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新サクラ大戦 the Novel ~緋桜のころ~

本日12月19日に『新サクラ大戦 the Novel ~緋桜のころ~』が発売になりました!!
発売を記念して、本編中の序盤の試し読みを公開させていただきます。



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 あらすじ

太正二十七年。帝都・東京。まるで花を思わせる、美しい女性が人々の目を集めている。神崎すみれ、帝国華撃団・花組の元トップスタァである。 降魔との戦いから、数多の犠牲を経て訪れた平和な世に、彼女は再び乱の兆しを感じ取っていた。彼女は探す、再び帝都を守るために、新たな華撃団の歴史を紡ぐ少女たちを。 『新サクラ大戦』本編の過去を小説化!!


それでは物語をお楽しみください。


序章 帝都にて振り返る

 太正二十七年。
 蒸気技術による文明が発達した帝都・東京は、今日も人々の活気に溢れている。そんな中を歩く一人の女性がいた。
 神崎すみれ。
 帝国華撃団・花組の元トップスタァである。菫の花を思わせる美しさは今もなお健在で、紫を基調とした和服がよく似合っていた。
 雑踏の中にいても存在感は相当なもので、ちらちらと視線を送ってくる者もいるほどである。
 街を行く市井の民の声に、すみれは耳を傾ける。すると、『ある話題』について語っている者が多いことがわかる。
 その内容は……。
「いや~、開催までもうすぐだな、第二回華撃団競技会!」
「世界中のみんなが楽しみにしてるものね」
「なあ。おまえ、どこ応援してる?」
「そりゃやっぱり、最強を誇る伯林華撃団でしょ」
「俺は上海だなぁ。帝都を守ってくれてる華撃団だし」
「あ~、私も見に行きたいなぁ」
 ……と、人々の話題は『華撃団』のことで持ちきりだった。
 すみれは苦笑する。こんな時代が来るなんて、想像もしていなかった。
 誰もが華撃団の存在を知っていて、気軽に話している。隔世の感とはこのことだろう。
(なんだか、あの戦いが遠い昔のようね)
 そんなことを、すみれは考えながら。
 雑踏の中で過去を振り返る。


 今でこそ華撃団は一般市民に受け入れられているものの、その存在が広まる契機となったのは、八年前の出来事である。
 太正十九年。後に降魔大戦と呼ばれる戦いが、日本にて勃発した。
 現在伝わっているのは『表の歴史』と呼ばれるもので――。
 人の世への侵略を図ったのは、闇より生まれし敵対勢力『降魔』。その攻撃は苛烈極まり、標的となった帝都は陥落の危機を迎えてしまう。
 絶体絶命の状況に追い込まれる中、陸海軍は『ある組織』と共同作戦を行うことを発表した。
 それこそが華撃団。
 舞台女優を表の顔とする乙女たちによって構成された、魔の力に抗する秘密防衛組織である。
 大きな戦力を味方に迎え入れ、陸海軍は降魔へと立ち向かう。そして激闘の末、悪を撃滅し世界は救われた。

 勇敢なる帝国華撃団、巴里華撃団、紐育華撃団――その全員の消滅と引き換えに。

 軍部の報によって戦いの顚末を知った世界中の人々は、みな胸を熱くした。
 乙女たちの功績を讃えない者はおらず、尊い犠牲を無駄にしないためにも、『華撃団』という存在を後世に引き継いでいこうという世論が急速に形成されていく。
 その意思を受ける形で、国際機関『世界華撃団連盟』が発足――。
 ほどなく、退魔の力を宿した候補者たちによる新たなる華撃団が、多くの都市に誕生した。
 掲げられたのは、開かれた華撃団による世界防衛構想。
 秘密裏の活動ではなく、定期的に歌劇と戦闘で切磋琢磨をして、お互いを高め合っていこうという理念である。
 議会での可決を経て、隔年で開かれることとなった乙女たちの戦いは『華撃団競技会』と命名され、その様子は全世界へと中継されることとなる。
 この試みは大成功を収め、瞬く間に華撃団競技会は世界有数のイベントとなった。
 新たな英雄候補たちの奮闘に熱狂し、声援を送り合う。全力を尽くした勝負に感動して、前向きな姿に勇気をもらう……。
 帝都の傷も今ではほとんどが癒え、各種復旧は着実に進んでいる。
 これからも世界中の華撃団は、ますます繁栄していくことだろう。


(……というのが、『表の歴史』)
 すみれは小さく息をついた。
 現状は、全て上手く回っている。
 開かれた華撃団というスローガンは、限りなく理想通りに実現できていると言えるだろう。規模を世界各国へと広げることで予算も大幅に増し、対降魔戦闘における防衛力は数年前と比べても飛躍的に伸びているはずだった。また、華撃団の存在が遍く知られていることによって、有事の際の無用な混乱も回避できる。
 世界は間違いなく良い方向へと向かっている。
 なのに、どうしてすみれは憂いの表情を浮かべているのだろうか。
 ここからは、彼女が帝国華撃団元隊員として関わった『歴史』である。


