半径100m

ものがたり。全てフィクション。不定期気まぐれ投稿です。自分のつぶやきは三日で削除してい…

半径100m

ものがたり。全てフィクション。不定期気まぐれ投稿です。自分のつぶやきは三日で削除しています。読んでくださり、ありがとうございます。

マガジン

  • 創作大賞2024 応募作品

    note 創作大賞に応募した作品です

  • 1〜5分の物語

    1〜5分で読めるオリジナル短編小説を収録。 文体や読後感は、それぞれ違います。 1分で600文字くらい読めるかな、と適当に計算した時間です。

  • 童話と絵本

    童話(だと自分で思っている短い物語)& コラボ絵本。

  • 6〜10分の物語

    6〜10分で読めるオリジナル短編小説を収録。 文体や読後感は、それぞれ違います。 1分600文字くらいで読めるかな、と適当に計算した時間です。

  • 球体の動物園(2023年8月新作•連作短編)

    連作短編です。それぞれ文体を変えた独立した物語なので、どの章からでもお読みいただけます。 読んでいただけたら嬉しいです。 2023.8.26

最近の記事

エロを小さじ1 《第四話》

《第四話》カップル誕生の瞬間 「なにがセクシーなじゃがいもよ!」  春香は、ぶつぶつ言いながらA駅へと向かっていた。  あの液体を振りかけるだけで恋人が出来るなら、世界中の独身男女が買うでしょ。  そう思いながら、エロティックの素を吹きつけられた自分の髪や胸元の匂いをかいだ。  何の匂いもしない。匂いすらしない。  冬美に教えられた『モテる女になる! セクシーへの最短距離』という講習会に申し込んだとき、駐車場はありませんので公共の交通機関をご利用下さいと連絡があり、地方都

    • エロを小さじ1 《第三話》

      《第三話》冬美にかけられた魔法 「お姉ちゃん、騙されたと思って、絶対に講習会に行ってみて。私なんか、帰りの電車の中ですぐに声をかけられたんだよ。セールス以外で男に声かけられたのなんて、人生初だから」  春香の妹、冬美がそう言ったのが一週間前。  ここ最近、いやに冬美が浮き足だってるなぁとは思っていた。  子供の頃から「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と金魚のふんのようにくっついてきた冬美は、大学を卒業したとたん当たり前のように春香のマンションに引っ越してきた。  親元を離れての同居

      • エロを小さじ1 《第二話》

        《第二話》婚活とピンクのシャツ 「父さん、婚活したら?」  池上貴明が父親にそう言ったのは、二か月ほど前だった。  就職を機に家を出た貴明は、一人暮らしをする父親の顔を見に、ときどき実家に帰る。  母親は、貴明が中学一年生のとき、男をつくって家を出た。それ以来、父と息子、二人で協力して生きてきた。 「今週末、そっちに帰るよ」  電話をすると、おっ、美味いもんを用意するから夕飯は一緒に食べよう、と父は言った。  いつもそうだった。実家に帰るたびに、父は食事を用意してくれる。豪

        • エロを小さじ1 《第一話》

          《第一話》エロティックの素は、いかが?  『モテる女になる! セクシーへの最短距離』という講習会は、まるで料理教室のような雰囲気で進んでいる。  料理教室と違うのは、玉ねぎや人参やじゃがいもを切りながら「モテる女になるために最も重要な要素、それはセクシー」と講師が繰り返し言っていることだ。 「皆さん、世の中には外見が特に目立つわけでもないのに、常に異性を惹きつける女性がいますでしょう。皆さんは、そんな女性を観察したことがあるかしら? 私はあります。そして分かりました。そんな

        エロを小さじ1 《第四話》

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        • 創作大賞2024 応募作品
          4本
        • 1〜5分の物語
          20本
        • 童話と絵本
          7本
        • 6〜10分の物語
          7本
        • 球体の動物園(2023年8月新作•連作短編)
          4本
        • 11〜30分の物語
          2本

