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熱のあとに 鑑賞記録 シンガーソングライター 波多野菜央


温泉は温かい。安心するし、心地が良い。
だけどそれはあくまでも表面だけの温もりで。

タイトルの「熱」が
主人公が言う「愛」ならば
それは温泉がもたらすような温もりではなく
体の中や細胞全てが反応する
衝動的な、カッと強い熱のことだと思う。
劇薬の作用のようなものかもしれない
食、睡眠、性欲
そういう生理的、本能的な欲求に近い感覚かもしれない

まだ記憶に新しい、2019年のホスト殺人未遂事件。
あの衝撃的な事件から着想を得たこの作品。
ヒロインの狂気は周りにも伝染していく。

刺したいほど愛する人がいるか?
刺されたいほど愛されたい人がいるか?
正直、彼女の気持ちが少し分かる。
どちらかと言うと彼女が唱える愛を信じたいし
その方が燃え上がる体質だ(知るかよ)
今後そんな目眩がする、盲目になる出会いが私にあるだろうかと、憧れさえする。

※もちろん犯罪を擁護する気は1ミリもない

6年間などの長い期間は全く見せず
瞬間瞬間の描写や空気感はスローモーションかと思うほど長尺で見せる。
この2つの”あえて”があることで
その場にいたら耐えきれず逃げ出したくなる重い異様な空気を、観客にも感じさせられるんだな、と。
そんなシーンが何箇所もあった。
私たちの多くはきっと、ギリギリだった

終始光のない目で沙苗を演じた橋本愛さん
大袈裟な演技とは別に、ああいった静かな狂気を表現できる役者さんは本当にすごい。
そして仲野太賀さん。
仲野太賀出演作品は、なにがなんでも鑑賞する誓いを立てている私(audible 課金勢!)
今回はいつにもまして超自然体な役柄だったが、ヒロインに呼応するように浮かび上がる陰の部分をしっかり見せてくれた。正気と狂気のバランスが1番凄まじかったのは仲野太賀さん!大好き!

それにしても
登場キャラクターほぼ全員が自分勝手!!
でもそこが人間らしい
気持ちを押し付けてしまうのが恋愛の一側面でもあるから。
どんな恋愛も人間関係も
100パーセント綺麗さっぱり〜!なわけがない
むしろ腑に落ちないことの方が多い
それ以外の要因だって複雑に絡んでくる

そんな風に、いい意味で最後までスッキリさせてくれない映画だった。

シンガーソングライター 波多野菜央

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