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コロナワクチンと肝炎 (2), T細胞依存性自己攻撃による新しいタイプの肝炎か: J Hepatolに掲載された論文から

前回に続いてコロナワクチンと肝炎のお話になります。コロナワクチン接種後の肝炎の発症については複数の論文が報告されています。今回紹介するのは、コロナワクチンに関連した新しいタイプの免疫疾患についてです。

論文中の症例では、患者はファイザーコロナワクチンの初回接種後に急性肝炎の症状を呈しました。それにも関わらずワクチンの2回目の接種を受け、その後に重症肝炎を発症しました。この患者の症例は、典型的な自己免疫疾患による肝炎とは異なったものでした。コロナワクチンによって誘発された免疫が原因と推定されるのですが、スパイクタンパクに対する抗体は上昇しておらず、抗体依存性自己攻撃によるものでもなさそうです。

コロナワクチンによってスパイクタンパクを発現するようになった肝細胞を、スパイクタンパクを認識する細胞障害性T細胞 (キラーT細胞とも呼ばれる) が攻撃する事によって発症したものと考えられます。筆者らはこういう表現は使ってはいないものの「T細胞依存性自己攻撃」とも呼ぶべき様な新しいタイプの免疫疾患と考えられます。

SARS-CoV-2 vaccination can elicit a CD8 T-cell dominant hepatitis
Boettler et al. (2022) J Hepatol
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9021033/

SARS-CoV-2ワクチン接種はCD8 T細胞優位の肝炎を誘発する可能性がある

臨床経過
52歳の男性患者は、レボチロキシンによる長期代替療法中の既存の甲状腺機能低下症以外に目立った病歴はなく、過去の肝機能検査 (LFT) は正常だったが、BNT162b2 mRNAワクチンの初回投与の約10日後に症状が始まり、徐々に吐き気、疲労、食欲不振およびそう痒症が発症した。その後、黄疸が出現し、LFTで急性肝細胞・胆汁うっ滞性混合肝炎 (ALT:2130 U/l, AP:142 U/l gamma-GT:217 U/l, Bilirubin 7.7 mg/dl) を指摘されてかかりつけ医に受診した。初回ワクチン接種後25日目に一次医療機関に入院した。A、B、C、E型ウイルス性肝炎、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バール・ウイルス感染症は血清検査およびPCR検査で除外された。HFE遺伝子型検査では、ヘモクロマトーシスに関連する変異は認められなかった。自己免疫学的検査ではAMA-M2反応性が境界線上にあり、結論は出なかった。患者は特別な治療を受けることなく急速に回復し、中毒性肝炎の鑑別診断のもと、3日後にLFTが低下して退院した。その後2週間で肝酵素はさらに低下し、ASTとAPは正常化し、患者は初回接種から41日後にBNT162b2 mRNAワクチンの2回目 (ブースト) 接種を受けた。ブーストワクチン接種から20日後 (dpb) 、患者は再び吐き気と疲労感を覚えた。検査では、ALT 1939 U/l、ALP 167 U/l、ビリルビン 2.9 mg/dlと急性混合性肝炎の再発を認めた。その後 26dpbで当院3次医療機関に紹介された。自己免疫血清検査では、軽度の高グロブリン血症 (IgG値はULNの1.02倍、IgAとIgM値は正常) 、ANA (1:200)、抗平滑筋抗体とAMA-M2の境界陽性、抗LKM検査は陰性であることが確認された。肝生検を行い、組織学的に中程度のリンパ形質細胞浸潤と小葉壊死およびアポトーシスの病巣を伴う界面肝炎を認めた。好酸性顆粒球は認められなかった。副鼻腔周囲線維や門脈線維は観察されなかった。これらの所見を総合すると、自己免疫性肝炎の改訂オリジナルスコアによる自己免疫性肝炎の可能性が高く、患者には1日9mgのブデソニドが経口投与された。その後数週間で肝酵素は低下し、治療開始39日後に再発 (66 dpb) したが、その後、全身性ステロイドとウルソデオキシコール酸の併用療法に切り換えた結果、コントロールされるようになった。その後、8週間以内にLFTは正常化した。
抗スパイク抗体は、ブースト接種後27日目の診断時に健常者と同等の力価で大きな変動はなく、時間の経過とともに力価は低下することが予想された。

(注釈:この論文内では2回目接種をブーストと呼んでいます)

