシップトレインとなるべくして開発された車両です
まず何と言っても最大の特徴は両端の先頭車に存在する展望席
流線型の車体の先頭部分に4列の展望座席が設置されていて仕切りのない巨大な前面ガラスから存分に車窓を楽しめます
この展望席の為にロマンスカーの運転席は客室の屋根の上、二階部分にあります
展望客席のある車両は日本にも数多く存在するのですが、このセッテベロ形と呼ばれる運転室を完全に乗客の視界から見えなくしてしまう構造を採用していた車両はごくわずかであり、
現在日本では小田急とJR九州でしか採用されていません
勿論運転室は屋根上の限られたスペースしかないので天井が低く居住性はかなり悪い構造になっています
VSEではそれでもかなり改善されていますが、かつてのロマンスカーは運転士が足を伸ばして座っていたほどです
運転席への出入りは客室から収納式の梯子を上って行います
折り返し駅ではその光景を見ることができますね

運転席がそんな場所に存在するためそれとは別に両先頭車の車端部に車掌室が備え付けられてるのも特徴と言えます
またこの50000形は10両編成なんですが1両の長さは先頭車で18メートル、中間車だと14メートルしかありません
小田急で使われている20メートル車と比較すると全長で7両分の長さしかないのです
そしてこの50000形のもうひとつの特徴が車両と車両を繋ぐ台車
全車両で連接台車を採用しています
日本の鉄道車両の大半は現在ボギー台車といわれる方式を採用しており、ボギー台車と連接台車、何がどう違うのかを簡単に説明すれば連接台車はボギー台車に比べて乗り心地がよく急カーブに強い代わりに圧倒的にメンテナンス性が悪いのです
小田急電鉄のようにボギー台車の車両と混ぜて運用すると運用面での問題も多く、要するにボギー台車でも問題なく運用可能なカーブしか存在しない鉄道会社にとってはかなり扱いづらい存在です
その扱いづらさ故に日本での浸透率が低いと言えるのですが、小田急ロマンスカーは代々この連接構造を採用している車両が多く、
この50000形もその伝統を守っています
全ては乗客の乗り心地の改善のためなので小田急電鉄がロマンスカーに懸ける想いの強さがわかるりますね
実際揺れが少なく滑るように走るのでとても乗り心地がいい車両です
座席自体も大きめでどっしり座れて快適であり天井が高く照明が明るい車内は落ち着いて車窓を満喫できます
また展望席や普通座席以外にも観光特急としての工夫が多く3号車にはグループで利用するための4人個室シート「サルーン」座席、
車内販売用のカフェカウンターにいたっては3号車と8号車の2箇所に設置されています
ただ小田急電鉄は今年正式にロマンスカー車内での飲食物の販売を終了、現在このカフェカウンターは無用の長物と化しています
車内販売サービスがロマンスカーでの楽しみというファンは決して少なくないはず
これは流石の私もショックと落胆を隠せませんでした
…しかしそんな悲しいニュースがあってもこのVSEが名車なのは紛れもない事実
独特なミュージックホーンや車両外壁との段差を生じさせないプラグドアの採用といったこの車両ならではの面白さはまだまだあります
箱根に行く際は是非ロマンスカーを利用してみてくださいね

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(↑筆者が箱根湯本駅~入生田駅間で撮影したVSE この区間は曲がりくねった線路に遮断機のない小さな踏切が点在しているため歩くときは常に列車に注意したい)

