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【ネタバレあまりなし】笑いのカイブツ鑑賞記録🖋

夢の中で怒りに任せて物を投げつけることがよくある。
でも力が上手く入らず、腕を振り切る瞬間に
ふわっと物を落としてしまう。
叫びだって相手に全然届かない。
なんて非力で無力なんだろう。
そうやって悔しさも怒りも情けなさも増幅し
いつもやりきれない塊だけが残る。
そんなシーンが何度もあった。
主人公ツチヤの全身全霊の憤りや悲しみの表現は映画を通してとても印象的だった。
夢以外でこの感覚がリンクすることがあったのか。これまでにない経験に、今でも不思議な気持ちだ。

喜怒哀楽をグツグツ腹の中にたぎらせて、なんとか形を保っている主人公に、100%共感できる人は少ないと思う。
場を上手い具合にならして、波風立てないようにやり過ごし、相手が気持ち良いように相槌を打って、目上の人を持ち上げる。
長いものには巻かれ、ゴマもする。
実際その方が楽なことを大半の人が知っているし、実行している。
正義や悪の基準は、その場の雰囲気で変わってしまうことも多くある。

鑑賞後、この話の元となった芸人さんとのエピソードもなぞってみて、解像度がぐっと上がった。
今作でも魅せる、仲野太賀さんのさりげなさとリアリティたるや。どこまでも日常に近いニュアンスを感じさせるプロだと思う。いそう!なんだけどしっかり物語の一員で。その境界線をいつも絶妙なバランスで演じている気がする。大好き。主演を演じた岡山さんは仲野さんを「演技のカイブツ」だという。業界の内も外も納得の人選なんだと思う。まじで大好き。

カイブツは、身近に潜んでいる
カイブツは、恐ろしいスピードで大きくなる
カイブツは、綺麗なところでは生まれない
カイブツは、鬱屈とした場所で静かに
カイブツは、呪われている
カイブツは、異様だ
カイブツは、かっこいい
カイブツが、羨ましい

映画が終わる頃、頑なに個を生きる(生きるしかない)主人公に憧れる自分がいた。
憧れているうちは、カイブツにはなれない。
なれるはずがない。
いや待てよ。カイブツは自分がカイブツであることに気付いているのか?

そんな
劇場でカイブツの息にかかる年明け
でした!

シンガーソングライター 波多野菜央

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