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【連載小説】惣菜屋 日出子の事件簿 第2話

 夫が指を差したビルは、かつてエミちゃんが通っていた、そしてエミちゃんの彼氏が働く「進英予備校」でした。
ピコーン!
おそらく、山畑さんが警備されているビルも「進英予備校」なのだと
思いました。
いったい何があったのでしょうか…。

 2月8日 午前1時
いつものように、ルイちゃんエミちゃんコンビがいらっしゃいました。
「ちょっと、エミちゃん!!」
私はエミちゃんを待っていたのです。
「あ、日出子さん、この前はありがとう、おかげで涼とは仲直りできたわ。」
「そうか、それは良かったんやけど、彼の働いている予備校でなんかあったみたいよ、パトカー来てたって。」
「え?そうなん?でも昨日と今日、あ、日付変わったから一昨日と昨日になるんか、涼は仕事休みやったから知らんかったわ。」
「そうなんか。でも何があったんやろねー。」
するとルイちゃんが
「店に来たお客さんも言ってたわ。パトカー停まってたって。でも停まってただけでビルの外は静かやったみたいよ。」
「じゃあ、殺人事件とかじゃないんやな。」
「もー、日出子さん、ドラマの見過ぎちゃう?」
と、ルイちゃんが言ったのですが、
「私も気になるし、涼に連絡してみるわ。」
とエミちゃんがスマホを取り出しました。

 「あ、涼?うん、エミ。予備校でなんかあったん?パトカーきてたって聞いたから気になって。…うん。…え、そうなん。まじで?満里奈が?うん、うん、あ、そうなん、それなら良かったわ。おつかれ。ほなねー。」
私とルイちゃんはエミちゃんをガン見しておりました。
「彼はなんて?」
と私が聞くと、
「予備校の生徒が行方不明って騒ぎになったらしいねん。満里奈っていう、めっちゃ真面目な子で、私も知ってるんやけどな。んで、涼は休みのに予備校に呼び出されて警察から色々聞かれたって。」
とエミちゃんが言います。
「行方不明???」
それは大変です。
「予備校に向かうって家出てから、夜遅くまで連絡がつかへんくて、両親が捜索願出したらしい。でも無事に見つかったてさ。箱入り娘で真面目な子やのにびっくりしたわ。」
エミちゃんが淡々と言います。

 ピコーン!
私はよからぬ想像をしてしまいました。
エミちゃんと彼氏が喧嘩をした理由です。
相談事があると言ってやって来た二人の予備校生徒を、彼が自宅に上がらせたということが、今回の行方不明事件と何か関係していないかと思ってしまいます。
「エミちゃん、その満里奈さんと彼氏は関係ないよな。」
私、気になることは聞いてしまいます。
「満里奈は、今は涼が受け持ってる生徒ではないで。それに満里奈が行方不明になった日も、私が仕事に行く午後8時まで、涼は私と一緒に居たし。」
「そうか。」
「もー日出子さんが信じろって教えてくれたのに、そんなこと聞かんといてやー。」
「ごめん、そういうことで聞いたわけちゃうねん。でも彼は満里奈さんを知ってはいたわけやろ?警察から目をつけられたらかわいそうやから心配したんやん。」
「だいじょうーぶです!」
エミちゃんはふてくされてように言いました。
確かに、彼と喧嘩して間もない時に聞いた私は、配慮がなかったです。
日出子、反省。

 「明日学校何時から?」
「11時から。」
「あ、そうや、立花さんと進藤先生って付き合ってるんやって。」
「えーマジで?めっちゃいいやん。進藤先生やったら玉の輿やな。」
私が注文を受けたハンバーグ弁当を作っている最中、お二人は、なにやら恋バナで盛り上がっております。
大学の先生と生徒さんのお話しでしょうか。
若いっていうのはいいですね。
「はい、ハンバーグとマカロニサラダのお弁当できたよ。」
「日出子さんありがとー。」
 ルイちゃんエミちゃんは、先ほどから盛り上がっている、恋バナをしながら帰っていきました。

 2月8日 午前6時
 午前7時になったので店のシャッターを閉め、自宅に戻ります。
めずらしく夫は起きており、朝刊を渡すと私にコーヒーを淹れてくれました。
「最近物騒やから、深夜営業も考えた方がええんちゃうか?」
昨夜の予備校のパトカーの件もあって、夫がそう言います。
「そうやねえ、でもうちは男2人が守ってくれるやん。」
男2人とは、もちろん夫と智樹のことです。
「それにお父さんが定年後、私と一緒に店で働けるやろ?私、それが夢やねん。」
「俺?料理出来へんで。」
「ええねん。金属バット持って店番してくれてたら、私安心やわ。」
「なんやそれ。」
二人で笑いました。

