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コロナワクチンと眼の障害: Ocular Immunology and Inflammationに掲載された総説論文から

コロナワクチン接種後の眼の異常が報告されています。眼は光を感じるための神経系のセンサーであり、構成するパーツは多岐に渡ります。眼球、網膜、角膜、ぶどう膜、神経系、血管など様々な要素が眼のトラブルに関わります。

Ng (注釈:筆者の名前がNg) らは、コロナワクチン接種後の眼の有害事象についての総説論文を発表しました。Ngらの総説論文は、コロナワクチン接種に関連する眼科的所見を報告した論文合計23報から、顔面神経麻痺/ベル麻痺、外転神経麻痺、AMN、上眼静脈血栓症、角膜移植片拒絶反応、ぶどう膜炎、中心性漿液性脈絡網膜症、VKH再活性化、バセドウ病の発症など74名の合併症を総括したものです。これまでにコロナワクチン接種後の眼部の副作用について、ケースレポートとしての論文は多数発表されています。

一言で眼の異常と言っても、実際には血管、神経系、免疫系のトラブルが複雑に絡み合っています。

Ocular Adverse Events After COVID-19 Vaccination
Ng et al. (2021) Ocular Immunology and Inflammation
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34559576/

COVID-19ワクチン接種後の眼の有害事象について

目的: COVID-19のパンデミックにより、新しいワクチンの開発がかつてないスピードで進んでいる。また、ワクチン接種の普及に伴い、COVID-19ワクチン接種後の眼科的副作用の報告が相次いでいる。本総説では、COVID-19ワクチン接種に関連すると考えられる眼科的副作用をまとめ、その臨床的特徴および対処法について考察する。
方法: ナラティブ文献レビュー
結果: COVID-19ワクチン接種による眼の副作用には、顔面神経麻痺、外転神経麻痺、急性黄斑神経網膜症、中心性漿液性網膜症、血栓症、ぶどう膜炎、多発生白点症候群、Vogt-小柳-原田病再活性化、新規発症のバセドウ病がある。現在の文献では、主にレトロスペクティブなケースシリーズや単独の症例報告であり、これらは本質的に関連性や因果関係を立証するには弱いものである。しかし、報告された症例はCOVID-19の眼症状そのものであり、COVID-19の眼症状との類似性を示している。したがってCOVID-19ワクチン接種後の眼の副作用の発症には、COVID-19ワクチン接種に対する人体の免疫反応が関与している可能性があると考えられる。
結語: 眼科医および一般医は、COVID-19ワクチン接種後に稀ではあるが起こりうる眼科的副作用に注意する必要がある。



以下は論文中で報告されているコロナワクチン接種後の眼および眼部の障害の様々な例です。

顔面神経麻痺
Pfizer-BioNTech (BNT162b2) およびModerna (mRNA-1273) のワクチン試験において、ワクチン接種後のベル麻痺の発生率が、それぞれの試験でプラセボ群と比較してアンバランスであることが示唆されている。複合データにおける36,901人のワクチン群参加者のうち、ベル麻痺は7例であったのに対し、プラセボ群参加者のベル麻痺は1例であった。


顔面神経麻痺は顔の筋肉を動かす神経に麻痺が起きる病気です。顔面神経麻痺が起こるとまぶたを閉じられなくなる事があります。このため、眼の乾燥を防ぐ必要があるのですが、これを怠ると角膜上皮障害によって視力障害をきたします。顔面神経の経路は長く、比較的入り組んでいるため、顔面神経麻痺を引き起こす原因は数多くあります。 顔面神経麻痺の中で最も一般的なのはベル麻痺ですが、ベル麻痺には単純ヘルペスウイルス感染との関連が指摘されています。

外転神経麻痺
健康な59歳女性が、BNT162b2ワクチン接種2日後の発熱に伴い、孤立性外転神経麻痺を呈した。麻痺の持続性に関する詳細は報告されていない。細隙灯、眼底検査、脳と眼窩の非造影磁気共鳴画像 (MRI) には異常がなかった。

外転神経麻痺は、眼球を外転させるために外側直筋の収縮を引き起こす役割を持つ外転神経の機能障害に関連する疾患です。 眼球が外転できないことにより収束性斜視または内斜視になり、その主症状として二つの画像が並んで見える複視となります。血管障害が原因となる事があります。

