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第20回 JR北海道キハ281系について語る

なんだか涼しいを通り越して急激に寒くなってきた今日この頃。
紅葉のシーズンも近づき旅日和といった感じですね。
記念すべき第20回、紹介するのは引退が今週末に迫った非常にタイムリーな車両、JR北海道のキハ281系です。

1:北海道の鉄路の立役者 キハ281系

↑スマートなスタイルが特徴的なキハ281系
函館~札幌間をおよそ3時間半で結ぶ

キハ281系は1992年に登場したJR北海道の特急型気動車です。
振子式特急気動車としてはJR四国の2000系に続いて日本で2番目に導入・運用に投入されました。
当時JR北海道では1988年に青函トンネルが開業したばかり。
函館~札幌間の大動脈を結ぶ特急のスピードアップを目標としていました。
特急「スーパー北斗」の専用車として製造されたこのキハ281系はなんと日本の気動車で初めて最高速度130キロでの運行を行い、
函館~札幌間の所要時間は最速で3時間を切るという大幅なスピードアップを果たした偉大な車両です。
登場してすぐこの車両から得たデータをもとに改良型であるキハ283系が開発されたため製造数自体は27両と決して多くありませんでした。
しかし最新形式であるキハ261系まで続くJR北海道の特急車両のスタイルはこのキハ281系が培ったと言っても過言ではありません。

正面顔は北海道の噴火湾をイメージしたブルー一色。
中央に大胆に貫通扉を設置してその上に運転台を置く高運転台構造を採用しています。
JR北海道の特急は季節ごとに両数の増減が激しく、もしものときには先頭車の前にも車両を増結することで対応するための貫通扉ですね。
縦に細長くシュッとしたシルエットと車体の上部に集中的に設置された前照灯がかっこいいですよね。
キハ281系をはじめとしたJR北海道の特急型車両共通のアピールポイントがまずこの先頭車の貫通扉にあります。
実はこの貫通扉のある空間は運転席の内部ではなく、先頭車のデッキから乗客も入れるようになっているんです。
つまりここは予約をしなくても前面展望が存分に楽しめる特等席。
スピード感溢れる特急の車窓を存分に楽しめるスポットでした。
…ただし現在は保安上の理由からかこの空間には立ち入りできなくなっています。
これは他の形式も同じく。うーんもったいない…
貫通扉の下部には特急列車におなじみヘッドマークがしっかりついています。
北斗七星をあしらった「北斗」のヘッドマークはシンプルだけどかっこよくてお気に入りですね。

↑先頭車貫通扉への通路
かつては常にファンが車窓を眺めていたほどの人気スポットだった

車体全体はステンレスそのままのシルバーメタリックですが乗降用の扉がある場所は大胆にブルーで塗り分け、
アクセントとしてJR北海道のイメージカラーであるライトグリーンの帯が縦に入っています。
先頭車側面に入れられた「FURICO 281」のロゴマークもかっこいいですね。
客用扉は日本の鉄道ではあまり見ない外吊り式のプラグドアを採用しています。
単にデザイン上の都合からだけではなく、雪が多く気温の低い北海道において気密性が高く雪も付きにくいプラグドアは
車体と乗客どちらにも配慮した設備と言えますね。

このキハ281系の内装で特に注目したいのはグリーン車。
豪華な座席が並ぶ「これぞグリーン車!」といった内装なのですがなんとこのキハ281系のグリーン車、座席が点対象配置になっています。
振子式の車両は重心のバランスを極端に崩さないようにする必要があるのですがグリーン車は2列+1列の3列シート。
どう配置してもそのままでは重心が片側に傾いてしまう為、車両中心から点対象に座席を配置することで重量のバランスを取っています。
客室自体も天井がとても高くてスッキリしているのが好印象ですね。
排気設備なんかもなく客室がとても広く見えます。
グリーン車にある車掌室がオープンカウンター式になっているのもキハ281系の特徴です。
何か車掌さんに聞きたいことがある時にもこれなら話しかけやすくていいですね。

またこのキハ281系は一度大きなリニューアルを受けているのですが、自由席車両には登場当時の姿がほぼそのまま残っています。
座席のモケットもデッキとの仕切り扉もブルーでまとめた爽やかな内装と大きな窓は
登場から30年が経過しているけど古臭さを感じさせないシンプルにまとめられていていい感じですね。
もちろん自由席といえど乗り心地も問題なし。
長時間乗車にも問題なく耐えられる優れた内装デザインになっています。

↑自由席の車内
天井が高くすっきりしていることにも注目していただきたい

個人的にキハ281系で好きなポイントと言えば「音」です。
特急型気動車特有の大出力ディーゼルエンジンが全力で加速するときには大きな音を立てるのですが、
このキハ281系の発する音はまさしく唸り声のようです。
大きな唸り声を上げながらグイグイと加速していくあの感覚は一度味わったらやみつきになりますね。
加速減速を繰り返す必要のある急カーブの多い線形故にこの声を聴けるタイミングも多いです。

