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初冬に想う

今、8年前と同じ場所に住んでいる。
行動範囲や付き合う人も、まるでその時の足跡を辿るかのように重なってきているから不思議だ。

当時、私はアトリエを始めたばかり。
商売の知識や作家としての下積みもほとんどなく、手探りで仕事を始めたばかりだった。
時には厳しいことを言われることもあって、その度に萎縮し、あまり順調とはいえなかった。今思えば、時期が少し早過ぎたんだと思う。
それでも、喜んでくれたお客さんはいて、今思い返しても悪くないと思える仕事もあった。

その後少しして夫と出会い、娘が生まれた。
神奈川-岩手-仙台と住まいを変え、時にはワンオペ育児をし、時には義両親と暮らし、実家で両親や祖母と暮らしたこともあった。

初めての育児でボロボロだったけど、神奈川の温かい海も、都内の快適さも、岩手のどこまでも続く雪原も、どれも好きだった。
そしてその間、ずっと絵を描き続けてきた。

今歩く仙台の街は、ケヤキと銀杏の落ち葉が舞って美しい。

私はまた、同じ場所に立っている。
あの時にはいなかった家族がいて、少なくとも人間としての経験値は上がった。作家としては、表現したいものを前よりすんなりと出せるようになったと思う。

自然と街並みとアートは、どこにいても何をしていても、私を支え、救い、導いてくれた。

小さな齟齬や傷、痛みは、社会で生きていく上では避けられないものだ。私はそれに耐えられなかったんだな。
でも、今の自分ならどうだろう?

「あの時と同じになるんじゃないよ」と、言われているような気がする。初冬。

©︎綿草ひろこ

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