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スピノザ哲学と文学と、歴史や科学など、読書を愛するサラリーマンです。 <私の趣味遍歴>…

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スピノザ哲学と文学と、歴史や科学など、読書を愛するサラリーマンです。 <私の趣味遍歴> ヤンキー漫画→ビジュアル系バンド→プロレス→サーフィン→映画→文学→哲学思想→スピノザ

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    短編、中編、長編、過去の作品から書き下ろしまで。私が執筆した小説を集めています

最近の記事

モノとしての身体が思考する『スピノザ考』から触発されて考えてみた(前編)

 前回、上野修先生の『スピノザ考』を紹介する記事を書いたが、この本には触発されっぱなしなので(笑)、引き続き、この書における重要な概念について、本書を参照しつつ、私なりの考察も加えてみたいと思う。  どうやら、スピノザという人は、「人間」という存在さえも「モノ」として捉えていたのではないかということである。本書の帯文にもこうある。  昨今はスピノザブームとも呼べる奇妙な現象がある。(『スピノザの診察室』という小説も大ヒットしていますね)  スピノザはしばし「喜びの哲学」「

    • 『スピノザ考:人間ならざる思考へ(上野修著)』スピノザ関連書籍の紹介#4

        スピノザにおける「リアルタイムの永遠」について  スピノザ研究の泰斗、上野修先生のこれまでの研究・論考の軌跡がわかる、われわれが待望していた、かつ渾身の1冊である。内容がとにかく濃い。そして、ヘビーである。読む者は覚悟をしなければならない。  しかし、それは難解で重厚という意味合いではない。上野先生の論調は、読者へのわかり易さというのを常に意識されているので、読み易くはあるのだが、スピノザが考えていたこと、スピノザ思想に秘められているもの、それを上野先生が鮮やかに解

      • 『フィッシュ・アイ・ドライブ』第10話:アウトロー同士の邂逅

        *  西船橋のラブホテルで朝を迎えた江崎南斗(えざきみなと)は、チェックアウトを済ますと、煙草が吸えそうな喫茶店を捜し、駅前の『サルビア』という昭和の雰囲気満載の店に入った。スポーツ新聞をめくりながら、トーストとサラダ、アイスコーヒーのモーニングセットを頼んだ。  昨晩、デリヘル嬢とやるだけのことをやり追い出したあと、溝口に連絡をして、兵隊を五十人近く用意してもらい、すぐに東北自動車道および常磐道のサービスエリアの各地を張ってもらうことにした。  フェラーリの特徴と、車

        • 赤坂見附ブルーマンデー 第5話:「自己実現」という可能性の阿片

            「7日間戦争」というのは、決して比喩ではない。少なくとも今のオレの境遇、オレの仕事においては。  一週間のうち、まともに家に帰れるのは二日あるかないかだ。  家に帰ってもシャワーを浴びて眠るだけ。  生活と身体のリズムが崩れているせいか、どんなに疲れ果てていても、身体だけが寝ていて、脳はまどろみの中を起きているという、金縛りの状態がよくある。心地よい眠りは無縁だ。一日一日を過ごすたびに、命が摩耗されていくような感覚である。  そんな毎日を繰り返している。  オ

        モノとしての身体が思考する『スピノザ考』から触発されて考えてみた(前編)

        • 『スピノザ考:人間ならざる思考へ(上野修著)』スピノザ関連書籍の紹介#4

        • 『フィッシュ・アイ・ドライブ』第10話:アウトロー同士の邂逅

        • 赤坂見附ブルーマンデー 第5話:「自己実現」という可能性の阿片

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          『フィッシュ・アイ・ドライブ』第9話:アキラのやんちゃな過去

          *  360スパイダーとの出会いは、フェラーリの正規ディーラーであるCORNESの青山ショールームであった。  ベントレー、ランボルギーニ、フェラーリ、ロールス・ロイスと複数のブランドを体験できる場所は、青山をおいて他になかったから、最初からここで買うと決めていた。  そこで、今の360スパイダーに一目惚れした。一択だった。試乗して、すぐにキャッシュで支払いを決めた。そこから、アキラの愛馬である、360スパイダーとの共同生活が始まる。  アキラがそろそろ高級車を買いた

          『フィッシュ・アイ・ドライブ』第9話:アキラのやんちゃな過去

          赤坂見附ブルーマンデー 第4話:人生は、可能性に満ち溢れている?