キハ281系は長年札幌へ向かう特急のエースとして活躍していましたが後継車両であるキハ261系に置き換えられる形でついに引退が決定。
去る9月30日に定期運用からは離脱、10月22日・23日にさよなら運転を行って引退することになっています。
北海道の鉄道に多大な貢献を果たした偉大な車両のラストラン、1つの時代の終わりを感じます。
皆さん是非このキハ281系のことを覚えておいて欲しいですね。

↑プラグドアを採用しているため車体側面に凹凸が少ないのがキハ281系の特徴
こうして見ると非常に美しい

2:特急「北斗」のあれこれ 引退するもう一人の立役者

↑キハ183系で運行される特急「北斗」
キハ281系が登場するまで北海道の主役はこの車両だった

ここからは車両ではなく「北斗」という列車やその沿線にも焦点を当てていきます。
まずは北斗の車窓の話。
特急北斗は函館~札幌間を函館本線・室蘭本線・千歳線経由で走っています。
この区間のうちおよそ半分近く、森~白老駅近辺はなんと断続して内浦湾の海沿いを走る区間なんですね。
もっとも海沿いと言ってもずっと海が見えるわけではなく海と線路の間には集落があり海は遠くにわずかに見える、程度の区間も少なくないのですが…
それでも本当に海が近い区間もありますし風景がバラエティに富んでいて見るものを飽きさせません。
また新函館北斗を出てすぐの場所で列車は大沼国定公園の敷地内を走ります。
この時列車から見える大沼の景色はとても綺麗!山裾に広がる沼を一望できます!
是非覚えておいてくださいね!

↑大沼公園を通過中の列車から
……天気が良ければもっと美しいんです本当だよ

次にちょっとした雑学を。
キハ281系は特急「スーパー北斗」としてデビューしたと書きましたが現在は「北斗」として活躍しており「スーパー北斗」という列車名は消滅していました。
何がどういうことなのかというと最初は函館~札幌を結ぶ特急のうちキハ281系が使われるものをスーパー北斗、
国鉄時代の車両であるキハ183系を使用する列車を北斗として区別していたんですね。
キハ183系とキハ281系では最高速度や所要時間が異なる故の配慮でした。
2018年に北斗の運用からキハ183系が離脱したことで全列車が同じスピードとなりました。
それによりこの区間の特急はスーパー北斗へと名称変更、さらに2020年には全列車が北斗へとさらに名称を変更されたことで
スーパー北斗という名称はその26年の歴史に幕を閉じたのでした。
でもやっぱりキハ281系といえばスーパー北斗!と考えるファンは多いようで今度のさよなら運転時にも列車名を「スーパー北斗」が使われるとのこと。
余裕があれば最後に乗りに行きたかったなー!

で、北斗からは引退したキハ183系ですが実はこちらも今年度中の引退が決定しています。
キハ183系は元々雪と寒さに強い北海道向けの特急型車両として1979年に登場しました。
その後92年まで増備が続いたとはいえ登場から40年以上が経過しているためまあいつ引退してもおかしくないと思ってはいたのですが
まさかキハ281系の方が先になくなるとは思ってませんでしたね。
かつては北海道のあらゆる路線で特急の主力として利用されていたキハ183系ですが、
現在は網走へ向かう特急「オホーツク」「大雪」でのみの運用となっています。
日本中で国鉄形車両の引退が相次いでる今日この頃、こちらもなくなるまえに皆さん一回乗って欲しい車両ですね。

↑網走へ向かう特急「オホーツク」
北斗用の車両とは顔がかなり違うが同じキハ183系

3:苫小牧のあれこれ 途中下車してみませんか?

↑苫小牧は水がおいしいらしい

北斗の走る沿線でのオススメスポット、第一に紹介したいのが苫小牧駅ですね。
苫小牧は札幌から特急で約1時間、新千歳空港の先に存在する街です。
札幌を出発した普通列車はこの苫小牧まで来て折り返します。運用上の拠点駅ですね。
車両折り返し用の側線も多く周辺を走る気動車の基地である苫小牧運転所も隣接しているため構内を行き交う車両を多く見かけることができます。
ホームは2面4線なのですがまずこのホームが非常に長い!
かつて長大編成の寝台列車も停車していた駅の名残とも言えます。
端から端へゆっくり歩きかつての列車たちに思いを馳せるのもいいですね。
そしてホームの先端からは王子製紙の工場の巨大な煙突を見ることができます。
この煙突から吹き上げる煙の光景は圧巻の一言、ここまで大きな工場が近い駅というのも珍しいですね。

↑ホーム先端からの光景
吹き上がる煙が非常にダイナミック

苫小牧駅の近くに是非訪れて欲しい鉄道スポットがあります。
駅から南へ徒歩2分の場所に王子アカシア公園という公園があるのですが、そこに蒸気機関車が保存されているのです。
この機関車は王子製紙軽便鉄道のもので開業は1908年、終戦後の1951年まで運行されていました。
軽便鉄道とは軌間762mmのナローゲージと呼ばれるレールを走る鉄道のこと。
かつては日本中に存在していましたが現在ではほぼ全滅、車両もあまり保存されておらず完全に歴史の中にその姿を消してしまった路線は少なくありません。
そんな中でこの王子製紙軽便鉄道の4号蒸気機関車は現在でも非常に綺麗な姿を保っています。
現存する軽便鉄道用のSLはとても貴重、さらに駅から近くアクセス抜群な保存車というのもまた貴重です。
本当に保存状態がいいのでこちらも見て欲しいですね!