患者は自己免疫疾患様の肝炎を発症しましたが、抗スパイク抗体は、ブースト接種後も健常者と同等の力価で大きな変動はありませんでした。

ワクチン接種後の細胞性免疫を調べるために、T細胞がフローサイトメトリーによって解析されました。フローサイトメトリーの技術は細胞表面の目印となる分子 (マーカー) を蛍光標識し、それぞれのマーカーの発現量を蛍光の強さとして測定する技術です。図の1つ1つの点が1つの細胞を表し、蛍光の強さによるX軸、Y軸の数値として図に表示されます。 

CD8は細胞障害性T細胞のマーカーであり、 CD8陽性細胞が細胞障害性T細胞です。この細胞はキラーT細胞とも呼ばれます。

B細胞によって産生される抗体は獲得免疫の主要な攻撃要員の1つであり、抗体はウイルスそのものを攻撃できます。抗体がウイルスを仕留め損なうと、細胞に感染するウイルスも出てきます。ウイルス感染細胞では、免疫系の仕組みによってウイルスの抗原が断片化されて細胞表面に提示されます。そしてこの目印が細胞障害性T細胞の標的となります。細胞障害性T細胞の役割は、ウイルスそのものではなくウイルス感染細胞を殺す事です。

細胞障害性T細胞がウイルス感染細胞を殺す際にパーフォリンとグランザイムBを射出します。この仕組みは標的目がけて散弾銃を打つ様なものです。パーフォリンは標的細胞の細胞膜にポアを形成し、ウイルス感染細胞を穴だらけにします。この穴を通ってウイルス感染細胞内にグランザイムBが打ち込まれます。グランザイムBはセリンプロテアーゼで、細胞を死に至らしめる毒薬です。こうして細胞障害性T細胞はウイルス感染細胞にアポトーシス (プログラム細胞死) を誘発します。

筆者らはスパイクタンパクのエピトープの1つ (S378-386) を搭載した患者適合型MHC (HLA-A*03テトラマー) を用いて、スパイク特異的CD8陽性T細胞を同定することができました。CD8陽性T細胞は、末梢血 (0.05%) と比較して、肝臓 (0.17%) では約3.4倍多く、肝臓への常在性 (CXCR6、CD103、CD69) を示し、また、末梢血中 (CD38発現 45.4%) よりも肝臓 (CD38発現 90.4%) で強い活性化を示しました (図3C) 。

縦断的解析ではスパイクタンパク特異的CD8陽性T細胞の頻度は安定しており、ブデソニド治療開始後、トランスアミナーゼ値の低下と同時にCD38発現レベルが低下しました (Fig.3D)。しかし、細胞障害関連マーカー (CD38発現とGzmBやT-betなど) は、患者が再発すると増加し、全身免疫抑制療法を導入すると正常化しました (図3E-G) 。

ファイザーの内部文書によると、筋肉注射された脂質ナノ粒子は全身に運ばれ、最も蓄積する部位の1つが肝臓です。スパイクタンパクは免疫組織化学による解析 (スパイクタンパクに対する抗体での解析) では肝臓で確認されませんでした。これは2回目ワクチン接種時から27日後に行われたため、時間が経ちすぎたせいかもしれません。また、T細胞が認識するのはスパイクタンパクそのものではなく、細胞表面に提示されたスパイクタンパクの断片の抗原決定基 (エピトープ) です。それぞれの抗体が認識するのもタンパク内の1つの小さなエピトープであり、T細胞と抗体のエピトープが異なっているために抗体による解析では検出できなかったことも考えられます。むしろスパイクタンパクそのものが検出されなくなった時期でも、スパイクタンパクの一部を目印として持つ細胞に対するT細胞の攻撃が続く可能性があります。

まとめると、スパイクタンパクを認識する細胞障害性T細胞が活性化して肝臓に滞留しており、肝炎の症状はそうしたT細胞の挙動と一致するという事です。スパイクタンパクを持つ肝臓の細胞をT細胞が攻撃して殺傷した結果、肝炎を発症したと推測されます。

コロナワクチンの目的は抗体と細胞性免疫の両者を誘導する事です。さらに遺伝子ワクチンの仕組みからすれば、ヘルパーT細胞だけではなく細胞障害性T細胞ができるのは自然な事です。以下で理由を説明します。T細胞の抗原認識の仕組みは複雑なのです。

T細胞受容体は標的を直接認識する事はできません。T細胞が認識できる対象は細胞内で分解された標的物質の断片がMHC (major histocompatibility complex、主要組織適合性複合体) 上に提示されたものです。

