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【芸術で日本を溢れかえらせる#4】50年後にプロオーケストラは存在するか(後編)

皆さんこんにちは!
12月31日から1月1日にかけて行われるカウントダウンコンサート、
”東急ジルベスターコンサート”って皆さん知ってますか??
とくに有名なのが、年越しのカウントダウンに合わせて「威風堂々」とか「フィンランディア」とかを演奏して、Happy New Yearと同時に曲が終わるってやつですね。
あのコンサートに行きたくて抽選応募したんですが見事に外れてしまいました、、、。
行ける人羨やましい、、、。テレビでも放送しているのでみなさんもぜひ◎

さて今回は、前回(50年後にプロオーケストラは存在するのか前編)の続きです!
前回をまだ見ていない方は是非ご覧ください!公的な情報と独自の調査?でプロオーケストラ市場の斜陽に迫っています!
(↓前回の記事はこちらから↓)

さて、今回は前回の内容を踏まえて
「なぜ演奏会に行かないのか?」
「どうすればお客さんを増やすことができるのか?」

ということについて主観的な考えをお話しようと思います。

前回話したことは要するに…

前回の記事の最後に書いたまとめをここにも記載しておきます。

・オーケストラの演奏会のお客さんの年齢層は高い(50代~が中心)
・若い楽器奏者/クラシック音楽好き=既存顧客or潜在顧客とは限らない
⇒このままだと50年後にオーケストラの演奏会に行く人はいなくなるかもしれない

要するに、このままだとマズいってことです(笑)

なぜ演奏会に行かないのか?

さて、前回の話の中で若年層が演奏会に行かないこと、楽器演奏をしている人/音楽が好きな人ですら演奏会に行かないことについて触れました。
なぜ彼らは演奏会に行かないのでしょうか?
(※演奏家に行くのが良い、行かないのは悪いということは一切ありません。)
実際に大学のオーケストラサークルの同期に聞いてみました。

(板東)「楽器演奏するのは好き?」
(同期)「うん、好き。」
(板東)「プロオケの演奏会行くことある?」
(同期)「自分がこれからやる曲だったり、過去にやったことがある曲だったら行きたいと思うけど、それ以外だと行かないかも」

皆さんはどうでしょうか?
おそらく多くの方がこのような意見をお持ちだと思います。
確かに、自分に少しでもかかわりのある曲・作曲家・指揮者・奏者がいれば行く理由になるかもしれませんが、そうでなければなかなか行かないのではないでしょうか?
そういった理由がなくとも、「なんか面白そうだからいってみよう」となるのは、余程好きな方くらいではないかと思います。

では僕が個人的に思う演奏家に行かない理由のうち2つを挙げます。

①”上手な演奏だけ”ではもう満たされない?!

プロオケの演奏会に行く、となったときその行動の目的は何でしょうか?
少なくとも”演奏を聞くこと”というのが目的の半分以上を占めているとは思います。
ですからコンサートホールに行く人たちは、演奏に対して対価を払っているといえます。
実際に「オーケストラに興味がある」方たちが演奏レベルが高いことをオーケストラを選ぶ基準に据えていることからも、このことがわかると思います。(下図参照)

引用(東京交響楽団*1)

となれば、その演奏が非常に魅力的で、感動的であれば再びホールに訪れてくれるはずなのですが、特に若い方はなかなかそう頻繁には来てくれません。
なぜでしょうか??

その理由の一つは、「世の中にエンタメがあふれかえっていること」だと思います。
Youtube、AmazonPrime、Spotify、Netflix、Abema etc…
この記事を読んでくださっている若年層の方々、これらのサービスを一つ以上は使用しているのではないでしょうか?
これらサービスのおかげで、我々はいつでもどこでもお手軽にエンタメを楽しむことができます。そのコンテンツに心動かされ、没頭し、涙を流したり、考えさせられたり、心穏やかになったりするのではないのでしょうか?
かくいう私も、かわいいワンちゃんの動画を見て癒されたり、日本代表のバックステージを見て感動したりしますし。

これらのエンタメは、音楽にとどまらず多種多様な娯楽を提供してくれますが、プロのオーケストラは(最近いろいろな企画もの演奏会が増えてきて楽しみ方が多様化しているとはいえ)依然として、その”演奏”を売りにしています。
しかし私は、このように便利なサービスに囲まれて、好きな時に好きなだけエンタメを摂取できるようになったことで、人々の嗜好は複雑化してより多くを求めるようになり、プロオケの”演奏のみ”では心が動きにくい、もしくはそれに魅力を感じられなくなっているのではないかと考えるのです。

たくさんの手軽で面白い選択肢がある中で、わざわざプロオケの演奏を選ぶ理由が無くなってきているといえるかもしれません。

②クラシック音楽は”聞かなきゃいけない”もの?!

