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自己免疫疾患とワクチン

コロナワクチンと自己免疫疾患については、以前にも記事内で触れた事がありますが、ここでもう少し詳しく説明していきたいと思います。

遺伝子ワクチンはワクチンを接種した人間の細胞内でウイルスの遺伝子を発現させます。つまりワクチン接種後は体内の自分の細胞がウイルスの一部分を細胞表面に保有する事になります。体内の抗体が攻撃するのはウイルスだけではなく自分の細胞もであり、これは自己免疫疾患と同じ機構です。これは遺伝子ワクチンに特有な仕組みであり、抗体依存性自己攻撃 (ADAA、antibody-dependent auto-attack) とも呼ばれます。この事とは別にコロナワクチンが中長期的に見て「一般的な自己免疫疾患」を誘発するトリガーとなる事も懸念されます。

2021年9月に欧州医薬品庁 (EMA) がアストラゼネカ製ワクチンのまれな副反応としてギラン・バレー症候群を追加しました。ギラン・バレー症候群は他社のコロナワクチン接種の副反応としても報告されています。ギラン・バレー症候群は、急性、多発性の根神経炎の一つで、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる病気です。60%以上の例で発症に至る前に何らかの先行感染が認められます。ウイルスや、マイコプラズマ、カンピロバクター等への感染です。そしてワクチンの接種後の発症例も認められています。

このように、ウイルス感染やワクチンが引き金となって自己免疫病を発症する事が知られています。ウイルスやワクチンに対して作られた抗体の一部が自己抗原と反応する事があるためですが、これはコロナウイルスやコロナワクチンに限った事ではありません。今回の記事ではまず免疫系の基本事項を説明して、続いて自己免疫病とコロナワクチンについてお話していこうと思います。


免疫系は「自然免疫」と「獲得免疫」に大別されます。「自然免疫」は進化的に古くから存在する生体の防衛システムで、ヒトや他の動物だけではなく、菌類、昆虫、植物にも備わっており、そのセンサーや攻撃物質は、生物が生まれつき持っている遺伝子によるものです。多くの生物において、自然免疫応答ではToll様受容体 (TLR)などがその主なセンサーとして働き、外敵であるウイルスや細菌が共通して持つ構造パターンを認識して発動します。 例えばTLR3は二本鎖RNA (RNAウイルス複製中間体など)、TLR4はリポ多糖 (細菌の細胞壁の構成要素)、TLR5はフラジェリン (細菌の鞭毛の構成要素)などを認識します。ただし自然免疫のシステム自体はどのウイルス、どの細菌かも区別せず記憶もしない大雑把なものです。ヒトの自然免疫を構成する主な細胞は白血球やリンパ球で、敵を攻撃する際に通常は炎症反応が起きますが、 傷口で迅速に炎症を起こす事ができるように発動するまでの時間が短く、いわば常に臨戦態勢にあります。しかしながら獲得免疫のような特異性や免疫記憶を持っているわけでは無く、以前に戦った外敵を区別したり記憶していたりもしません。ヒトは10種類のTLR (TLR1~TLR10) を持ち、このたった10種類だけで多様な病原体を認識して対応します。ほとんどの哺乳動物では10から15種類のTLRが確認されていますが、哺乳類以外での極端な例では、ウニのゲノムには200種類以上ものTLRが見つかっています。ウニは種によっては長寿命で実に200年以上生きる事もあり、寿命と免疫の関係として興味深いモデルです。

「自然免疫系」に対応する英語は「Innate immune system」で、"innate"とは「生まれつき備わっている、生来の」といった意味です。日本語では「自然免疫」と意訳されますが、ややこしいのは「自然免疫」には本来「自然」という意味は含まれないという事です。つまり、例えば「(ワクチンからなどではなく) 自然に感染して得られる抗体」は自然免疫ではなく「獲得免疫」なのです。他の例で言うと、A型、B型などの血液型に対する抗体は、特別に免疫を受けなくても各自がもともと持っている抗体で「自然抗体」とも呼ばれます。多くの細胞の表面にある血液型抗原が血液型を規定するものですが、実は腸内細菌に対して作られた抗体が血液型抗原に交差反応しているのです。「自然抗体」も自然免疫によるものではなくて獲得免疫によるものです。そもそも抗体とは獲得免疫のアタッカー (戦闘要員) です。

例えるならば、自然免疫は生まれつき持っている少数の遺伝子だけでやりくりしますので、いわば生まれ持った素質だけでやっていく「天才型」です。これに対し獲得免疫の主要な遺伝子は生まれてから各自が遺伝子組換えによって手に入れるもので、各自が異なる多様な遺伝子を持ち、得られた多様な遺伝子を学習、記憶しながら運用する「努力型」と言えるでしょう。

