小説 神様日記(現代版陰陽師)5

 真っ暗な闇の中、中空に光る人の姿。白いドレスのような、着物のような、ヒラヒラとした白い服を着た長い髪の女の人が光を纏って降りてきた
「お初にお目に掛かります。藤月 勇麻さん」
 着地した女の人が言った
「サタンが来るのかと思ったよ。あんた誰だ?魔王クラスのようだが?」
 女の人は髪を掻き上げながら答える
「私はサタン様が十大魔王の一人、色欲のアスモデウス」
「アスモデウスは天界に復帰した筈だが?」
 そう答えた勇麻さんの手には魔滅刀『愛奈』が握られていた
「ふふ。流石にお詳しい。三代目となりましょうか。天へと戻ったのは初代と二代目。私はサタン様に付き従うアスモデウスの最後の残り香」
「最後……ね」
 アスモデウスと名乗った女性は長い刀身の刀を腰から抜いた
「懲りずにまだ地獄の公務員やってるのか。もう、そこ以外に地獄はないぞ?」
 アスモデウスはフフっと笑い、続けた
「天界は私の性に合いませぬ。サタン様と共に力と快楽を極めたい所存。いけませんか?」
「仕事が増える」
 勇麻さんは油断なく構えたまま、めんどくさげに言った。ホントにめんどくさがりやなんだ
「お互い仕事あってこそでしょう」
「そうでもないさ」
……空間隔絶結界です。20分間は天界の支援は受けられません
「だろうな。天帝のおじさんが助けに来れないように手を打ってくるとは思ったよ」
「流石、しかしお得意の『接続』も使えませんよ。此度はサタン様の勝ちのようで」
「戦闘時間の20分は飽きれるほど長いからな」
「では。行きますよ」
 アスモデウスの前面にが光が走る。光が消えた瞬間、勇麻さんが居た場所に刀を振り下ろしたアスモデウスの姿があった
「躱しますか?あれを。接続もなく」
 アスモデウスがそう言った。勇麻さんの姿はない
「準備をしてたのはあんたらだけじゃない」
 勇麻さんは私の後ろの砕奈の傍にいた。砕奈の背後が光っている
「5次元の所謂存在力の蓄電池。20分程度なら節約しながらで戦える」
「節約ねえ。させますかねえ」
 アスモデウスはこちらを見た。蛇のような目が輝く
「出来るんだなあ。これが。どうせサタンの事だから様子を見てるんだろう。こっちの切り札が何枚あるか報告を待ってるんだろうさ。ヤツらしい」
「よくお分かりで。サタン様は万全の準備をなさっておりますが、なお万全を期し私にお任せくださった。もちろんあなた方の手の内を暴くのが私の役目。時間稼ぎはさせませんよ」
 そう言ってアスモデウスが動こうとした瞬間、勇麻さんがボールのような物をアスモデウスの方に向かって投げた
 アスモデウスが不穏な気配を感じて飛びずさる
「開封!」
 勇麻さんと砕奈がそう叫んだ。弾が割れ、白い霧のような物が立ち込めた。霧の中で積雷雲の中のような稲光が光る。霧の中に黒い巨大なシルエットが見えた。映画か何かで見た事がある。ドラゴン?
「そうドラゴン。分離体だけどエンシェントドラゴンさ」
 勇麻さんがそう言った
「下界はひさしいの。あの人の息子さんのピンチか。一働きさせてもらうかの」
 地鳴りのような声が響いた
「クソ!天界の寝そべり族が!」
 アスモデウスが叫んだ
「寝そべり族か。懐かしい名前よ。その名前で呼ばれるのも久方ぶりじゃて」
 竜はそう言ったかと思うとアスモデウスに向かって火炎を吐いた。アスモデウスは火炎に包まれる
 うわ!竜って本当にいて火とか吹くんだ!
