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【音楽では食っていけない厳しさ&家庭教師の仕事】

先日、ずっとピアノを教えていた小学生の生徒さんが1人退会された。今まで教えてきた生徒さんの中でも、とても見込みのある伸び代がある女の子だった。親御さんから連絡があり、塾と新たに始めた習い事が忙しくなったので…という理由であった。
とても悲しく寂しくなった。

この時期、学年が変わり毎年3月〜5月にかけて出入りが激しい時期でもある。仕方ない。
ピアノという習い事は、やはり学業の後にくる優先順位が極めて低い。

皮肉なことに、本業のピアノ講師の仕事よりも副業的にしている家庭教師の仕事の方が何故か人気で、去年から授業や新規の生徒がバンバン入る。

家庭教師を1番初めに始めたのは19歳の学生時代だ。音大ピアノ科(特に私が師事していた教授の門下生)はアルバイト厳禁。理由は〝練習時間がとれなくなるから″それに尽きる。そもそも音大に行く人の9割近くは、実家が裕福な人が多く、そもそもアルバイトをする必要がない。

母子家庭である私は、途中から奨学金を借りて卒業したのだが、音大時代の友人で、母子家庭の者は周りに誰ひとりおらず、奨学金を借りていた者もチェロの友人ただ1人であった。

地方の田舎では祖父が会社を経営していたので、そこそこお金に余裕がある家ではあったが、私立の音大の学費は一般大学の2倍、大学にもよるが最低でも学費だけで1年間150万〜250万前後はする。それプラス防音付きのマンションに毎月の一人暮らしにかかる生活費、高い楽譜、とてもじゃないが東京の音大は無理だと最初から言われていたので、母の友人のツテで地方の音大の教授を紹介してもらい、まずは短大から入学した。

隠れてバイトをするのに色々考えた結果、短時間で終わる家庭教師のバイトを思いつき応募したが、〝音大は偏差値が低い″という理由で、家庭教師協会に何社登録しても中々仕事は回ってこなかった。
学校の音楽の先生になりたいと志望し、教職課程の単位を取るため忙しかったが、家庭教師のバイトは〝生徒に向き合って何かを教える″という夢に最も近く、理に適ったものであった。

1番最初に教えた公立中学2年生の生徒の時給は当時1,600円であった。週1日、1コマ2時間で3,200円、交通費全額支給、これならピアノの練習にも支障が出にくく、教授にもバレないし足もつかない。その生徒が高校受験で合格するまで続いた。
その頃、中学時代のテニス部の美女、直美ちゃんが進学した国立大学の時給は4000円スタート、家庭教師というものは講師の学歴がモノを言う世界だ。教え方が上手かろうと下手だろうがそんなものは関係ない。国立大学や難関私立大学の学生の時給は、最初から私の倍以上ある。なのでそれらの大学に通う者は〝簡単に高額が稼げるバイト″のひとつとして、安易な気持ちで家庭教師をする者が今も多い。

家庭教師協会の中での私の学歴は最低ランクと言われた。ただ大学だけでなく卒業した高校もチェックされるので、やはり進学校に通って良かったとその時初めて思った。

よく『音大ってバカなんでしょ?偏差値低いよね』『音大なんて大学のうちに入らない、高卒と一緒、金の無駄』『音大の人が勉強なんて教えれるんですか?』私が実際死ぬほど言われた言葉だ。
そりゃあ、実技に特化する大学ですからね…偏差値的にはFランだろう。が、進学校から入学する者も居れば、商業高校、私立高校の音楽科からそのまま入学する者、偏差値的にはかなり低い高校から来る者まで千差万別である。これは現在も私立の音大に関しては大して変わらないだろう。

一般の大学の者から言わせると、音大はバカばかり、らしい。家庭教師協会に登録しても中々仕事は回って来ず、時給も限りなく低い。

『何も知りもしないくせに、バカバカうっせーな!今に見てろよ!』とハングリー精神の強かった私は、回ってきた数少ない生徒に一生懸命向き合い、成績を上げ、高校受験合格まで導き、〝学歴は音大ですけど生徒の合格実績は高い講師です″的な称号を得た。1600円だった時給が1800円まで上がった。そして家庭教師という仕事はアルバイトではあるが、将来教員になった時のための自己投資だと思い込むようにした。