急性黄斑神経網膜症 (acute macular neuroretinopathy (AMN))
AMNは黄斑部の赤褐色の楔状病変を特徴とするまれな疾患で、その先端はしばしば窩洞に向けられる。発症時には、しばしば傍中心性暗点と軽度視力低下を伴う。4件の研究でAMNの症例が報告されている。患者はすべて女性で、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンの接種を受けていた。全員が経口避妊薬 (OCP) を服用しており、初回接種の2日後に症状を呈した。3人は発熱を、1人は失神の前にインフルエンザ様症状を訴えた。光干渉断層計 (OCT) では、楕円帯の崩壊とともに、外核層と叢生層の高反射が見られた。また、OCT血管造影では毛細血管の脱落がわずかに認められた。

黄斑変性症は眼の網膜の黄斑部が変性する疾患の総称です。網膜の深部毛細血管叢における微小血管の異常が仮説として考えられています。稀な網膜疾患であり、その病態生理は不明です。

中心性漿液性脈絡網膜症
33歳の男性が、BNT162b2の初回投与から69時間後に目のかすみと変視を呈し、中心性漿液性脈絡網膜症と診断された。拡張眼底検査では、小窩裂溝反射の消失と出血を伴わない黄斑の腫脹が確認された。OCTを施行したところ、神経網膜の黄斑漿液性剥離を認め、OCTアンギオグラフィーでは漿液性網膜剥離の領域で絨毛膜の流れ信号が全体的に減衰していることが確認された。眼底フルオレセイン血管造影では点状漏出が認められた。患者はスピロノラクトンを処方され、すべての症状は最終的に経過観察で消失した。

中心性漿液性脈絡網膜症は網膜の黄斑部に限局性滲出性網膜剥離を起こす疾患です。30歳前後の男性の片眼に好発します。臨床症状として比較中心暗点、変視症、小視症などがあります。ストレス等が発症の修飾因子です。

眼静脈血栓症
ワクチン接種後の血栓症については、アデノウイルスベクターワクチンChAdOx1nCoV-19およびAd26.COV2投与後にワクチン接種後の免疫性血小板減少症や脳静脈洞血栓症 (CVST) が稀に発生することが報告されている。 解剖学的に、COVID-19ワクチン接種後のCVSTは、ほぼすべての硬膜静脈洞で発生すると報告されており、患者の大半は女性である。

アストラゼネカのDNAワクチンを接種した29歳女性では血小板減少、Dダイマーの高値を示し、抗体スクリーニングでヘパリン/血小板第4因子複合体に対する抗体が高値で検出されました。この場合、ワクチン誘発性免疫性血小板減少症 (VITT; Vaccine-induced Immune Thrombotic Thrombocytopenia) による血栓が眼の静脈で起こったと考えられます。

角膜グラフト拒絶反応
Phylactouらは、デスメ膜内皮角膜移植術 (DMEK) 後の移植片拒絶反応の2例を報告し、いずれも女性であった。66歳の女性は移植後14日目にBNT162b2ワクチンを接種し、7日後 (移植後21日目) に内皮移植片の拒絶反応を起こした。彼女はウイルス量が検出されず十分にコントロールされたヒト免疫不全ウイルス感染症の既往を有していた。もう1例は83歳の女性で、BNT162b2投与6年前にDMEKを受けている。彼女は2回目の投与から3週間後に症状を呈した。両症例とも細隙灯検査と前眼部光干渉断層計 (OCT) により、中程度の結膜充血、びまん性角膜浮腫、前房細胞とともにドナー内皮に限局した細かい角膜沈着物が認められた。

自然免疫系の細胞は角膜に侵入し、サイトカイン (TNF-α、ケモカインを含む) および他の炎症性分子の調節を高め、角膜移植片の拒絶反応を引き起こすことがあります。ワクチン接種後の免疫系の活性化により、これらのメカニズムがワクチン関連の角膜移植片の拒絶反応に寄与している可能性があります。

