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マッドパーティードブキュア 230

「え」
 漏れ出そうになる声を慌てて飲み込む。ブルーシートに囲まれた室内には異様な風景が広がっていた。
 机替わりなのだろう、薄汚れた木箱が棲家の中央に置かれている。その木箱を囲うように住人たちが座っていた。これが女性の「子どもたち」なのだろうか。
 だが、子どもたちと呼ぶには
「ずいぶんと大きなお子さんたちでやすな」
 ズウラが戸惑いがちに感想を漏らす。
「ねえ、本当、図体ばかり大きくなって」
 女性は笑って答える。
 子どもたちは大人の姿をしていた。それもそろって体格のよい人相の悪い男たちだ。男たちは感情のこもっていない顔で、女性を見つめている。
「お客さんがいたのかい?」
「ええ、そうです」
 男たちの一人、顔に大きな傷のついた男が頷き、木箱の一端を指さした。そこには老婆が座っていた。居心地悪そうに木箱に腰を下ろしている。特段戦闘をした様子はない。
「さっき、悲鳴が聞こえたような気がしたのだけどい、なんかあったのかい」
「まさくんがいじめられました」
「ちょっと、不慮の事故があってね」
 警戒した表情で老婆が口を挟んだ。女性は驚きの声を上げた。
「まあ、お客さんがいるのかい。なら、初めにそう言いなさいよ」
「ごめんなさい。お母様」
 傷の男が申し訳なさそうに謝る。
「まあまあ、お客さん。うちの子らが失礼なことしてなきゃいいんだけど」
「まあ、丁寧にもてなしてもらいましたよ」
「あらあらそれならよかったのだけれど」
 女性は近くにいた男に向かって強めの口調で言った。
「ほら、ぼさっとしてないでこういう時はちゃっちゃかお茶を出すんだよ」
「はい、お母様、ごめんなさい」
 言われた男は立ち上がり、棲家の奥に姿を消した。その後ろ姿を見届けてから、女性は床に腰を下ろした。
「それで、あんたたちはこのお婆様と知り合いだったりするのかい?」
「あー、知り合いと言いやすか、なんといいやすか」
 ズウラが口の中でもごもごと言葉を転がした。

【つづく】


 


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