「クラシック音楽は敷居が高いからお客さんが来ないんだ」
こんなことを聞いたことはありませんか??
確かに敷居は高いとは思いますが、ではなぜ敷居が高いといわれるのでしょうか?
私はその一因が”音楽教育”にあるのではないかと思っています。

みなさん、小中学校の頃の音楽の授業を思い出してください。
シューベルト作曲の『魔王』を聞いて、感想文を提出する課題がありませんでしたか?
このように現状クラシック音楽は学ぶべきものとして捉えられていると思います。
しかしこういった授業の中で
「感想書けって言われても何書いたらいいかわからない」
「何となく暗い感じがするけど、それだけ書いても点数付かないし、、。」
こんなことを思ったコトはありませんでしたか?

端的に言います。
教育におけるこういった”クラシックの押し売り”みたいなものが、クラシック音楽に対する心理的距離を生み出す一因になっているのではないでしょうか?
こちらのデータを見てください。

引用(東京交響楽団*1)

これはクラシック音楽全般へのイメージを示したものですが、
「難しい音楽だ」「堅苦しい音楽だ」「眠くなる音楽だ」といった回答があります。
これらの意見、さっきの音楽の授業の時に学生だった皆さんが抱いていた思いそっくりそのままじゃないでしょうか??
右の肯定的な意見も、これらの意見を”よく言えば”こうなるというだと思います。

難しくて、堅苦しくて、眠くなるものをお金を払って聞きたいとはなかなか思いませんよね?
でもこうした感情の背景には、単にクラシック音楽が難解だとかというよりも、先述したような”クラシック音楽押し売り教育”の積み重ねによって、潜在的な意識の中で”聞かなければいけないもの”となってしまったことが原因として隠れているのではないかと思っています。

どうすればお客さん(特に若い人)が来てくれるのか?

さて、ここまではプロオケのコンサートに、特に若年層のお客さんが来てくれない原因として
①”上手な演奏のみ”でお客さんを満足させることの限界
②音楽教育の中でネガティブなイメージが蓄積されていること

の2つを挙げました。
ここからは、これらの原因に対してとれる改善/改革の方向性を考えてみたいと思います。

音楽の世界×全く別の世界

まず一つ目の改革の方向性は、音楽と何かを掛け合わせることです。
最近では、プロオケのコンサートでも企画もの(全体を通して1つの劇になるようなものやプログラム全体に統一感があるもの、プログラムが有名な曲で構成されているものなど)が増えていると思います。こういった試みは非常に面白いと思います。
劇調にしたり、聞きやすい曲を取り入れることで、コンサートの魅力を増やしたり、心理的ハードルを下げることができると思うからです。

しかし私が考える掛け算は、クラシック音楽の世界と全く別の世界との掛け算です。
例えば、スポーツやアニメ、ビジネスなどなどです。
”演奏のみ”で勝負するだけでは新しいお客さんを獲得しづらいですし、そもそもクラシック音楽好きより、例えばスポーツ好きやアニメ好きといった人の人口のほうが多いと思いますので、こういった全く異なる世界と音楽の世界の交わる面積を広げて、別の世界から人を引っ張ってくる、クラシック音楽の世界にも出入りしてもらうことが必要だと思うのです。

例えばクラシック音楽×ゲームやアニメ
ゲームやアニメ音楽のコンサートには、普段コンサートを聞きに来る人だけではなく、当該アニメやゲームを愛する人たちも来てくれるでしょう。
こうすることで、クラシック音楽と、ゲーム・アニメ世界の住人に接点が生まれます。

また、クラシック音楽×株というのもあります。
IG STOCK MUSICというのをご存じでしょうか?

これは”株価が音楽になる”という面白いコンセプトのサービスです。
簡単にいうと、株価チャートをAIが分析して音楽を作成してくれるというものです。
株価をよく知らない人でも感覚的に流れを把握できるという面白さがあります。
これもクラシック音楽/オーケストラにはあまり興味がなかったけど、株をやっているという人、つまり株式の世界の住人との接点を創りだすことができる取組なのではないでしょうか。(IG STOCK MUSICの音楽ジャンルはクラシック音楽だけではないですけどね!)