後に、東京の大学、主に東大、早慶、一橋や上智あたりの時給設定が、教えるのがどんなに下手クソでも1時間5,000円以上〜というのを目にした時、どれだけ驚いたことか…。
なんなんだ…いったい…でもこの人たちはきっと死ぬ気で受験勉強をし、それをパスした人たちだ。ちょっと勉強を頑張ったくらいでは到底入れないであろう大学の講師の時給が高いのも当然だと思った。死んでも勝てない。勝負する場所が違うだけだ。

音大を卒業し、中学校4校、小学校2校で勤務している間、一度教員を辞めた時もまた細々と家庭教師をした。そして復帰して〝特別支援免許″を取得し(ひと夏かけて放送大学で勉強して試験を受けた)特別支援学級の担任をしたり、音楽とは全く関係ない国語や数学の〝少人数取り出し授業″の手伝いをしたり、来る日も来る日もヤンキーの相手をしたり、とにかくありとあらゆる業務をし、最後は怪我をして辞めた。(怪我についてはいつか話そう)


結婚して2年後くらいから、再度家庭教師協会に登録したが、時給は1800円前後、最悪な会社だと1300円とかいうふざけた案件もあったが、我慢我慢…新しい土地で私の実績はない、とにかくまた1から実務の積み重ねしかない。


『中学校勤務経験、実務経験アリ』という経歴が影響し、以前より仕事はまわってくるが
『でも先生って音楽の先生なんでしょう?ウチの子に勉強教えれるんですか?』と小学校低学年の子供を持つ保護者に言われた事がある。

『ナメてんのか、嫌なら小学校低学年の勉強くらい親のアンタが教えろ!』と喉元まで出かけたが笑顔で対応、我慢我慢…。


世間一般の人たちからは『音楽の先生(ピアノの先生)なのにどうして中学生に5教科の勉強を教える事ができるのか?』死ぬほど聞かれる、不思議で仕方がないのだろう。



日本の景気が悪いのは、学生時代の20数年前と講師の時給がほぼ変わってないところからもうかがえる。本当に最低だ。

そしてコロナ禍になり生徒がほぼ0に。塾も封鎖。家庭教師もオンライン授業のみとなり、ピアノの生徒も0に。
これは本当に痛かった。

コロナ禍があけて、次第に登録していたいくつかの家庭教師協会から仕事の案件依頼が来るようになった。それも今までは全くなかった夢にまで見たプロ案件ばかり。プロ案件というのは主に2種類ある。

最近多いのは〝特別支援の実務経験と理解の深い社会人講師″と〝学歴だけ高いバイト先生ではなく学校勤務歴があるようなプロ講師″だ。

おお…やっと時代が私についてきた…!どれだけ音大卒だとバカにされようが、時給が安かろうが無駄じゃなかったんだ…!細々と1人でも続けていて良かった。

上記に挙げたような案件は、普通の〝講師募集欄″には載っていない、高額プロ案件というカテゴリに入る。特に〝特別支援の免許保持者で実務経験のある社会人プロ講師″という需要が多いが、該当する講師が非常に少ないそうだ。


主に自閉症やAD/HD、診断名のつかないいわゆるグレーゾーン、不登校の生徒のニーズが高まっている。彼らは塾に馴染む事が難しく、家庭学習も難しい、それで家庭教師一択になるのだ。

もう一つの〝高額プロ案件″は昔からある、医学部に合格実績のある先生、講師自らも難関大学、名門高校出身、名門私立中学受験の合格実績保持者等のいわゆる〝ガチお勉強勢″の案件だ。それらは高学歴の方々にお任せだ。

私の場合は前者に当たるので、最初は1人ずつ案件を受けてみた。これまで何人も先生を変えましたというご家庭、免許だけ保持して実務経験がない先生に当たった、学生がバイト気分で来てコミュニケーションを子どもととらない…様々な理由で講師がコロコロかわっている、いわゆる〝講師交代案件″だ。

それと並行して“有名私立組″に多いのは、いわゆる富裕層が多い。
保護者のプライドがびっくりするほど高かったりする。気に入らない事があればすぐ首を切る。そういう親のもとで何不自由なく甘やかされて育った子どもは、私を使用人の1人くらいにしか思っていない。言葉の端々にそれがうかがえる。
高額案件なのは、“躾もして下さい″というものも含まれていたりするのだ。最初の挨拶の仕方から言葉づかいまで、私は決して迎合しない。