↑王子製紙軽便鉄道4号蒸気機関車
極めて状態がよく丁寧に整備されているのが分かる

また苫小牧からは非常に短いローカル線、日高本線が伸びています。
こちらも元々王子製紙の造った軽便鉄道をルーツとしていて苫小牧と終点の鵡川を約30分で結んでいます。
片道たった30分の路線がなぜ日高「本線」などという立派な名前を持っているのか…
それは元々この路線が総延長146キロの長大な路線だったからです。
かつての日高本線は非常に海に近い場所を走り、海と山の美しい景色が同時に楽しめるローカル線として有名でした。
ですが海に近すぎたことが災いし2015年の高波によって線路の土砂が流出して運行停止。
復旧協議中の2016年には大型の台風が立て続けに3つ上陸したことでさらなる被害を受け復旧は極めて困難になってしまいます。
そして2021年に被害の少なかった区間を除いた鵡川~様似間が廃止、日高本線は30キロあまりの短い路線になってしまいました。
結局2015年に運休した区間には2度と列車が走ることはありませんでした。

現在残っている区間は海と山の景色がいいとは言えない区間ですが、区間の大半が湿原となっており北海道らしいのんびりとした景色を楽しむことができます。
日高本線ではキハ40形という国鉄時代から使われているいい風情の気動車が使われているのもポイントですね。
本数は少ないですがさっと行ってさっと帰ってこれる短さなので小旅行にオススメです。
線路の周辺の自然にはその姿を車両から頻繁に見かけられるほど多くのエゾシカも生息しています。
急に列車が警笛を鳴らし減速をしたときはすぐ近くにシカがいる合図です探してみましょう。
私も往復で15匹ほど見かけました。

↑湿原の広がる日高本線の車窓
風が抜け非常に心地よい

4:最高の夕陽をあなたに 北舟岡駅

↑列車を降りるとそこは海
ここまで海が近い駅は全国でもわずかだ

キハ281系が走る沿線で絶対紹介したかった駅がひとつあります。
先程「北斗は走行区間のうち半分近くを海に沿って走る」と言いましたが、そのうち一番海が美しいと私が思うのが東室蘭から伊達紋別までの区間です。
非常に海に近い場所を走るこの区間には5つの駅が存在するのですが、そのうち稀府駅を除く4つの駅でホームから海を見ることができます。
その中で最も海に近く、最も景色が美しい駅が北舟岡駅です。
東室蘭駅から普通列車で約25分、住宅地に存在するため学生の利用者が非常に多い駅なのですがなんと海の堤防ギリギリの位置にホームが置かれています。
列車を降りるとホームの先にもう海しかないんです。
上屋も待合室もない簡素なホームの先には地平線まで海が広がっています。

↑北舟岡駅を通過する貨物列車
奥に見えるのは有珠山と昭和新山

この駅には2本のホームをつなぐ跨線橋があるのですがそこもまたすごいんです。
跨線橋の上からは大きく広がる海に加えて有珠山と昭和新山を望むことができます。
美しい海と山をバックに駆け抜けていく特急や貨物列車はそれだけで非常に画になる光景です。
そしてこの北舟岡駅、海に向かって西向きに建っているので夕暮れ時になれば内浦湾に沈む夕陽を一望できるのです。
もうこれが本当に美しい!息をのむ光景とはまさにこのことといった感じです!
ローカル区間ではありますが学生用に夕方の時間帯にはそこそこ本数があるのもポイント。
ちょうどいい時間帯に訪れやすくなっています。
一切遮るものがなく夕焼けを眺めることができる素晴らしい駅です。
ここは本当に行ってみて欲しいですね。

↑ホームの向こうに沈む夕陽
何度でも見たくなるような最高の景色だ

終わりに

結構話した気がするので今回はここまで。
北海道楽しいんですけど本当に交通の弁が悪いんですよねーあと広いマジ広い。
あっちいってこっちいってなんて相当腰据えないと出来ないのが厳しいですね。
このシリーズの記事を書くに辺り毎回取材に行っているのですが、今回の取材は9月だった為雪が見れなかったのも残念なところ。
来年の2月にもう一度北海道に行く予定なので、その時は雪の北海道を取材してお伝えできたらと思います。
それでは。

日が落ちてもなお美しい素晴らしい駅でした

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