ここで重要なのは興味を持ってもらったうえで、如何にしてコンサートという生演奏の場まで誘導するかだと思っています。
つまり、”接点”を”線”にするのが大事ということです。
例えばIG STOCK MUSICの例では、サービスの延長線上として、投資家向けの講演会や注目株の経営者のパネルディスカッションと株価の演奏会を行ったりすることで、株をやる人たちを演奏会にまで連れて来れるかもしれません。
こんな風にして、作った接点からクラシック音楽/オーケストラへの興味という方向性へ転換させて、継続的に興味を持ってもらうことにも注意を払えば、これまで演奏会に来たこともないような人たちが足を運んでくれる機会を創り出せるのではないかと思っています。

”難しい””堅苦しい””眠そう”意識の払拭

次は、クラシック音楽に向けられるこうした視線、意識の払拭という方向性で考えてみましょう。
先述した通り私は、こうした意識は幼少期からの教育によって醸成されたものだと考えています。
しかし、教育を変えるという話をするのはあまりに広大ですし、私も専門分野でも何でもないのでここでは控えておきます。
ただ、教育の中でみんながクラシック音楽に対して↑のような認識を持つ要素、それが実際に演奏会でも存在していることについては、改善できる点を提案できるかもしれません。

例えば、先ほど教育の話をした際、
「感想を書けと言われても、どこに注目して何を聞いたらいいのかわからない」
と書きました。
これは皆さんも経験あるのではないか、そしてこれがクラシック音楽は聴かなければいけないという意識を創っている、と。
でも、これと同じ現象がコンサートホールでも起きているのではないかと思うのです。
「プログラムノート」がその一つです。
プログラムノートとは、演奏会で演奏される楽曲の基本情報の説明をするために演奏会パンフレットに書いてあるものです。
プロオケのコンサートに行ったことある方は見たことがあると思いますが、私は個人的に「あのプログラムノートを見ても、どこが聞きどころなのか、どういう意匠がなされているのか、ぼんやりとしか理解できない」と感じます。
”中間部で木管の細やかな旋律が~”なんて書かれても、元からその曲を知っていれば楽しめるかもしれませんが、正直よくわからないこともあります。クラシック音楽に親しみがない人にとっては言うまでもないでしょう。
この、自分で楽しい演奏箇所を見つけなきゃいけないような状況こそが、音楽の授業でいう「じゃあ感想書いてね」と同じだと思うのです。

プログラムノートは楽曲の情報/面白さを”伝える”ものではなく、楽曲の情報/面白さが”伝わる”ものでないといけないと思います。
ですから例えば
・プログラムノートを電子化して、曲の進行に合わせて解説を展開する
・演奏中に「ここに注目」とわかるようなサインや合図を出す
・演奏終了後に、その場で生楽曲解説を行う
・演奏者の意気込み(注目箇所をどう演奏するかなど)をノートに載せる
などプログラムノート自体の刷新と、プログラムノートを活かした演奏会にすることで、「自分で好きに聞いて」ではなくて「一緒に楽しんで聞こう」という体制を創り、従来のようなコンサートスタイルにおいて、特段クラシック音楽に詳しくない方も楽しめるようなスタイルが作れるのではないかと思います。

今回のまとめ

さて、今日は演奏会に行かない理由と、その解決策について少し考えてみました。まとめると以下の通りですかね。

①(課題)”上手な演奏だけ”ではもうお客さんを満たせない
 (解決)⇒音楽と全く異なる世界のものを掛け算する

②(課題)音楽教育による”聞かなきゃいけない”という潜在意識
 (解決)⇒プログラムノートをキーにした楽しみ方の選択肢の付与

クラシック音楽/オーケストラを取り巻く環境はもっと複雑で難解で、一筋縄ではいきません。
今回取り上げた課題だって氷山の一角ですし、それに対する解決策も実現するにはとても大きな労力と時間がかかります。
しかし、考え、取り組み続けなければ変わることはありません。
クラシック音楽の世界の住人達、プレイヤーや愛好家たちがこういったことに向き合い、より多くの人へと届くことを願うことが解決の糸口を見出すのだと思います。

少しでも関心を持ってもらって、是非このnoteを見てくれている皆さんとも日本のプロオケの世界について話してみたいです!

それではまた次回!
近日中にビッグでサプライズなご報告ができると思うのでしばしお待ちを◎

参考資料
*1 東京交響楽団「オーケストラのマーケティング・リサーチと芸術団体のための戦略プラン構築、およびオーケストラのためのマーケティング・ハンドブック制作事業」
(H1_H4 (tokyosymphony.jp))

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