大人をナメくさった態度を取ってくる生徒には、幼稚園児だろうが中学生だろうがビシッと言うようにしている。親が言えないので代わりに私に言わせているのかもしれない。
まぁそれでもいい。世の中なんて自分の思い通りにいく事の方が少ないんだ。
反抗しようが、親に泣きつこうがそんなものは想定内だ。中学校勤務時代に、腐るほど反抗期の生徒の相手&理不尽なクレームを入れてくる保護者対応をしてきた事がここで生きてくる。

保護者対応も生徒への言い方も、言葉を選びながらこちらのペースに巻き込んでしまえば後は大丈夫だ。高額案件というものは、神経も擦り減らしながら指導していく“精神労働″でもある。
休みの日はプリントを作ったり、保護者からの相談、進路相談にのったりしている。全部ひっくるめての高額案件なのだ。


おそらくだが、この保護者対応と一筋縄ではいかない生徒への指導ができずに、目先の時給の高さに目が眩み飛びついたものの、飛んだり辞めてしまう講師が多いのだろう。


家庭教師協会は生徒を離したくないので、『お願いですから行ってもらえませんか?こちらの生徒さんの指導ができる先生が非常に少ないのです…』と藁にもすがる勢いだ。
あれだけ音大卒は最低ランクなので、あなたにあげる仕事は少ないと言った会社が今頃になってそんな電話をしてくる。


今ごろ思い知ったか、アホめ。
私も忙しいので条件面を色々交渉する。

結果、家庭教師歴17年目でやっと最低時給3,000円〜学年やコースによって最高4,500円まで上がった。1日夕方から1コマ2時間で約6,000円〜約8,000円に交通費全額支給だ。

皮肉な事に本業のピアノ講師の生徒は減る一方で、家庭教師の仕事だらけになった。


たまに知人に仕事を聞かれ、家庭教師をしていると話すと、稼いでるんでしょ?と言われる。そんな事はない。
夕方から夜間にかけて2時間で約6,000円〜8,000円、朝から夕方までパートに出るのと変わらない。

音大卒のレナちゃんでもできるんだ、私もやってみようかな?登録してやってみればいい。

家庭教師の仕事は良くて1日2件までしか請けることができない。まず夕方からの仕事であり、中学生ともなれば部活を終えて帰宅してからの時間帯、移動時間で前後の時間をとられ、その時間で私の腐った脳みそをリセットしなくてはならない。
プラス、ピアノの仕事も家庭教師も、人とマンツー対面の仕事なので、こちらも気を使うが、生徒の体調が悪かったら即休み、当日キャンセルになる。

本当に忙しいのは、中学生の定期テスト前2週間〜テスト期間中の半月のみだ。

毎年冬から春にかけては、次から次へとインフル、コロナ、嘔吐下痢、ノロウイルス…でバタバタとキャンセルが続出する。
しかも当日キャンセルの保証はない。一見稼いでそうに見えるのだろうが、とっても不安定な仕事なのだ。

そして何より、自分自身の体調管理が1番であり、メンブレを起こさないようにしなければ…。
以前書いたように、私自身もまた精神通院をしており、オマケにAD/HDや自閉症の傾向があるらしい。検査は5/31と決まった。

メンブレで自身も半分ビョーキの先生が、家庭教師やピアノの先生なんて、保護者が知ったら嫌だろうな…辞めちゃうだろうなぁ…と心の中で思ったりする。


特別支援の免許を取る際、それらについてひと通りの勉強もしたし、実務経験もあるので、どちらかと言うと“得意分野″ではあるが、私自身がその特性を持っているので彼らの気持ちが痛いほどわかる事もある、しんどいよね、って。

授業は〝個々のニーズ″によって、やり方もキャラクターも変え、飽きないようコロコロメニューを用意して授業をする。バカ話なんかしながら、ふざけた会話もしながら授業をすると、生徒がすごく楽しそうにしてくれる。それでいいのかな?いいんだろう。

世間一般の人からすると、“私自身が半分病んでる人″なのだろうが、ピアノのレッスンも家庭教師の授業も、終わったあとはいつも気分爽快だ。
子どもはどんなに反抗期で生意気でも、やはり純粋だ。
私は彼らに救われている。

先日ピアノを退会した生徒ちゃんには、また気が向いたらいつでもおいで〜!と笑顔で送り出した。
それで良かったんだ。ピアノの生徒は減る一方で家庭教師が忙しいのは…やはり複雑な心境なんだけれども。

今日も夜は授業に行って、5月下旬から始まる中間テスト対策を念入りにしてこよう!

冗談話や私のいらん昔話も入れながら…生徒ちゃんを笑わせてこよう。

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