 2月8日 午後6時。
開店早々に、いつもの塾の事務員さんがいらっしゃいました。
ピコーン!
「今日はお仕事お休みですか?」
と私が言うと、
「あ、ええ、実は昨日から妹が遊びに来ていて、仕事は少しの間お休みをもらってるんです。」
とのこと。
「ああ、だから冷凍保存ができるチャーハンとかのご飯ものをご注文されていたんですね。ご主人が居ない寂しさは、妹さんのおかげで紛れますね。」
「ええ、そうですね、大変ですけどね。」
彼女はそう言って、オムライスと、昆布と鮭のおにぎり、とんかつを買って行かれました。

 2月8日 午後7時。
エミちゃんがいらっしゃいました。
「今日は店休みやねん。」
とエミちゃん。
「そうなん、じゃあ彼氏の家行くの?」
「うん、日出子さんのミンチカツ美味しいって言ってたから、今日も買おうと思って。あ、今日、涼は仕事やねんけど8時ぐらいに帰ってくるから、一緒にご飯食べるねん。」
「あら、仲がよろしいこと。」
私が言うと、エミちゃんはニンマリとした笑顔をしました。
「なので、ミンチカツとマカロニサラダのお弁当をふたつくださーい。」
「はいはーい。」
私が弁当を作りにかかろうとすると、
「あれ?、これ立花さんや。」
とエミちゃんが言います。
立花さん?どっかで聞いたような。
あ、エミちゃんとルイちゃんが恋バナをしてた人です。
え、でもなんで?
私が振り返ると、エミちゃんはしゃがみこんで何かを拾い上げました。
「日出子さん、落とし物やわ。あ、これ立花さんのや。」
「立花さんって、この前エミちゃんらが恋バナしてた大学の人?」
「え、ちゃうよ、立花さんは進英予備校の事務員さん。」
…は?
「ほら、見て。」
エミちゃんは拾い上げたカード入れの中の運転免許証を、私に見せます。
運転免許証でしたので顔写真もありました。
確かに先ほどいらした、あの事務員さんです。
「この方、立花さんっていうのね。うちの常連さんやねん。」
「え、そうなん!立花さんもここのお客さんやったの?」
「そう、いつも仕事帰りによってくれて、ご主人さんの分も一緒に、お惣菜買ってくれはるねん。」
「立花さん、結婚してないよ。進藤先生と付き合ってはいるけど。」
は?
私は驚いてばかりです。

 ピコーン!
そういえば、エミちゃんとルイちゃんの話では、
「立花さんと進藤先生って付き合ってるんやって。」
「進藤先生やったら玉の輿やな。」
みたいな話をしていました。

「進藤先生は、進英予備校の学長の息子さんやねん。な、立花さん、玉の輿やろ?」
「エミちゃん、その話ほんま?」
「うん、涼から聞いたからな。でも予備校の人には内緒で付き合ってて、誰も知らんねんて。涼は進藤先生と仲いいから、こっそり教えてくれたらしいけど。」
 ここでも進英予備校の名が出てきました。
ピコーン…。
私はなぜか胸騒ぎがします。
「免許証、立花さんに届けた方がいいよね。きっと困ってはるやろうし。」
と私が言うと、
「住所も書いてあるし、私が届けようか?」
とエミちゃんが言ってくれました。
ですが、エミちゃんだけではややこしくなりそうなので、私も行こうと思いました。
さて、店はどうしようか、と考えていると、
「ただいま。」
智樹が帰ってきました!
「智樹!あんたはナイスなタイミングの男やな!!」
「は?オカンなにゆーてんねん。」
「ちょっと店番頼むわ。お母ちゃん急用ができたんや。エミちゃん、行こう!」
「え、オカン、ちょっと…」
智樹の言葉も聞かず、私はエミちゃんは足早に店を後にしました。

