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右翼の清潔と純潔へのこだわり【連載】人を右と左に分ける3つの価値観 ―進化心理学からの視座―

※本記事は連載で、全体の目次はこちらになります。第1回から読む方はこちらです。

 右翼が清潔や純潔にこだわることについては、枚挙にいとまがありませんが、たとえば、ヒトラーの伝記の著者は、彼が汚れや不潔さ、不純に異常なこだわりを見せた、と書き記しています。また、ナチスのリーダーも、ユダヤ人をよく病原菌や病気の媒介者に例えていました。
 世界の外国人嫌いのプロパガンダを見渡してみても、攻撃対象(たいていは少数民族)に「寄生生物や感染を媒体するもの」という烙印を押して、憎悪を煽ることを常套手段としています。たとえば、憎悪の対象となる集団を、ドブネズミやゴキブリなどに喩えることは、アルメニア人虐殺などあらゆる大量虐殺でよく用いられるレトリックです。ナチスはユダヤ人を「ドイツ人男性の清潔な体に巣食う邪悪な寄生生物」に喩え、フツ族の過激派は「ツチ族のゴキブリどもを根絶やしにしろ」と追随者を扇動したことからルワンダの大量虐殺がはじまりました。
 ゴキブリは脂ぎった体の表面で細菌を運び病原菌を拡散することから、病気を運搬し媒介するものを呼ぶ蔑称としては最適です。例えば、北アフリカの国、リビアの首都で動物学者がゴキブリのサンプルを調べたところ、97%のサンプルが27種類の潜在的な病原菌を保有していたことがわかっています(注34)。それらの中には、少なくとも6種類の抗生物質に耐性のある細菌が含まれていました。
 そもそも、大量虐殺の際に使われる「民族浄化(Ethnic cleansing)」という言葉の背景には、ある集団によって汚されている国家の純潔性を、異民族をきれいに一掃することで回復しようとする意図が隠されています。

 黒人差別法が存在していた時代の米国でも、米国南部の白人がもっとも嫌ったのは、黒人と同じプールに入ることでした。これは、北部でも同様で、たとえば、1930年代にはピッツバーグでアフリカ系アメリカ人が公共プールから引きずり出され、入りたければ病気がないことを示す健康証明書を出すよう命じられています。
 このような差別は、黒人に限りません。その一世代後には、西海岸のラテン系アメリカ人が同様の迫害を受けていますし、1950年代、ロサンゼルスのいくつかの地域社会では、ヒスパニック系アメリカ人が月曜日の「メキシコ人の日」しか泳ぐことを許されず、その日が終わると白人が利用するために水が入れ替えられていました。

注34. R. M. Elgderi, K. S. Ghenghesh, N. Berbash, Carriage by the German cockroach (Blattella germanica) of multiple-antibiotic-resistant bacteria that are potentially pathogenic to humans, in hospitals and households in Tripoli, Libya, Pathogens and Global Health 100(1) , 2006: 55-62.

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