あとVSEとロマンスカーについてもう少し補足をします
初代ロマンスカーとして1957年に登場した小田急3000形は全国の鉄道ファンに凄まじい衝撃を残しました
大胆な流線型のデザインは当時としては極めて画期的でありまた東海道本線で行われた試験走行では当時の狭軌鉄道の世界最高速度を更新
この車両を表彰するために鉄道友の会によりブルーリボン賞という賞が作られたほどで、その名は日本の鉄道史に永遠に刻まれると言っても過言ではない名車です
そしてその血脈を受け継いだ特急ロマンスカーは数々の魅力的な車両を生み出し利用客に愛されていました
ですが年月が経つにつれて全盛期と比較して利用客は大幅に減少、"ロマンスカーのブランド"にも陰りが見え始めたのです
そこで小田急電鉄がもう一度ブランドイメージを取り戻すため生み出したロマンスカーの原点に立ち戻った車両、それこそが50000形VSEなのです
まあこんな蘊蓄非常にどうでもいい話ではありますが、ご利用の際は車両を生み出した小田急電鉄の熱意に思いを馳せるのも一興かと思います

もうひとつ、ロマンスカーの歴史を語る場合に外せない車両があります
先述した3100形ロマンスカーが登場したのは1963年ですが、その2年前に日本で初めてロマンスカーと同じセッテベロ形展望車を採用した車両が生まれていたのです
それこそ名古屋鉄道7000系「パノラマカー」、こちらも日本の鉄道史に残る不朽の名車と呼ばれる車両です
その大胆なデザインは登場から今に至るまでファンの心を掴んで離さず、また日本の鉄道車両のデザインに大きな影響を残しています
元々は特急用として登場した車両でしたが2000年前後になると流石に老朽化が激しく、特別料金のいらない各停などの運用も多くなりました
私が初めてパノラマカーに乗ったのもこの頃でしたが「こんな車両に普段から乗れるなんて夢のようだ」と沿線住民を羨ましく思ったのを覚えています
現在は全車が引退してしまいましたが名鉄の車両基地と名古屋本線沿線に存在する中京競馬場にて静態保存されています
特に中京競馬場に保存されている車両はいつでも見学できるため一度は見てみるのをお勧めします
とてもかっこいいですよ

ロマンスカーついでに箱根の話をします
以前箱根登山鉄道のモハ1形を紹介しましたが、今年三月限りでその兄弟機といえるモハ2形のうち1両が引退しました
モハ1形は箱根の山を100年に渡って走り続けていると紹介したのですがこのモハ2形も90年以上活躍を続けた古参の車両です
オールロングシートのモハ1形に対しモハ2形の車内にはクロスシートがずらりと並び、車両としての風格はこちらの方が上だと感じてしまいます
私も最後に乗りに行きましたが力強い走りは引退間近でも健在でありやはりいい車両でしたね
この引退により箱根登山鉄道の旧型車両はモハ1形が2両にモハ2形が1両の計3両になってしまいました
長らく箱根の顔として親しまれてきた旧形車の完全引退もいよいよ遠くはなさそうです
最後まで無事そのキャリアを終えて欲しいですね

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(↑筆者が引退直前に強羅駅構内で撮影したモハ2形109号 登山電車といえばオレンジにグレーですがこの深緑色のカラーリングも好きです)

小田急電鉄の魅力はいっぱいあるんですがまず語るべきはやはり小田急新宿駅の存在でしょう
小田急新宿駅はJR新宿駅の西側に存在します
上下2層式、地上3線地下2線の私鉄の単一路線のターミナルとしては日本最大級の駅です
この駅の面白いところは通勤用ホームとロマンスカー用ホームで雰囲気が全く異なることですね
4番・5番ホームの通勤用ホームは常に人が行き交いホームドアもずらっと並んだいかにも首都圏といった感じの空気なのですが
2番・3番ホームのロマンスカー用ホームは広いホームに売店やベンチが並びゆったりとした時間が流れています
そしてこの2本の全く空気の異なるホームがすぐ隣に並んでいるんですよね
隣同士のホームでこの温度差はなかなか見れるものじゃありません
改札付近は窓ガラスを多く配置し自然光を取り入れて非常に明るい構造になっているのも特徴です
とてもいい駅ですね

今回は以上です
小田急電鉄についてはまだまだ語れることがいっぱいあるのでまた近いうちに取り上げるんじゃないかなあ
とりあえず今はロマンスカーミュージアムに行きたいですね

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