 降魔大戦の余波は裏の世界をも大きく動かしていく。
 都市の平和防衛を目的とした影の組織、『賢人機関』。
 各界に隠然とした影響力を及ぼしていた彼らは、大戦の終結からほどなくしてその姿を消すこととなる。
 世界華撃団連盟が結成されたのは間を置かずしてのこと。この一連の動きに繫がりがないと見るのは却って不自然というものだろう。
 時代の流れを受け、新たな形へと進化したのか。それとも何か理由があるのか……真相は未だ明らかにされていない。
 現在のリーダーは、プレジデントGと名乗る男。
 忌憚のないすみれの意見として、彼は相当な傑物だった。
 言動は知恵に溢れていて人望も豊か。華撃団の在り様に対する様々な体制整備を、その辣腕を振るい早期にまとめ上げた。
 新時代の波とはこういうことなのかと、すみれは舌を巻いたほどだ。事実として、世界は正しい方向へと進んでいく。
 彼の下で、華撃団は発展を遂げていくかに思われた。

 しかし、プレジデントGの様子は少しずつ変わっていく。

 帝都の傷も癒えつつあった、第一回華撃団競技会開催の年。
 すみれは帝国華撃団再建に向けて動き出す。
 隊員の消滅を受けて、現在の帝撃は凍結状態となっていた。帝都の守りは上海華撃団が担当しており、それで何か不都合が起きたわけでもない。
 しかし――このままの状況でいるつもりはなかった。
 先の大戦を終えてなお、降魔はまだその存在を世界中で確認されている。勢力を弱めたからといって油断してしまってはいつか痛い目に遭うことだろう。
 今は必要ないのかもしれない。しかし、未来の平和のためにこそ、帝国華撃団はきっと求められるはずだ。
 すみれが総司令となって再建に動き、再び帝都での活動を目指す……そのための計画を書き上げて世界華撃団連盟へと提出する。
 しかし、プレジデントGの反応は予想外のものだった。
 却下。
 プレジデントGは言う。華撃団が世界に対して開かれた今となっては、かつての帝国華撃団の活動方針はいささか古めかしいものとなっているのではないか?
 それに、現存する各華撃団で平和は守られているではないか。
 世界を救った英雄たる神崎すみれが、今から駆け回るようなプロジェクトではない。
 云々。
 彼は、帝国華撃団の再建構想を認めなかった。
 語る理屈はどれも正しいようにも思える。
 すみれが納得いかないと感じてしまうのは、輝かしかった思い出から来る郷愁がゆえだろうか?
 さらには、プレジデントGはすみれに対して、執拗に『帝都防衛の要』を渡すよう迫るようになる。
 それを保有するのに相応しいのは、世界華撃団連盟。より厳重に守るべきであるという立派な建前だ。
 しかし。
 すみれは、プレジデントGを警戒するようになっていた。
 正しさを武器として何かを為そうとしていないか。
 こんなとき、『あの人』ならどうする――それを考えたときに、すみれの心は決まる。
 納得できないことを前にしてあの人が頷くはずもない。
 すみれは、独自に帝国華撃団の再建計画を開始する。

 となれば、まずは『隊員』を集めなくてはならない。しかも、ただの人ではなく、強い霊力を有した者である。
 世界中の霊力所持者を監視・保護していた『賢人機関』――彼らが残していたリストを、すみれは独自に入手した。
 残存降魔が世界のどこかに現れた際、リストメンバーの能力が呼応して発動することがあった。その情報をつぶさに収集し、手繰り寄せるようにしてメンバーの許へと向かう。
 世界中のどこにでもすみれは行った。
 気力、体力、そして資金力……多くのものを消耗し続ける日々だったが、もちろん意に介さない。
 リストメンバーは能力を持つがゆえ、多くの場合は世間に溶け込めないマイノリティだった。
(――あのころと同じね)
 時代は流れても、生きるのは人。その性質までは変わらない。
 もし、帝国華撃団が再建できたなら。
 彼女たちの存在を受け入れる新たな家族に、わたくしたちがなれたらいい。
 自分の華撃団時代を回想しながら、すみれは思う。
 記憶は、今でも宝物。
 心の中でいつまでも輝いている。


 太正二十七年の帝都。
 すみれは雑踏に紛れて立ち止まる。
 訪れた、平和な世の中。
 いかなる敵が現れようとも守らなくてはならない。
 世界中を巡る間に、すみれは隠された『何か』の存在を感じ取っていた。それは、ほんの少しの綻びだったのかもしれない。
 プレジデントGの手によって興った、世界各国の華撃団。
 譲渡するように迫られている帝都防衛の要。
 …………。
(わたくしの思い過ごしなら、それに越したことはないのだけれど)
 すみれは顔を上げる。
 新たな災厄がこの帝都にもたらされたとき。
 その力が必要になる少女たちがいる。

 決意を新たに、すみれは再び歩き始めた。


読んでいただきありがとうございました。

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