「そ、天界の寝そべり族。火炎は君のイメージで見るとそう見えるって事。普段、じっと動かないでエネルギー消費を避け、殆ど活動しない事からそう呼ばれてた。寝てばっかりで意図が不明だったんだよね。昔は」
「わはっはっはっは!昔は働け族とかもおってよくいちゃもんをつけられておったものよ」
 竜はこちらを見てそう言った
「下界ではエンシェントドラゴンの名前で知られてる」
 勇麻さんが言った
 無駄なエネルギー消費を避けて寝てばっかりだから寝そべり族か。そう言えば漫画とかではよく洞窟とか塔の中とかにいるなあ。でも寝そべり族って!竜のイメージダウンだよ!
「まあ、良い所でも見ておれ」
 竜がそう言うと私は光にくるまれ中空へと浮いた。砕奈もついてくる。蓄電池の光は勇麻さんの後ろに移動していた
 アスモデウスを包んでいた火炎が揺らぎ、振り払われる。火炎はアスモデウスの妖艶なオーラ?に振り払われた
「流石、次元の狭間で待ち続ける古の一族よ。だが、私も魔王の名を冠する女。簡単にはいきませんよ?」
 アスモデウスは揺らぐ妖艶なオーラの中で言った。虹色の輝きを持つオーラが踊るようにゆったりとアスモデウスさんの周りで舞っている
「小賢しい!」
 再び寝そべり族、改めエンシェントドラゴンが火を吹いた。アスモデウスは妖艶なオーラで受け流すように火炎を弾いた。
アスモデウスの周りを球を描くように火炎が避ける
「一度通用しなかった技が通用するものですか。存在力の無駄ですよ?この中ではあなた方は存在力の供給は出来ない」
 アスモデウスは不敵に笑った
 その瞬間、エンシェントドラゴンの姿が消えた。そう思った刹那にはアスモデウスの体が弾け飛んでいた。エンシェントドラゴンの体当たりだ。
「覇王真王拳!二刀流!」
 勇麻さんがその間隙に叫ぶ。砕奈の背後が光り、もう一本の刀が勇麻さんの左手に握られる。『愛奈』によく似ているが飾りの位置が少し違う
 アスモデウスの体が見えない壁に打ち付けられ落下する。そして勇麻さんの姿が消える。刹那の時にアスモデウスさんに向けて光が走る
 勇麻さんの姿がアスモデウスさんの傍に現れている。向かう剣撃
 だが、その剣撃は届かず。何者かに食い止められた
「おやおや、2対1とは無粋ですね」
 何者かは勇麻さんの剣撃を受け止めたまま、そう言った
「そっちも潜ませてたのか」
「御想像通りです」
 勇麻が離れる。光が走りちょうど私の真下辺りに姿を現す
「何者?」
 アスモデウスは少しふらつきながら、何者かの横で一息ついていた
「十魔王が一人、虚栄のアスタロト。アスモデウス同様私も三代目です。以降お見知りおきを」
 アスタロトは深々とお辞儀をした。優雅で美しい。宇宙を羽織ったようなマントを身に付けている
「アスタロトもいるのか!十大魔王って言ってたな。呼び名は昔と変わらないのか。他もいるのか?」
「いえいえ、私はチェスで言えば万が一の時の為に据えられたビショップ。この程度の相手にそれ程人数はいりませんよ」
「お互い予定外って事か」
「二人も魔王が居れば勝てると踏んでいましたがね。紛れ込んだのは私一人です」
 あー悪魔なのに正直に喋るんだ
「つまらない嘘を吐くのは下界だけだよ」
「そう。下らない嘘や権謀術数などコストの無駄です。団体戦の戦争位でしか役に立たない。足の引っ張り合いなど愚の骨頂」
 悪魔って意外と正々堂々としてるんだ
「へーその辺は直したのか」
 勇麻さんが言う
「当然、進歩の遅い三次元とは違います」
 アスタロトはそう言うと妖艶にほほ笑んだ
「時間稼ぎの話術に付き合うな!」
 アスモデウスが叫んだ。その直後、魔王二人は構えようとした
「時間稼ぎか!ふははは。それはいい。食らうがいい!」
 エンシェントドラゴンはそう叫ぶと再び火炎の渦を吐いた
 魔王二人はピンク色の光と緑の光の球に包まれ、火炎を凌いだ