             人生は、可能性に満ち溢れている。  家庭でも、学校でも、塾でもそう教えられてきた。  トレンディドラマ、ドキュメンタリー番組、凡庸な小説に、通俗な映画。物語の最後の最後に唱えられるのはそんな謳い文句ばかりだ。    可能性という名の、目的に向かった世界。    そう、オレたちは「最高の人生を送ろう」という暗黙の了解である、目的の王国に向かって生きている。    最高の未来、最高の選択、その可能性をめぐって、この社会のお金はまわる。  いい男。いい女。いい夫婦。い

          赤坂見附ブルーマンデー 第4話:人生は、可能性に満ち溢れている?

          赤坂見附ブルーマンデー 第3話:幸福と憎悪のマリアージュ

             まだ月曜日である。  これからむかえる一週間の、しょっぱなから徹夜作業に入るとは想像もしていなかった。今日は普通に家に帰れるだろうと想定していた時ほど、そこから絶望へと叩き落される、気持ちの変化の落差は激しかった。    早く終わらせればよいではないか? そんなボリュームではない。    通常、何日もかけて作成する企画資料である。それを翌日の朝一までに仕上げるということは、ハードコアな徹夜業務が確定の死刑宣告のようなものなのだ。  妻に、連絡を入れる。 「すまん

          赤坂見附ブルーマンデー 第3話:幸福と憎悪のマリアージュ

          赤坂見附ブルーマンデー 第2話:徹夜確定演出

           ランチタイムが過ぎると、幕張メッセ会場外の人の往来もだいぶ落ち着いてくるころで、誘導現場の見回りに来た恵君が声をかけてくる。 「コウヘイさん、今日はありがとう。助かりました」 「ああ、間に合ってよかったよ」 「うちのADが、コウヘイさんのことバイトと勘違いしていたみたいで、ふざけた接し方しちゃったみたいでしたが大丈夫でしたか」    やはりそうか。恵君が気を遣って報告してくれたのは救いである。 「最近の奴は舐め切ってるのが多いので、ちゃんと教育しておくんで」 「あ

          赤坂見附ブルーマンデー 第2話:徹夜確定演出

          赤坂見附ブルーマンデー 第1話:安息日明け

          あらすじ    ホイッスルを鳴らすサザエの先導によって、次いで妹のワカメ、弟のカツオ、父波平、母フネ、息子タラオを肩車する夫マスオといった順で列になり、磯野家とフグ田家の面々は、その無謬な笑顔と共に青天下の野原を軽快に行進していく。  ハイキングをしていると思われる彼らの向かう先は、煙突のある一軒の山小屋だ。テレビなど一切見ないという若い世代の人間ならともかく、幼い子を持ち、会社で働く中堅どころのサラリーマンにしてみれば、週末の夕食時ともなれば否応なしに目にする光景である

          赤坂見附ブルーマンデー 第1話:安息日明け

          エッセイ:掌の太陽 ~わが家のひとり娘のこと~

           二月のことだった。吐く息が白かった。  千葉の、浦安の産婦人科の喫煙所で、熱い缶コーヒーを片手に、私は震える体を抑えるようにして、秒速で煙を吐いていた。 「そんな思いまでして煙草を吸いたいものかね」とよく、お義母さんには笑われていた。  体が震えているのは、寒さだけではなかった。  病室に戻り、お義母さんと交代で、妻の背中をさすった。  陣痛にはテニスボールがよいというので、近所のイオンで買ってきたテニスボールを、妻の背中や腰、脇腹あたりに押し付け、何度も撫でまわ

