【若狭のお箸】若狭の美しさを表現した現代の箸づくり(福井県小浜市)
「御食国」として都に豊かな食材を運んできた福井県小浜市は現在、箸の一大生産地として栄える町。全国に流通する塗箸の8割がここで生まれているという。その背景に、400年以上の歴史をもつ伝統工芸品・若狭塗があることは間違いない。かつて漁師が副業として若狭塗の箸づくりをしていたことが、箸産業のルーツのひとつだ。
「若狭塗の模様は、卵殻と貝殻、松葉や菜種などの自然素材で描いていきます。色漆を塗り、金箔を置き、さらに漆を塗り重ねます。その後、研ぎ出しによってきらめく模様を出すのが若狭塗の特徴です」
緻密な仕事の合間に話してくれた加福宗徳さんは、小浜市に3人いる若狭塗伝統工芸士のひとり。100年以上続く「加福漆器店」の4代目だ。眼鏡フレームなど従来になかった塗りの注文にも柔軟に挑戦して伝統に風穴を開けようとしている。
若狭塗の歴史に触れるため、箸メーカーのマツ勘が運営す「GOSHOEN」へ。1815(文化12)年に建築された北前船商人「古河屋」の別邸を改装した建物内では、古い漆器や歴史を解説するパネルなどが展示されている。クリエイティブディレクターの堀越一孝さんが、「若狭塗の意匠は、小浜湾の海底が陽光を受けて輝き揺れる様子を表現したもの。模様だけで200以上もあるんですよ」と教えてくれた。
今年10月に発売する箸「rankak」は、「古くから続く良いものを見つめ直し、次世代につなぐというテーマでトライしたものです」と堀越さん。漆の上に松葉や菜種、糸などを置き、細かな卵殻をまぶして表現する抜き模様は、伝統に新感覚なデザインが調和して美しい。
祖父の代から続く箸問屋に生まれた、スタイル・オブ・ジャパンの社長・大森一生さんは、福井県産杉の間伐材を生かし地元の森林組合や製材所と共に箸づくりを行う。
「若狭塗の技術と特殊加工により、100パーセントナチュラルでありながら食洗機に対応した丈夫な箸をつくっています。モダンで機能的なものから、年に一度無償でメンテナンスをして10年間使っていただくものなど多様性を意識して、現代工芸としての箸を提案していきます」
それぞれのアプローチは違うけれど、若狭塗を進化させつつ、箸づくりを次世代へつなげたいという思いはひとつである。
文=金丸裕子
写真=佐々木実佳
出典:ひととき2024年5月号
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