新規発症ぶどう膜炎
我々は、COVID-19ワクチン接種後のぶどう膜炎を記述した5つの症例報告および1つの多施設共同、レトロスペクティブケースシリーズを確認した。1件の報告では、抗核抗体 (ANA) 陽性の乏突起関節型若年性特発性関節炎 (JIA) の既往がある18歳女性が、BBIBP-CorVの2回目の接種の5日後に両側の前部ぶどう膜炎を呈した。HLA-B27検査は陰性であった。

ぶどう膜炎は、ぶどう膜 (虹彩、毛様体、脈絡膜) に炎症を起こす疾患です。ぶどう膜炎自体は一つの疾患概念ではなく、様々な疾患の一つの表現形です。充血、眼痛、比較的急激に視力障害をきたします。全身疾患と関係する事が多いです。

フォークト・小柳・原田病 (Vogt-Koyanagi-Harada disease (VKH)) の再活性化

Papasavvasらによる1件の論文が確認された。報告された対象者は、過去6年間コントロールされていたVKHの既往がある女性であった。VKHの発症は重篤で、インフリキシマブの輸液が必要となり、定期的な維持療法として継続された。BNT162b2ワクチン2回目接種後6週間で重症のVKH再活性化を認めた。細隙灯検査で角膜沈殿を伴う前室炎を認め、OCTで網膜ひだ、網膜下液、脈絡膜厚の増加を確認した。インフリキシマブ治療と並行して副腎皮質ホルモンの経口投与を開始し、疾患の再活性化は抑制された。

フォークト・小柳・原田病は、ぶどう膜炎の一種です。20代から40代の女性に多く見られます。皮膚、眼、蝸牛のメラニン細胞に対する自己免疫疾患です。

バセドウ病
BNT162b2の初回投与後数日でバセドウ病 (GD) の発症が2名で報告された。1名はCOVID-19感染歴と肺動脈性肺高血圧の既往があった。両者とも症状発現時に新たにGDと診断された。両者ともBNT162b2ワクチンを接種し、その2-3日後に症状を訴えた。眼症状の記述や眼科的な検査は含まれていない。この研究は、被験者の症状が、Shoenfeld症候群として知られているアジュバントによる自己免疫/炎症症候群 (ASIA) の診断基準に適合することを明らかにした。バセドウ病は眼窩や眼表面を侵すことが知られているため、報告された症例では眼症状がなかったにもかかわらず、この2症例をこの包括的レビューに含めた。

バセドウ病は甲状腺機能亢進症を起こす事による甲状腺疾患です。眼球突出が特徴的な症状として知られています。バセドウ病は自己免疫疾患として発症する場合があります。ヘルペスウイルスの一種、エプスタイン・バール・ウイルスの再活性化とバセドウ病の自己抗体が関連する可能性が指摘されています。

以上のようにコロナワクチン接種後の様々な眼の障害が報告されています。一方、コロナウイルス感染による眼症状としては、結膜炎、上強膜炎、ぶどう膜炎、網膜の血管変化や綿毛斑、視神経炎、脳神経麻痺による眼球運動障害、一過性の収容障害などがあります。このように症状の多くがコロナウイルス感染とコロナワクチン接種で重複しています。

コロナワクチンは遺伝子ワクチンであり、体内でスパイクタンパクを生産させるシステムです。スパイクタンパクは血管毒性を持ち、血管に障害を起こします。ワクチン接種後の強い炎症反応の影響が眼に現れる事があります。スパイクタンパクに対して作られた抗体が、眼に局在する自己抗原に交差反応すれば眼に障害を起こすでしょう。コロナウイルス感染による眼の症状がコロナワクチン接種後にも発症するのは、スパイクタンパクの直接的あるいは間接的な毒性によるものと考えられます。

論文からはヘルペスウイルスが関連する目の障害も多い事がわかります。帯状疱疹はヘルペスウイルス再活性化のわかりやすい例ですが、コロナワクチン接種後の一時的な免疫不全が原因ではないかと考察されています。ヘルペスウイルスは神経節に潜伏感染しているので、再活性化が神経に問題を起こす事があります。また、ヘルペスウイルスの一種であるエプスタイン・バール・ウイルスには自己免疫疾患を発症させる作用機序もあります。こうした要因が複雑に絡み合い、眼の障害を引き起こしているようです。



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