        記事

          目の穴

           わたしは、鳥です。  大きな梅の木、そのてっぺんが、わたしのお気に入りの場所です。  おじいさんとおばあさんが住む古い家の庭に、その木はあります。  わたしが木のてっぺんで羽を休ませていると、おじいさんとおばあさんは木の下でお茶を飲んだり、おにぎりやおまんじゅうを食べたりします。 「今年もきれいに咲いたなぁ」  おじいさんとおばあさんは、梅の木を見上げ、満足そうにほほえみ、顔を見合わせます。  わたしは、木の上から、そんなおじいさんとおばあさんを見るのが大好きでした。  

          ちりんブルドッグ

           僕がその男と出会ったのは、ちょうど一年前の春だった。  豊島区にある、風がそよっと吹いてもガタガタと揺れそうな木造二階建てのアパートで、隣の部屋に住んでいたのが、その男だった。 「木村と申します。よろしくお願いいたします」   大学進学のために上京した僕が引っ越しの挨拶に行くと、その隣人は、なんと犬の着ぐるみを着て玄関から出てきた。服には耳やしっぽもついていて、首には大きな鈴もぶら下がっていた。 「あ、学生さんかな? こちらこそよろしく」  犬の着ぐるみを着た隣人は、とても

          ちりんブルドッグ

          ピンクのキープS

           私の頭に、変なものが生えてきた。  にょきにょきにょきにょき、生えてきた。  あなたの頭にも、あるかもよ。 「ん? なに?」  それに気づいたのは、本日は晴天なりって繰り返し言いたくなるような、カーテンから元気いっぱいの太陽光が入ってくる朝だった。  鎖骨あたりまで伸びた私の髪は、朝起きるとぐちゃぐちゃに絡まっているから、毎朝、洗面所を占領して髪を丁寧にとかす。その朝も、女子高生の命である髪を整えていた。  そのときだった。頭頂部で、ブラシが何かに当たった。 「ん?」  

          ピンクのキープS

          かがみよ あなたよ かがみさん

          「ねぇ、お母さん。お父さんのスマホのパスコードなんて、分からないよね」  四十九日だった昨日、遺品の片付けを手伝っていた中学生の娘が、亡くなった夫のスマホを見てそう言った。 「暗証番号? 知らないわねぇ。スマホは解約して、そのまま処分するわ」  私の言葉に、娘は頷いた。 「お父さんスマホさぁ、エッチな写真がいっぱい保存されてたりするかもよ。処分するときは、そんな事も気をつけた方がいいよ」  父親が亡くしてからずっと暗い顔をしていた娘がそう言って笑ったから、私はほっとして、娘よ

          かがみよ あなたよ かがみさん

          飛行日和

          「春と風、良い季節になりましたな。特に今日の風はいい感じだ。風向きも良い」 「木村さん、本当にそうですね。春、そして風。なんだか桜色の花びらに乗ってどこまでも飛んでいけそうですね」 「長谷川さんは、随分とロマンチックなことを言いますなぁ」 「うふふ、今日みたいな日は、本当に飛行日和ですよね」  木村さんと長谷川さんは、草の上にぺたんと座り、空を見上げながら話している。  僕はその横で、飼い猫のスカーレットを膝にのせ、二人の話を聞いている。  一瞬、風が強く吹いた。桜なのか、薄

          飛行日和

          ばあちゃんと 稲穂と どら焼きと

          「私はいつ死んでもええんよ。やることは全部やったけん。思い残すことなんか、なんちゃないけんね」  ばあちゃんは、いつもそう言っていた。  僕の両親は二人とも中学校の教員で、やれ部活だ、やれ補習だと忙しく、僕は幼い頃から同じ敷地内にある祖母の大きな古い家に入り浸っていた。  農業を営むばあちゃんは、玄関からまっすぐに伸びる土間の床に座って、玉ねぎの根を切り落としながら、胡瓜の袋詰めをしながら、ネギを束ねながら、横に座って作業を見ている幼い僕に、手を止めることなく、たくさんの話を