ヒトのMHCは、HLA (human leukocyte antigen、ヒト白血球型抗原) とも呼ばれます。一般的に血液型と言うとA、B、O、AB型といった赤血球の型を指しますが、HLA型は白血球の型を示しています。その型の種類は多く、まずA座のA1、A2、、、A80、B座のB5、B7、、、C座の、、、DR座の、、、と続き、赤血球の型とは比較にならないほど膨大です。HLAの組み合わせは数万通りといわれます。HLAはT細胞の抗原認識を決めるので、HLAの組み合わせは拒絶反応に直接関連します。患者とドナーでHLAの型が異なると免疫系によって外敵と認識されるため、ドナー由来の臓器が免疫系の攻撃対象となるのです。臓器移植の際に適合するドナーを見つけるのが難しいのは、HLA (=ヒトのMHC) の種類が多く、しかもHLAは一番個人差が大きい遺伝子群だからです。

抗原提示の種類には2種類あるのですが、これに関連してMHCは大きく分けて二種類あり、クラスI MHC、クラスII MHCと呼ばれます。実は遺伝子ワクチンの仕組みは細胞障害性T細胞を誘導するのに適した方法なのです。

クラスII MHCは免疫系の抗原提示細胞が発現する分子です。樹状細胞、単球・マクロファージ、B細胞などが抗原提示細胞にあたります。抗原提示細胞の役割は、ウイルス、細菌などの病原菌を捕食し、その断片を細胞表面のクラスII MHC上に提示する事によって、病原体の情報をヘルパーT細胞に伝える事です。ヘルパーT細胞は免疫系のレーダー役を担当する細胞で、B細胞、細胞障害性T細胞に攻撃許可を与える働きを持ちます。クラスII MHC上に提示される抗原は細胞外から取り込んだ抗原、つまり外因性抗原です。

これに対してどの細胞もクラスI MHCを持っています。その理由は、どんな細胞でもウイルスなどに感染した場合、感染したという目印を細胞表面に晒す必要がある事です。「俺はすでに病原体にやられてしまった、もうダメだ、感染を広げる前に俺を殺してくれ!」という事です。クラスI MHC上にウイルス抗原を提示した細胞は、感染細胞と判断され、細胞障害性T細胞による駆除対象となります。クラスI MHC上に提示されるのは、細胞内に侵入した細菌やウイルスのように、細胞内で産生されるタンパク、つまり内因性抗原です。

少しややこしくなるのでここではあまり触れませんが、抗原提示細胞が細胞外から取り込んだ抗原をクラスI分子 MHC上に提示し、細胞傷害性T細胞を誘導するような経路も知られています (クロスプレゼンテーション)。抗原提示の経路も100%白黒つけられるわけではなく、免疫系は複雑です。

コロナワクチンの遺伝子ワクチンの作用機序では、スパイクタンパクは細胞内で生産されるためにクラスI MHC上にウイルス抗原を提示する事になります。つまり、コロナワクチンを取り込んだ細胞はコロナウイルス感染状態を模倣した細胞であり、そのまま細胞障害性T細胞に駆逐されうる運命にもあります。今回紹介した論文は、スパイクタンパクを認識するT細胞が肝臓に集まり、肝炎の原因となっているという報告です。肝臓はコロナワクチンが一番集積しやすい臓器であり、肝臓細胞でスパイクタンパクを生産している可能性は充分考えられます。そうした細胞がT細胞によって攻撃されて肝炎を発症したのではないでしょうか。

タンパクに対する抗体を持っているかどうかを検査する事は難しくありません。抗体はタンパク上のエピトープに直接結合するので、タンパクを抗原として用いれば、多様なエピトープ に対する抗体をまとめて検査できるからです。T細胞受容体はウイルスの断片とMHCの両方を同時に認識するもので、タンパクそのものを認識できません。T細胞の抗原特異性を検査するには、ウイルスの断片とMHCの組み合わせが必要です。タンパクの断片の1つずつを検討しなければならないのですが、さらにMHCの個人差が非常に大きいために、同じT細胞でも人によって抗原に対する反応性も異なります。抗原特異的T細胞を検出する事は技術的に簡単ではないのです。

コロナワクチン後遺症として免疫系が自己を攻撃する作用機序には、1) 自己免疫疾患、2) 抗体依存性自己攻撃に加えて、3) T細胞依存性自己攻撃がある事がわかってきました。今回の論文は氷山の一角であり、T細胞依存性自己攻撃は実験によって検出されるよりもはるかに多いでしょう。



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