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レプリコンは細胞外小胞を介して細胞間感染し、増殖できる: virusesに掲載された論文から

日本人を対象とした新型コロナワクチンとして、今年の秋から日本国内での接種開始が予定されているレプリコンワクチン (自己増殖型mRNAワクチン、self-amplifying RNA vaccine) とは自己増殖型mRNAワクチンの事であり、抗原遺伝子に加えてRNA複製遺伝子を持った遺伝子製剤です。レプリコンワクチンのゲノムは元のRNAウイルスから、細胞の受容体に結合するタンパクを取り除き、ワクチンの抗原タンパクに置き換えたもので、いわば殻のないウイルスのような構造になっています。

コロナウイルスのスパイクタンパクは細胞の受容体に結合し、細胞への感染を媒介するタンパクです。例えばインフルエンザウイルスでは、ヘマグルチニンがスパイクタンパク質と同様の役割を持ち、また他のウイルスでは エンベロープ糖タンパクが宿主細胞への感染接着と感染を媒介します。ではそのような細胞への感染を媒介するタンパクを持たないレプリコンワクチンは細胞には感染できないのでしょうか?

獨協医科大学の増田道明教授のグループはレプリコンRNAが細胞に感染し得る事を培養細胞の実験系で証明しました。感染は細胞外小胞を介して起こり、しかもレプリコンRNAは感染細胞内で増殖できたのです。

Dissemination of the Flavivirus Subgenomic Replicon Genome and Viral Proteins by Extracellular Vesicles
Ishikawa et al. (2024) viruses
https://www.mdpi.com/1999-4915/16/4/524

細胞外小胞によるフラビウイルスサブゲノムレプリコンゲノムとウイルスタンパク質の拡散

エクソソームなどの細胞外小胞 (EV) は、様々なタンパク質や核酸を送達する事により、細胞間コミュニケーションにおいて生理的な役割を果たす事が示されている。また、ある種のウイルスに感染した細胞由来のEVは、全長のウイルスゲノムを伝達し、EVを介したウイルスの増殖をもたらす事が、いくつかの研究で明らかにされている。しかし、調製したEVに感染性ウイルス粒子が混入している可能性も否定できない。本研究では、日本脳炎ウイルスおよびデングウイルス由来のサブゲノムレプリコンを保有し、複製コンピテントウイルスを産生しない細胞をEVドナーとして用いた。これらの細胞の培養上清に含まれるEVは、様々な種類の他の細胞にレプリコンゲノムを移行できる事が示された。またEVは、HeLa細胞、K562細胞のCD33およびTim-1/Tim-4とそれぞれ相互作用した後、主にマクロピノサイトーシスによってレシピエント細胞に取り込まれる事も示された。本研究で用いた方法は感染性ウイルス粒子の混入がないため、フラビウイルスゲノムがEVによって細胞から細胞へ移行できる事が明確に示され、古典的な受容体媒介感染に加えて、この経路がウイルスの増殖と病原性に何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。

コロナウイルスは一本鎖プラス鎖RNAウイルスですが、この研究で使われたフラビウイルスも同様です。フラビウイルス科のウイルスは脊椎動物に広く分布し、多くは蚊やダニを介して感染します。代表的なフラビウイルスにはデングウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルスなどがあります。

著者らは日本脳炎ウイルス (JEV Muar株)、およびデングウイルス (DENV NGC株) からレプリコンを作成しました。レプリコンとは単一の複製起点から複製されるDNA分子またはRNA分子の事です。

これらのレプリコン (JM-PnLおよびDN-PnL) ではウイルスのエンベロープタンパクが取り除かれ、そして感染を検出するためのルシフェラーゼ遺伝子が導入されています。ルシフェラーゼは蛍の発光遺伝子であり、光により酵素活性を検出できます。そのため、レプリコン感染を光で定量化する事が可能となります。これらのレプリコンがエレクトロポレーションによってBHK細胞に導入され、レプリコン保有細胞株が樹立されました。

この研究で使われたレプリコンRNAは抗原タンパクの代わりにルシフェラーゼ遺伝子を持っていますが、それ以外の点ではレプリコンRNAの構造はレプリコンワクチンと同様です。

図1

細胞外小胞 (EV) は細胞間の輸送を担当し、細胞間コミュニケーションを媒介する小胞です。ほとんどの細胞種は細胞外小胞を産生し放出する事が知られています。細胞外小胞にはエクソソーム (直径約40~100 nm) に加えてマイクロベシクル (直径50~1000nm) などの構造も存在します。エクソソームは多胞エンドソーム (MVE) 内で形成され、MVEが細胞膜と融合する事で放出されます。一方、マイクロベシクルは細胞膜からの出芽によって形成されます。この研究ではエクソソームとマイクロベシクルを厳密に区別せずに、細胞外小胞として両者を共に取り扱っています。

実験ではレプリコン保有細胞株の培養上清から細胞外小胞が精製されました。電子顕微鏡の解析では細胞外小胞の直径は約40 nmであり、その形と大きさは一般的な細胞外小胞と一致していました (図1A)。

これらの細胞外小胞から抽出したRNAを逆転写し、PCR増幅するとルシフェラーゼ遺伝子やNS遺伝子が検出されました。つまり、レプリコン保有細胞株から放出された細胞外小胞はレプリコンRNAを含んでいました (図2B)。

図2

レプリコン保有細胞から調整した細胞外小胞をさまざまな細胞株に投与したところ、すべての細胞株でルシフェラーゼ活性が検出されました (図2A)。一方、培養浄清から細胞外小胞を除去すると細胞への取り込みは激減しました (図2B)。このようにレプリコンRNAの細胞間感染は細胞外小胞によって媒介されている事が分かります。

図3

細胞外小胞を投与した細胞をRNA複製抑制剤 (リバビリン) で処理するとルシフェラーゼ活性は低下しました (図3C)。さらに、そうした細胞のレプリコンRNAをqPCRで定量すると、RNAは時間とともに増加したのです (図3D)。この結果はレプリコンRNAを受け取った細胞内でRNAが増殖できる事を意味します。

著者らは更なる実験を行い、細胞間感染を媒介するタンパクや経路についても解析しています。RNAが細胞外小胞の細胞間感染を媒介するタンパクとしてはCD33、TIM1、TIM4などが関与しているようです。これらは細胞表面受容体であり、免疫系の貪食やシグナル伝達に多様な役割を担っています。また細胞への取り込みにはエンドサイトーシスが関与しています。

通常、ウイルスはウイルス粒子として特異的な細胞の受容体に結合して感染しますが、もう一つの経路として細胞外小胞によるウイルス感染の可能性も以前から指摘されていました。しかし、これまでの研究はウイルス感染細胞由来の細胞外小胞を利用しており、細胞外小胞に感染性ウイルス粒子が混入している可能性を排除できませんでした。著者らの実験はウイルスを使用していないために、レプリコンそのものが細胞外小胞を介して細胞に感染できる事を明確に示しています。

この研究は細胞の受容体に結合するウイルスタンパクを持たないレプリコンRNAが細胞間を伝播し、感染した細胞内で増殖できる事を証明した極めて重要なものです。レプリコンワクチンにも同様の作用機序が働く事が懸念されます。




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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。


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