          ばあちゃんと 稲穂と どら焼きと

          ほねかみ

           辰さんの骨を盗んだ。  辰さんの奥さんが、辰さんの足の骨を骨壷に入れている隙に。  他の参列者たちも足の方を向いていたから、辰さんの右手中指の骨をそっとつまんでポケットに入れた私のことなど誰も見ていない、と思った。 「主人がお世話になりました」  葬儀が始まる前、奥さんは辰さんの漁師仲間にそう言い、私にも同じ声色でそう言った。  この小さな漁村では、誰かの葬儀があると、村のほとんどの人が出席して最後までお見送りをする。だから、港の前で小料理屋をやっている私が火葬場に居ても

          ほねかみ

          【童話】迷子の鬼

           布団から出ていっちゃった。  いなくなっちゃった。  鬼は外、なんて言うから。  鬼は外。  あっくんの目に涙がうかんできた。  胸がぐぅと押されたみたいに痛かった。  節分の日。  あっくんの住む街では、福豆を自分の歳の数だけ十字路に置きに行く。  気をつけることは、ひとつだけ。  振り向くな!  振り向くと、鬼がいるから。鬼がついてくるから。鬼の世界に連れて行かれるから。  十字路の真ん中にそっと豆を置いたときから家に戻るまで、振り向いてはいけない。絶対に。 「五つ

          【童話】迷子の鬼

          このギリな世界で(涙)

           覚えてるか? あそこにあった中華屋。老夫婦がやってた子汚ねぇ店。   美味かったよなぁ。これで採算取れてるのかって思うほど安くてよぉ。俺は特に天津飯と回鍋肉が好きだったなぁ。  あの店にいつもネズミがいたの知ってるか? 見たことねぇ? 俺は毎回、めし食いに行くたびに見たぜ。  ああ? いや、ネズミがいるくらい、どうってことないだろ? 俺、ガキの頃、もっときったねぇ家でめし食ってたし。衛生面なんか、ネズミ見たぐらいで気にならなかったな。それを上回る、安さと美味さだったしな。

          このギリな世界で(涙)

          スタンド バイ ユー

          《賢治 Kenji》  僕は先輩から貰ったコンドームをポケットから取り出し、太郎に見せた。 「えっ、何? おぉ、それは」  驚く太郎の目の前で、コンドームの封を切り、中から湿った円形のものを取り出した。  僕も初めて見る避妊具の現物。へぇーこんなに薄いんだと思いながら、それを口にあて、息を吹き込んだ。半透明のコンドームが小さく膨らんだ。  僕はしゃがみ込み、膨らんだコンドームを目の前の川につけて水を入れた。端を結ぶと、小さな水風船が出来上がる。 「へぇ、これに、ちんこ入れる

          スタンド バイ ユー

          あんぱんあはは

           新しいパン屋さん、見つけたよ!   あんぱん求めて半径100km! 「ねぇ、あんぱん、好き?」  誰かにこう訊いたら、 「好き。大好き」「私は粒あん派」「私はこしあんだよ」  ほとんどの人が笑顔になって、こんな風に答えてくれるはずだ。  たまに、甘いものは苦手って言う人に出会っても「でも、お母さんが毎日のように食べてた」なんてことを、またまた笑顔になって言ってくれたりする。  そう、私は、あんぱんほど老若男女問わず愛されて、誰をも笑顔にする存在を知らない。メロンパンもカレ

          あんぱんあはは

          金髪な心意気

           私は公園のベンチに座って煙草を吸っていた。頭を逸らして、天に向かって煙を吐く。  明香、これからどうするつもり? 煙草なんか吸って。だから、あんたは……。 「だから、あんたは……」  朝、親が呑み込んだ言葉を、煙の向こうの青空からするすると引き寄せた。 「……ダメなんだ」  二か月前に離婚して、実家に戻ってきた。離婚のゴタゴタで精神的にぼろぼろで、希望も自信もなくなった。仕事を見つける気力もなく、実家でだらだらとした毎日を過ごしている。 「傷ついてるんだけどな。誰も慰めてく

          金髪な心意気