 火炎の渦が落ち着いた所でアスタロトがシャムシールの形をした刀で残りの火炎を振り払った
「行きます」
 アスタロトが光へと変わり、勇麻さんにぶつかる次の瞬間、勇麻さんは十字にアスタロトの剣を受けていた。十字受けって剣でも出来るのか
……弓さんが教わってるのは全ての武術の基礎ですからね。得物が素手から剣に変わっても同じ技術は使えます。応用力次第ですよ
 砕奈が傍でそう答えた
 凄いこと教わってるのか
 アスモデウスが音もなく浮いてスーッと勇麻さんに近付こうとする。どこかのホラー映画で見たような動き、静止したまま体を少しも動かさず近付いていく
「しゃらくさいわ!」
 ドラゴンが吠える。続いてその右の前足があらぬ方向を踏みつける
 先程のアスモデウスのホラーのような映像は消え、ドラゴンの前足の傍でアスモデウスは飛びずさっていた
 ああ、幻影だったのか
「流石、寝そべり族。見破られましたか」
 アスモデウスは脚に掛った埃を払うような動作をして、ゆったりとそう答えた
「見よ!魔王の力!」
 アスモデウスがそう叫ぶとピンク色に光った。ピンク色の光の霧が辺りを包んでいく
「吸うな!」
エンシェントドラゴンはそう叫んだ。勇麻さんはすぐに腕で口を塞いだ
「流石ですね。一見で見破るとは…ですが甘い。アスタロト!」
アスタロトが光へと変わり、一直線に勇麻さんに向かう。エンシェントドラゴンが反応する。しかし、アスタロトだった光はすり抜ける。
危ない。勇麻さん!
「分かってる!」
勇麻さんが片方の剣で受ける。瞬間の移動。受けた刀が落ちる。勇麻さんの姿は既にない
「アスモデウス!」
アスタロトが叫ぶ。勇麻さんの姿はアスモデウスの背後に。横に薙ぎ払う刀。アスモデウスの目が動く。反応
ザリ!
そんな音が響いた気がした
「浅い!」
エンシェントドラゴンが叫ぶ。腹部を斬られて、倒れようとするアスモデウス。勇麻さんの追撃の剣撃!光が割り込む。アスタロトのシャムシールが受け止める。消える勇麻さん。直に落ちた刀の元へ。刀を拾い上げ、二刀に構える勇麻さん
「回復に専念しろアスモデウス」
アスタロトは油断なく構えそう言った
「後何分だ?」
……結界 構築要素分析完了。既に結界破壊始まっています。予定より早く結界の破壊は進行中。結界破壊までの予想時間ジャスト8分
「予想より4分早いな」
勇麻さんがそう言った
……私の頑張り褒めて下さいよ?マスター
「戻れ!」
空間内部に轟くような声が響いた。サタンの声だ
「しかし」
アスタロトが反論しようとする。アスモデウスは光る手で傷を覆い、治療をしているようだ
「よい。相手の対策が予想を上回った。挽回のチャンスはまたあろうて、引き際を知るも将の務めよ」
「分かりました」
アスタロトが悔しそうに答える
「分かりました」
アスモデウスも傷を抑えながら続けた
アスタロトとアスモデウスが消える
……目標ロスト。撤退の模様です
「ち、自分達が逃げる準備はしてあったっという事か」
勇麻さんは悔しそうに言った
「いや、勝てたかどうかは分からんぞ。流石魔王クラスよ」
エンシェントドラゴンがそう言った
「今回の装備じゃ追い込み切れないか」
……相手も同じかと
「だな」
勇麻さんは二本の刀を鞘に戻した
……通信回復。天界と連絡が付きます。今回の結界は解析済み。対カウンター結界を織り込み済みです。同じ手法での攻撃はあり得ません。暫く時間が稼げるとの事です
「一息か。しかし十大魔王となると、対策が必要だぞ」
勇麻さんと互角以上の相手が十人いるのか。十人掛かりで攻められたら一たまりもないんじゃ
「ん、今回みたいなケースはそうないかな。結界の外なら人数の理はこちらにあるよ。天帝のおじさんもいるしな」
ああ、結界の外なら増援呼べるのか
「そういう事」

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