ポップカルチャーアートにおける活字活用表現を表す単語の不在

ある概念を表す単語が無いままにその概念を意識し続けるのは難しい。
積極的に単語を作り出していくのは認識を拡張するために有用でしょう。

私の中で今ホットなイラストレーターの中に望月けいさんと寺田てらさんがいるのですが、彼らを始めとしたポップカルチャーイラストレーター(この単語も正確か怪しい)の作品には活字フォントをイラスト内構造物のデザインパターンとして挿入する表現を頻繁に見かけます。
タイトルロゴや作者のサインが入っているのとは違い、キャラクターのTシャツのプリントやアクセサリーの造形に活字フォントを使っているということですね。場合によっては作品と全く関係のないテキストが用いられる場合もあります。

※「萌装東京 望月けい」でGoogle画像検索かTwitter内検索をしていただくと、赤紫色の背景に青緑のレギンスを履いた灰色髪の女の子が描かれたイラストが出てくるかと思いますが、このレギンスに使われている文字プリントは望月けい氏自身のtwitterのツイートから取ってきているとのことです。

現代の現実世界でよく見かける文字プリントを用いることで、そのキャラクターの現代感や近未来感を与えることができるように思えます。
ほかには実在するブランドロゴであればその企業のブランドイメージを拝借できますし、デザインフォントを用いればフォントが与えるイメージを拝借できます。

私はこういったイラストが好きで、他人に「これが好きなんだ」と話す際に端的に表せる語句を欲しているのですがそれを持ち合わせていません。
そこでこういった技法の起源を辿り、それでも語句が存在しないならば自分で作ってしまおうと考えました。

まずは起源を遡ってみましょう。
私はそのひとつにスポーツ漫画のユニフォームにある気がしました。
巨人の星くらいまでは自分の知識で思い至れましたが、『バット君』井上一雄(1947)という作品もあったようです。
さらに遡るとスポーツ漫画ではなくなりますが、『新宝島』手塚治虫(1947)、『スーパーマン』ジェリー・シーゲル(1938)、『冒険ダン吉』島田啓三(1933)でも文字をキャラクターの衣装に取り入れています。

では現実世界でユニフォームに数字や文字が記載されたのはいつでしょう。
ラグビーのユニフォームで背番号が導入されたのが1897年。
野球で背番号が導入されたのは1916年。
サッカーで背番号が導入されたのは1928年。
(出典はwikipedia。親出典はwikipediaの各ページを参照ください)

こうして歴史に目を向けると衣装に言語を用いる絵画表現は特別視するような物ではなく、紋章や記号や図柄を刺繍した布を絵画内で表現したものと何ら変わらない気がしてきました。
肖像画における勲章や家紋、カーペットや羽織における和柄、トルコ柄、ボタニカル模様、幾何学模様らと同じと言うことですね。
私が特別視してしまったのは文字はそれらよりも見慣れていたり明確な意味が読み取りやすかったりするからというだけかもしれません。

ただここで終わっては最初の問題点である「端的な表現をしたい」という課題は達成できません。
特別視までせずとも、それを指す語句はあってもいいはずです。
私は自分の中でこの表現を「ラベルパターン」と呼ぶことにします。
ラベル(英:label)の語源はオランダ語のレッテル(letter)であり、元の意味は「字母・文字」という意味です。レーベルもカタカナでの表記が違うだけで同じ単語です。日本語でラベルは商品情報表記を指すことが多いですが、「ワード」や「テキスト」という単語は「パターン」という単語と併せて使われる場面が既にたくさんあるのでこれを選びました。

私は友人と話している時に新しく単語が生まれる瞬間や、ある単語の意味が拡張される瞬間が好きです。
人は、物や概念に名付けを行うことで世界を認知してきました。
名付けを行うことは言語のグリッドをより細分化して認知の解像度を上げることです。
明日はどんな言葉が、どんな概念が世界に生まれるのでしょうね。
そう考えると見慣れない新語への抵抗が減り、歓迎する気持ちが高まります。

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