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コロナワクチンと肝炎 (1): J Hepatolに掲載された論文から

肝炎は、肝臓に炎症が起こり発熱、黄疸、全身倦怠感などの症状を来たす疾患の総称です。コロナワクチン接種後の肝炎の症例を紹介します。ワクチン接種後に発症する自己免疫疾患の作用機序には複数あり、今回紹介するのはその1つのケースですが、コロナワクチン接種後に肝炎を発症したケースレポートがいくつか発表されています。

著者のTunらはモデルナワクチン初回接種後に肝炎を発症したケースを報告し、もはや偶然ではないと結論づけています。

Immune-mediated hepatitis with the Moderna vaccine, no longer a coincidence but confirmed
Tun et al. (2022) J Hepatol
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8491984/

編集部へ
SARS-CoV-2ウイルスのPfizer-BioNTechおよびModerna mRNA-1273ワクチンによるワクチン誘発免疫介在性肝炎の可能性を示唆する最近の症例を興味深く読ませていただきました。しかし、COVID-19 のワクチン接種者のコホートが増加するにつれ、これまでに報告された症例は、年間人口 10 万分の 3 の発生率とされる自己免疫性肝炎の偶然の発症を排除できません。今回の症例は、モデナ初回投与後に肝障害が急速に発現し、2回目接種後に急性重症自己免疫性肝炎を引き起こした、ワクチンによる免疫介在性肝炎の決定的な証拠を示しています。

症例解説
47歳の白人男性で、以前は全く健康であったが、2021年4月26日にモデナワクチンの1回目の接種を受けた3日後に倦怠感と黄疸を指摘された。4月30日の検査では、血清ビリルビン190 μmol/L (正常0-20)、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 1048 U/L (正常10-49)、アルカリホスファターゼ (ALP) 229 U/L (正常30-130)、アルブミン41 g/L (正常35-50) であった。血球数、腎機能、国際正規化比 (INR) は正常であった。4年前の最終検査である肝機能検査 (LFT) は正常であった。パラセタモールの使用は否定され、アルコールの摂取は少ないと報告された。悪性腫瘍の除外のために行われた超音波検査、胸部、腹部、骨盤のCT検査、膵臓のMRI検査では、有意な所見は認められなかった。血清IgGは25.1 g/L (正常値6-16)、IgMは2.2 g/L (0.5-2) と上昇し、血清中の抗核抗体は陽性であった。HAV、HBV、HCV、HEV、EBVおよびCMVの血清学的検査は陰性であった。
黄疸は軽快し、6月25日にはビリルビンが69 μmol/L、ALTが332 U/Lに低下した。患者は2021年7月6日に2回目のモデルナワクチンを接種し (黄疸を接種センターに報告したにもかかわらず)、その数日後に黄疸が再発した。7月20日の血液検査でビリルビン355 μmol/L、ALT 1084 U/L、プロトロンビン時間 (PT) 18.4秒の上昇を確認した。2021年7月21日肝生検後、プレドニゾロン40 mg/日を開始し、当院に転院した。
診察では、深い黄疸があり、肝腫大を認めたが腹水はなかった。腹部超音波検査にて軽度の脂肪肝、門脈、肝静脈の流れは良好、腹水は認めず.肝生検の結果、急性活動性肝炎が認められ、広範囲の橋渡し壊死、著しい界面肝炎、好酸球を含むリンパ球形質性炎症、風船状肝細胞、多核巨細胞、エンペリポレシス (図1) などが認められた。線維化はごくわずかで、Ishak stage 1であった。組織学的な傷害のパターンは急性肝炎と一致し、自己免疫性肝炎の特徴、あるいは自己免疫性肝炎を誘発する薬剤性肝障害 (DILI) の可能性があった。
プレドニゾロン 40 mg/day を継続し、LFT は改善した (図1) 。プレドニゾロン投与で退院し、経過観察中も血液検査は改善を続け、PTは2週間で正常化した。

肝炎の症例は、他に医学的問題のない健康な男性に発生しました。mRNAワクチンによる黄疸の発症は、異常にはやかったのです。

図は組織学的所見です。肝生検のH&E染色断面から急性肝炎がわかります。 (A) 肝実質細胞はロゼット状に配列し (矢印)、胆汁うっ滞が見られます。(B) BN (ブリッジングネクローシス) は隣接する門脈と中心静脈を橋渡しする肝壊死領域です。肝細胞の消失による肝壊死が見られます。一部の細胞死はアポトーシス (プログラム細胞死) によるものです (矢印)。

自己免疫性肝炎は、自己免疫疾患による肝臓の障害です。血清トランスアミナーゼ、アスパラギン酸アミノ基転移酵素 (ASTまたはGOT)、アラニンアミノ基転移酵素 (ALTまたはGPT) が高値を示す、IgG抗体が高値を示すなどで診断されます。自己免疫性肝炎によく見られる自己抗体は、抗核抗体、 抗平滑筋抗体、肝腎ミクロソーム抗体1型、 肝可溶性抗原抗体、肝サイトゾル抗体1型等です。

図Cはモデルナワクチン1、2回目投与後のビリルビンとALTの推移とプレドニゾロンに対する反応性です。ALTはアラニンアミノ基転移酵素であり、肝炎の指標です。ビリルビンは黄疸により黄色く変色を起こす原因となる物質です。

論文中ではワクチン接種がスパイクタンパクと交差反応する自己抗体による自己免疫疾患が肝炎を引き起こした可能性が指摘されています。この症例以外にも、SARS-2-COV mRNA ワクチンで免疫介在性肝炎が疑われた7例が報告されています (ファイザー社製3例、モデナ社製4例)。肝臓組織学で同様の所見が見られ、インターフェース肝炎、リンパ質浸潤、線維化のない急性肝炎でした。薬剤性肝障害にみられる好酸球が3例にありました。7例ともステロイドによく反応しました。3例では、抗二本鎖DNA抗体などの自己免疫性肝炎の併発を示唆する特徴が見られました。

本症例は、モデルナワクチンに起因する二次的な免疫介在性肝炎が確認されました。患者はワクチン初回接種後に黄疸を生じたものの一度軽快しました。しかし、ワクチンを再接種した事により急性重症肝炎を引き起こしたものと考えられます。

次の記事では別の作用機序によって発症したと考えられる肝炎をもう1つ紹介します。



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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。


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