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ヤーマン

到着した空港は原っぱだった。
何て言うかボクが知ってるような空港ではなくよくこんなとこに着陸しやがったなってくらい何も無かった。
あれ?素通りで入国したよな?って感じでジャマイカに着いた。

夜なんで殆んど人はいないが空港の職員はレゲエを歌ってる。コイツ上手いなと思ってたら職員が近寄って来た。
ボクに『買わないか?』と聞いてきた。特産品のマリファナである。今は少し緩くなってるらしいがイメージと違って当時はジャマイカでも普通に違法だった。ノーマンと断った。入国していきなり強制送還とか勘弁して欲しい。職員マンはいる時は言ってくれと消えて行った。

ともかく到着して1分も経たずにマリファナ買わないかと誘われる素晴らしい国だった。

しかしその後にそんなヤツには会わなかったのでカモにするつもりだったんだろう。

夜中にキングストン(首都)に向かうなんて冗談じゃないのでボクは数日間、海辺のリゾートホテルに宿泊して海で遊ぼうと予約していた。

迎えも来てホテルまで送ってくれる。
迎えに来たのは身長2mのジャマイカンだった。無表情で愛想等は皆無だが非常に小綺麗な清潔感ある好青年だ。なんと言うかボクが思うジャマイカ人と対極にいる。ニューヨークで働いていますがと言われても納得するような人だった。車もとてもキレイな日本車だ。

他に二人アメリカ人の女性。可愛い。若かりしくまごろは何かあるかもと思ったが2度と会う事は無かった。

どうやらこの車はあちこちあるリゾートホテルに人間を運ぶ車らしい。運転手マンはアルバイトで昼間は政府の仕事をしてるそうだ。ボクはその頃少し英語が話せた。今では日本語すら怪しくなっている。

口数の少ない運転手マンが言うには途中で一度だけガソリンスタンドで給油の為に休憩する。そこでトイレと腹が減ってるならお菓子でも買って食えというざっくりしたものだった。

地獄のドライブの始まりだ。

これは死ぬかもと思った。

運転手マンはアクセルを踏み抜いていた。メーターは180kmだ。

走ってるのは街灯なんて無い舗装もないような田舎道だ。それどころか所々に穴が空いているような農道みたいな道をだ。
コイツまさか変なクスリでもやってるんじゃないかとじっと見てたら『心配するな、視力6.0だ』と言われた。そういう問題じゃない。

後ろの女性はすごい悲鳴を上げていた。オマイガッを一万回くらい聞いたのでやはりおかしいのはこの運転手マンだ。ジャマイカ人は何にでもマンをつける。木工職人はクラフトマン、漁師はフィッシャーマン、ラスタマンやら何でもマンだ。

このドライブはなんと三時間続いた。コイツが急ぐ理由も分からなくはない。リゾートエリアは島の反対側だ。ちなみに空港からホテルまで信号は1つも無かった。三時間運転して信号が無いなんてどうなってるんだろうか。

しかし視力6はすごい。ボクには全く何も見えないが数百メーター先の穴がドライバーには見えているみたいでフルブレーキで回避していく。コイツはなんて極端な運転をするんだろうか。

ガソリンスタンドで福山通運のトラックが給油していた。ジャマイカでは死ぬほど福山通運のトラックを見る事になる。カラーリングがラスタカラーでジャマイカ人は福山通運が大好きなんだそうだ。車は走ってるのはほぼ日本車でイギリス領だったせいか交通ルールは日本と同じだ。とてもルールを守るような連中には見えないが。

ジャマイカの夜はとてもキレイだ。星が降って来るように美しい。産業なんてものが無いこの島の空気は驚くほど美しい。
道端には所々に掘っ立て小屋みたいなバーがあって陽気なジャマイカンがレゲエを聴きながら酒を飲んでる。こっちは新幹線みたいな車に乗ってるので一瞬で消え去るんだがそれがまた幻想的でとても美しい。

彼女達のホテルに到着した。ファックとブチキレている。そりゃそうだ。

運転手マンと二人になりボクはこの国はいい国か?って聞いた。

無口な運転手マンはそれは神の思し召しだがジャマイカへようこそと言った。


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