脊椎動物に特異的な獲得免疫を担当する主な細胞は「B細胞 (抗体産生細胞)」や「T細胞」です。そして獲得免疫のアタッカーは「抗体」と「キラーT細胞」です。例えばウイルス感染の場合、初動の自然免疫でウイルスを排除し損なった場合に獲得免疫の出番が来ますが、その時ウイルスを直接攻撃するのが抗体です。もしそこでも抗体がウイルスを倒しきれずにウイルスが細胞に侵入したとします。その際にウイルスに感染した細胞ごと殺す役目を担うのがキラーT細胞です。こうした仕組みから抗体による免疫、T細胞による免疫はそれぞれ「液性免疫」、「細胞性免疫」と呼ばれます。

B細胞の「B」は、この細胞が最初に発見された器官がニワトリのファブリキウス嚢 (のう) (bursa of Fabricius) だった事に由来します。ファブリキウス嚢は鳥類に特有の免疫器官です。抗体の遺伝子はV、D、Jの3つの断片に分かれており、それぞれの断片ごとに多くの種類があります。これらの3つの断片が遺伝子組換えをする事により抗体遺伝子が完成します (V(D)J組換え)。これはいわゆる人工的な遺伝子組換えではなく、脊椎動物にもともと備わっている機能です。また抗体は軽鎖、重鎖の2つのタンパクでできており、V(D)J組換えは軽鎖、重鎖の両方で起こります。V、D、Jの組み合わせのバリエーションは膨大で、それだけで1億種類を超えますし、各自が百万種類以上もの抗体を持っています。これが抗体が多様である理由です。

T細胞の「T」はこの細胞が分化成熟する器官が胸腺 (Thymus) である事に由来します。T細胞には感染細胞を殺す「キラーT細胞」、B細胞やキラーT細胞を活性化する「ヘルパーT細胞」、抑制的に働く「制御性T細胞」があります。T細胞受容体遺伝子もV(D)J組換えによって多様化します。その結果できるT細胞受容体の中には反応性を持たないもの、自己抗原を認識するものも含まれ、こういった役に立たないT細胞、有害なT細胞は全体の9割以上にものぼりますが、そのような細胞はアポトーシスによる細胞自殺により除かれます。このようにして自己を攻撃しないが非自己を攻撃できるT細胞レパートリーが作られます。B細胞とT細胞は、攻撃対象に向けて活性化された後に一部が生き残り、長寿命を持つメモリー細胞となります。これが「免疫記憶」です。「多様性産生」「自己非自己の識別」「記憶」が獲得免疫の特徴です。

キラーT細胞もB細胞も活性化のためにヘルパーT細胞の許可が必要ですので、獲得免疫系は自己と区別して外敵のみを特異的に攻撃する事ができます。ちなみにHIV (Human Immunodeficiency Virus、ヒト免疫不全ウイルス) はCD4陽性T細胞 (ヘルパーT細胞) に感染しますが、HIVが免疫不全を起こすのは最終的にウイルスがヘルパーT細胞を枯渇させ、獲得免疫全体の機能を停止させるためです。

上記のように免疫系は自己分子を攻撃しないような仕組みになっており、それを「免疫寛容」と呼びます。ところが免疫寛容が破綻して自己抗原に対して免疫反応を示す事が原因となる疾病があります。それが自己免疫疾患 (自己免疫病) です。自己免疫疾患は自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応して攻撃を加えてしまう、免疫寛容の破綻による疾患の総称です。自己免疫疾患は、全身にわたり影響が及ぶ全身性自己免疫疾患と、特定の臓器だけが影響を受ける臓器特異的疾患の2種類に分ける事ができます。関節リウマチや全身性エリテマトーデス (SLE) などに代表される膠原病は、全身性自己免疫疾患です。多くの自己免疫疾患はなぜか女性に多く、性ホルモンが関与しているという説はあるもののその理由は未だ不明です。ちなみに「自己免疫」という言葉は自己免疫疾患を連想させるので、通常は良い意味には使いません。

いかなる自己分子に対する抗体も自己免疫疾患の原因となり得ます。実際のところ、正式な病名がついていない自己免疫疾患もあるでしょう。原因不明の病気の多くには隠れた自己免疫疾患も含まれると私は考えています。

次の記事ではコロナワクチンと自己免疫病の関係について詳しく触れていきます。



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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。


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