          エッセイ:掌の太陽 ~わが家のひとり娘のこと~

          エッセイ:イベントの聖地「海浜幕張」での思い出

             久しぶりに家族で海浜幕張にやってきた。東関東自動車道に乗れば、自宅からは三十分くらいの距離だ。  目的は駅前の三井アウトレットパークであるが、来る途中、幕張メッセのそばを通ってきた。今日は何のイベントかはわからないが、メッセの外は色鮮やかなコスチュームに身を包んだコスプレイヤーやTシャツ姿のカメラマンで溢れかえり、賑やかさをみせていた。  幕張メッセは、私にとっても無縁の場所ではない。10年前、私はイベント制作会社でイベントプロデュースの仕事をしていたので、メッセに

          エッセイ:イベントの聖地「海浜幕張」での思い出

          『フィッシュ・アイ・ドライブ』第8話:消えたフェラーリ

          *  アキラはスピードを緩め、八潮のインターチェンジで降りる。 「八潮って、確かカルト宗教のアジトがあったとかで有名よね」 「そんなことまでよく知っているな」とアキラは変に感心する。 「隠れるにはちょうどよいかもね」    希虹はそう軽口を叩くと、ククと声を立てて笑った。  アキラはウインカーを出し、県道に出る。土地勘がまったくないので運転も慎重だ。閑静な夜の田舎町に、高周波なフェラーリのエンジン音が響き渡り、ちょっと気が引けてしまう。  とりあえず希虹の服を買う

          『フィッシュ・アイ・ドライブ』第8話:消えたフェラーリ

          『ポストマン・ウォー』最終話:赤い棕櫚

          『ポストマン・ウォー』最終話:赤い棕櫚  指先で一枚ずつ、百枚束のお札をめくりながら、頭の中で数える。数えながら、頭は別の考えで、いっぱいになっている。   G町の中国マフィアはきっと、ざわついている。  イエロードラゴンという自分たちのボスを失い、誰の犯行かと躍起になっているのだろう。日本のヤクザが出頭したが、そんなことを彼らは信じない。  モンゴルの仕業だ、もっといえばそれを裏で操っている、ロシアンマフィア「レッドウイング」の仕業だ。    彼らの本拠地、K町は間

          『ポストマン・ウォー』最終話:赤い棕櫚

          『ポストマン・ウォー』第41話:職業はポストマン

          『ポストマン・ウォー』第41話:職業はポストマン  中谷幸平のすぐ傍で、さっきから一人で、ホール中央で踊り続けている女がいた。  その女は長身で、薄暗いクラブの中でも、日焼けした褐色の素肌が目立っていた。キャミソールとローライズのショートパンツからはみ出した腕と脚、二の腕と太腿の筋肉は健康的でさえあった。    女は、ホールの曲の終わりと、新しい曲への切り替わりの度に、両腕をあげて「フォー」と声をあげ、周囲の客と同様に盛り上がる。しばらく、女から目が離せないでいた。  

          『ポストマン・ウォー』第41話:職業はポストマン

          『ポストマン・ウォー』第40話:漲る自信

          『ポストマン・ウォー』第40話:漲る自信  ドルジさんの片目の負傷をきっかけに、小説の題材になるかもと、勝手気ままに想像(妄想?)を巡らせていたことと、実際に今、目の前で起きてしまっていることの符号に、中谷幸平は恐ろしくなっていた。    モンゴルマフィアと中国マフィアの争い。    その確信を強めたマリの手紙。    そして、マリたちが出した大量の小包の開封により、自分は謹慎処分を受けたが、その推測は間違いではなかった。    マリたちに拉致され、彼女たちは中国マフィアを

          『ポストマン・ウォー』第40話:漲る自信

          『ポストマン・ウォー』第39話:密談と巨大組織

          『ポストマン・ウォー』第39話:密談と巨大組織 「お前から飲みたいって珍しいな」  江原さんがそう言って、中谷幸平のグラスにビールを注ぐ。普段では絶対に行かないであろう、日本料理屋の個室に江原さんと二人きり向き合っている。まるでテレビドラマでよくみる密談のようだと思った。    九月に入り、二週目の火曜日だった。中谷幸平の方から電話して懇願した。 「組合活動に興味があるんです。江原さんならもっと深いこと教えてもらえると思って」  思いきってそんな風に伝えた。 「了解

          『ポストマン・ウォー』第39話:密談と巨大組織