 エミちゃんと立花さんの家に向かっている途中、聞いてみました。
「なあ、エミちゃん、予備校の先生って出張ってあるの?」
「他の校舎にヘルプで行くとかはあるやろな。でも進英予備校は京阪神にしかないし、泊りはないと思うよ。涼も泊りでなんて行ったことないし。」
 なるほど。
では進藤先生の長期出張とはどういうことなのでしょうか。
学長の息子さんであれば、何か特別に長期出張があるのでしょうか。
「進藤先生は今出張らしいね、立花さんが言ってたわ。」
と私が聞くと、エミちゃんはきょとんとして、
「進藤先生いると思うよ。涼が昨日警察に呼ばれた時、予備校で進藤先生に会ったって言ってたし。進藤先生、実の親のようにかなりショック受けてたって。」
 立花さんについて色々と思うことが、私の頭に広がりました。
今のエミちゃんの言葉で、益々不信感が募ります。
①立花さんの付き合っている彼は、進英予備校の校長の息子さんで今は長期出張中と嘘をついているかもしれない。
②満里奈さんの行方不明事件があった日から、ご飯ものを中心とした冷凍保存に向いているものを購入している。理由は、妹さんが来ているから。(これは私の想像)
③立花さんは現在休暇中。
 ひとつひとつを見れば、言いたくなかっただけかもしれない、偶然かもしれないです。
でも私は何か引っかかるのです。

 ピコーン!
それならば…。
「エミちゃん、ストーップ!!」
「え、何どうしたん、日出子さん。」
足早に歩いていたエミちゃんが立ち止まります。
「先に進英予備校に行くで!!」
「えー!なんでー?免許証はーーー?。」
「ええ
から、着いてきて!。」

 2月8日 午後7時40分。
進英予備校玄関前。

 私はきょろきょろと予備校の中を伺います。
「日出子さん、関係者じゃなかったら入られへんよ。」
「わかってる。だから探してんねん。」
「探してるって、誰を?」
あああああ!いらっしゃいました!!
山畑さんです!

 私は両手を挙げ大きく左右に振りました。
それを見たエミちゃんも同じ動きをします。
そんな私たちふたりに、山畑さんはすぐに気づき、外に出てきてくださいました。
さすがは警備員さんです。

 「日出子さんやん。どないしたん。」
「山畑さん、ごめんな突然。今この予備校に進藤先生って来てはる?」
「進藤先生?」
山畑さんが困ったような顔をしていると、エミちゃんがすかさず、
「ほら、カッコつけた感じのスーツに、銀縁眼鏡で髪の毛はパーマあてて、香水臭い学長の息子!!」
エミちゃん、それにしてもひどい説明やね…。
「あー息子さんな、来てはるよ。今日も午後に予備校に入りはったで。」
通じたんかい。
「そか。休みじゃないねんな。」
と私が聞くと、
「そやなー。最近は休みなく来てたで。」
と山畑さんは言ました。

 …ん?
暗くて気づきませんでしたが、私たち以外に、なにやら予備校内部の様子を伺う男性がいます。
「あの人、何してはるんやろか。」
と私がふいに言うと、
「あれ?あの人、満里奈のお父さんちゃう?」
とエミちゃんが言います。
「満里奈さんって、行方不明っになってた人?」
「そうそう、何してるんやろ。満里奈はもう見つかったのに。」
不思議に考えていると、そこへ、
「あれ、エミ何してんの?」
私たちの後ろから声がしました。
振り向くと、そこには長身でスーツを着た男性が居ました。
「あ、涼!」
エミちゃんが言います。
あら、この方がエミちゃんの彼氏なのね。
「あんな、いつも行くお惣菜屋さんの所で、立花さんがカードケース落としていったから届けようと思って。涼、授業終わったん?」
と、エミちゃんが言うと、涼さんは私を見て、
「あ、この前のミンチカツ美味しかったです。」
と軽く頭を下げた。
なんて、好青年!
「エミちゃんにはいつもご贔屓にしてもらっています。」
と私も頭を下げる。
「俺の受け持ち授業は終わったよ。8時には帰るって言ってたやろ。で、立花さんのカードケースを届けるのに、なんでここにおるん?」
と、当然のように涼さんから言われます。

予備校内部の様子を伺う満里奈さんのお父さん…。
長期出張に行ってない進藤先生。
先ほどエミちゃんから聞いた、
”進藤先生、実の親のようにかなりショック受けてたって”
という言葉を思い出します。

 ピコーン!!
 「涼さん、ちょっと伺ってもよろしいですか?」
「あ、はい、なんでしょう。」
「満里奈さんの行方不明騒ぎと、この予備校って関係あります?」
「え?田所さんに関してはもう大丈夫ですよ。見つかったと保護者から連絡がありましたから。しばらくは予備校を休むみたいですけど。」
「もちろん生徒さんが見つかったのは良かったんですけどね。ところで涼さんは進藤先生と立花さんとの間柄も知る仲なんですってね。なにか聞いていませーん??」
長身の彼に上目遣いでグイグイ責める私を、エミちゃんは若干引いており、山畑さんは笑っています。
「いや、え、あの。」
涼さんの言葉が詰まっております。
これは何かありますよー。

-----第3話へつづく

第3話


 







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